鶏の一生について知る

鶏肉は、一般に「若鶏」の名で売られている。「若く、柔らかく、おいしい」というイメージ的なネーミングと思われがちだが、実際、鶏の一生からみるとかなり若いうちに屠鳥されて肉となり、店頭に並べられる。なじみのあるブロイラーの例でいえば、私たちが食しているのは、ヒナとなって誕生してからわずか50日前後のもの。現在の食用鶏の一生が長くて2年前後、愛玩用に至っては10年以上という寿命を考えると、かなり若い肉を食べていることがわかる。ちなみに、ブロイラー導入直後の昭和40年代は、2キロの重さに育てるのに70日を要したという(現在の若鶏は2.5〜3キロ)。40年にわたる鶏の育種改良と飼料の改善で、より若いうちに、大きく育てられるようになったことになる。この肉用鶏(肉用として食べる鶏)の一生をまとめたのが、上表・左である。

鶏は6カ月でオトナに

鶏は産卵後、21日でヒナに孵り、成長して約6カ月後に産卵の可能なオトナ=親鳥となる。ブロイラーの場合、オトナになった白色コーニッシュのオスと白色プリマスロックのメスを交配させて卵を産ませるが、私たちが食べる鶏肉は、この一代雑種の卵が孵化して成長したもの。早いもので45日齢(体重2.5キロ)、遅いもので55日齢(同3キロ)である。オトナの年齢に達する前に、まさに「若鶏」で一生を終えてしまう。いっぽう、親鶏(白色コーニッシュと白色プリマスロック)はもう少し長生きをさせられ、およそ10カ月間卵を産み続けて1歳4カ月ごろにその役目を終える。若鶏に比べればずっと年をとり、本来はふくよかなメスも卵を産み続けたことで肉は固く、食用に適さなくなっている。そこでオスもメスも肉を食べるのではなく、だし材料として再利用。料理店などで日常的に使っている老鶏、爪鶏、丸鶏と呼ばれているのがそれである。肉もたっぷりついた1羽丸ごとを使うため、うまみの濃いだしが得られるありがたい材料なのである。

採卵鶏で生かされるのはメスだけ

ところで、鶏には肉用鶏とは別に、食用の卵を産ませる鶏=採卵鶏がいる。昔は1羽の鶏で卵を産ませ、肉も食べる卵肉兼用種が多かったが、戦後は肉用、卵用とそれぞれの用途に合わせた品種改良が進められてきた。現在、卵の中で市場の大半を占めているのが白色レグホンの卵。この鶏の一生が上表・右である。卵がヒナに孵り、そのヒナが産卵可能な親鶏に成長するまでに要する期間は肉用鶏と変わらない。異なるのは、採卵鶏として飼育されるのがメスだけであり、採卵期間が1年半強と肉用鶏よりもやや長い点。白色レグホンは無精卵が基本なので、卵を産むメスだけが必要とされ、オスとして生を受けたヒナは誕生直後に間引かれてしまうのだ。残ったメスは6カ月齢から2歳過ぎまでひたすら卵を産み続け、この卵を私たちがいただく。実際は2歳を過ぎてもまだまだ卵を産む能力はあるが、産卵数がピークを過ぎて下降していくため、早々と若い世代に役目を譲るのである。お役御免となったこのメスもまた、肉用鶏と同じく再利用される。肉団子、チキンハンバーグなどのレトルト、冷凍食品やだし・スープ材料など、さまざまに加工される。こうして、肉用鶏も採卵鶏もまったく無駄なく調理され、一生をまっとうするのである

text 河合寛子 illustration 虎尾隆

本記事は雑誌料理王国2009年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2009年2月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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