食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

「つくる」も含めた食体験を提唱する 「日本ガストロノミー協会」会長 柏原光太郎さん

「日本ガストロノミー協会」会長柏原光太郎さん

1.ゲストとの交流のなかで成長できる

料理のジャンルを問わず、今はコース料理やおまかせ料理が主流です。ゲストにしてみれば、あれこれ考えなくてすむのでラクではありますが、自分に合わせてもらえないという寂しさみたいなものも感じるのではないでしょうか。

その意味では、アラカルトのある店はいいですね。店にとっては、効率的ではないでしょう。食材を無駄にすることも、少なくないかもしれません。でも、アラカルトがあれば、ゲストとの会話は確実に増えると思うんです。
「今日のおすすめは何」
「○○のいいのが入りましたよ」
「今日は、ちょっと疲れていてさ」
「だったら、○○なんていいんじゃないですか」

そんな会話をしながら、ゲストの食べっぷりを観察しながら、自分自身の料理人としての技や感性を磨いていくことができると思うんです。そうやって、料理の質を上げていくことができるんですね。

神楽坂に移転したばかりの「ほそ川」の細川敦史さんは、そんな客との対話のなかで成長している人です。ほそ川にはアラカルトが50品くらいあるんですけれど、「今の季節なら何があるのかな」と考えながら店を訪ねる楽しみがありますね。

「日本ガストロノミー協会」会長柏原光太郎さん
「これだけの情報社会のなかで、ブレることなく自分の道を貫き通せる料理人も、モテる料理人のひとつの要素だと思います。迷いは、やっぱり料理に出ますから」と柏原さんは言う。

2.横につながりを広げ、自分を高められる

今はSNSなどの発達によって、横とつながりやすくなってきています。ですから、分からないことがあれば、パッと誰かに聞くことができる。昔は、先輩や親方に認められて、聞くしか解決方法はありませんでしたけれど、今は教えてくれる人を求めようと思えば、いくらでも求められる時代なのです。成長の機会は、昔よりずっと均等に与えられていると言ってもいいでしょう。それを上手に活かせるシェフは、魅力的なシェフになりますよね。

例えば、「後楽寿司 やす秀みつ」の綿わた貫ぬき安やす秀みつさん。彼は、寿司屋を営んでいた父親の元で修業をした寿司職人なのですが、この先ずっと店を続けていくためには、自分がもっと成長しなければいけないと考えたんですね。そこで綿貫さんはさまざまな寿司屋を食べ歩き、いろんな人に意見を聞いて、自分の店がどうやったらもっと客を呼べる店になるかを考えたんです。酢飯ひとつにも試行錯誤を重ねる。客単価も熟考する。とても勉強熱心で、教えられ上手。応援したくなる人物です。

では、どうして綿貫さんはみんなに教えてもらえるのでしょうか。それは、彼の情熱が具体的なものだからです。ただ、「繁盛店になりたい」ではなく、「こんなお客さんに愛されるこんな店になりたい」というイメージが綿貫さんにあるから、みんなアドバイスできるのです。もちろん勉強熱心なことが一番ですが、きちんと具体化することが、教えられ上手になる秘訣だと思います。

日本ガストロノミー協会
「日本ガストロノミー協会」のオープニングイベントに集まったメンバーたち。「食べに来ても、つくりに来てもいい」という自由な会合だ。

3.大店の店を仕切って、料理に専念する

僕は、独立することだけがすべてではないと思っています。オーナーシェフになれば、料理だけを考えているわけにはいきません。資金のことや従業員教育など、さまざまなことを考える必要が出てきます。それは、誰にでもできることではないと思うのです。
「自分には難しいな」と思ったら、大きな店に入って、料理に専念する道を選ぶのもひとつの方法だと思います。実際、ふらりと入った大きなレストランで、「なんでこの料理はおいしいんだ」と感動することも少なくありません。

大きな店なら、高級な食材を使うこともできるでしょう。スタッフも多く、互いに切磋琢磨できる料理人もいるはずです。そんな環境のメリットを最大限に活かして、自分の腕を磨いていくのも、決して悪いことではありません。

30代で独立しなくてもいいんです。焦ることはありません。

例えば、「てんぷら山の上 Ginza」の寺岡正憲さんは、今39歳ですけれど、大店で真剣に料理と向き合っています。その姿はとても真摯で、彼も応援したくなる魅力的な料理人のひとりですね。


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