2022年版「アジアのベストレストラン50」をふり返る(後編)


2022年版「アジアのベストレストラン50」をふり返る(後編)

〜関西勢の存在感/食の社会課題に向き合うアワード

レストラン業界の初春を彩るイベント「アジアのベストレストラン50」。今年も去る3月29日に2022年版のランキングが発表され、長谷川在佑氏が率いる東京「傳」が1位を獲得したほか、日本は11店がランクインした。ここでは前・後編の2回にわたって今年のランキングを概観。後編の今回は、関西から新たにランクインした2店のコメントと、このアワードが社会課題にどう向き合っているかについて伝える。(前編はこちら

今年50位以内に入った日本のレストランは以下の通り。
1位 『傳』(東京)
3位 『フロリレージュ』(東京)
6位 『ラ・シーム』(大阪)
11位 『茶禅華』(東京)
13位 『オード』(東京)※Highest Climber Award
14位 『ヴィラ アイーダ』(和歌山)※初登場、Highest New Entry Award
15位 『ナリサワ』(東京)
17位 『セザン』(東京)※初登場
36位 『ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ』(福岡)
42位 『エテ』(東京)※初登場
43位 『チェンチ』(京都)※初登場

※50位以内全レストランのランキングはこちらを参考に https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000055087.html

和歌山「ヴィラ アイーダ」、京都「チェンチ」。
東京以外のレストランも評価を集める

今回、東京以外のレストランで50位以内に入った店は11店中4店。2016年からランクインしている福岡「ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ」、同じく2019年からの大阪「ラ・シーム」に加え、今年は和歌山「ヴィラ アイーダ」、京都「チェンチ」が加わった。

ヴィラ アイーダとチェンチは、ともに地方で存在感を示す店として既に知られていたが、今回の「アジアのベストレストラン50」で改めて実力が評価されたかたちだ。その当事者たちに話を聞いた。

2022年版「アジアのベストレストラン50」をふり返る

地方では一人で頑張るのではなく、周りとのつながりがいっそう大事

ヴィラ アイーダは和歌山県にて自らの畑を耕し、その収穫物や周囲の生産者からの産物を出発点に料理を創作するレストラン。オーナーシェフの小林寛司氏とマダムの有巳氏の2人でクリエーションに取り組む。

今回の14位ランクインについて寛司氏は「嬉しいしか出てこない」と感無量。オープンから今年でまる24年が経つ中、「今まで何度も店をやめようと思ったこともあったけれど、仲間のシェフたちに励まされて思いとどまりました。彼らに感謝したい」と話す。有巳氏も、「アイーダは2人でやっている店ではあるけれど、周りの生産者さんがいろいろ教えてくれて続けることができました。今回は、一緒に喜んでくれる地域の人たちに良い賞を持って帰れるのが何よりも嬉しい」と周囲への気持ちを語る。

ヴィラ アイーダの快挙は、地方でレストランを営む人たちに大きな可能性を見せることにもなった。その先駆者として有巳氏は「地方で一人や夫婦でやっているだけでは多くの人には届きません。応援してくれる人たちが必要です。地元の方々や全国の仲間のシェフとのつながりが大事になります」と話す。「そうしたつながりがあるから、真面目にやっていたら見てくれるのだと思います」。

料理は国境も政治問題も超えて笑顔を作る

一方のチェンチは今年オープン8年目を迎える、京都の街中にあるレストラン。オーナーシェフの坂本健氏は創造性にあふれる料理で高い評価を得るとともに、一次産業の従事者を盛り立てるなど、料理人の意義を広げる活動にも積極的に取り組む。

今回のランクインについて、「とにかく驚きました。店全体を見るアワードということで、スタッフと一丸でやってきたことが評価されて嬉しいです」と坂本氏。「アジアのいろいろな国にシェフの友達がいるので、コロナの前は彼らと海外でイベントを開催することを純粋に楽しんでいました。コロナになってからは、そうした経験の上で、改めて国内のお客さまにしっかりと向き合っています」と、コツコツと重ねてきた交流の上に今回のランクインがあったと推察する。

また、このアワードへの思いを坂本氏はこう語る。「料理はスポーツと一緒で、国籍も文化も政治的問題も越えます。これからもたくさんの国の人の笑顔や平和につながるレストランのあり方、料理人のあり方を追求したいです」。そんな坂本氏の広い視野、実直な姿勢が、ますます多くの人の応援を呼んでいる。

料理人が食の社会課題に対してできること

小林氏夫妻や坂本氏をはじめとする今回ランクインしたシェフたちは、自らの料理に注ぐのと同等の情熱を、レストラン業界の発展や課題解決にも注いでいる。そんな新時代のシェフのあり方は、今回の授賞式に先立ち開催された「#50Best Talksトークショー」にも強く現れていた

たとえば「サステナビリティ」がテーマのトークに登壇したフロリレージュの川手寛康氏は「自分は東京でレストランをやっているので、都会の方法でサステナビリティの実現をめざしたい。具体的には、サステナビリティにあまり興味のない大多数の人に、考えるきっかけを作りたい」と話す。「自然豊かな地方に食事に行く人の方が、都会で過ごす人より自然環境の保護や持続性に対する意識が高いと感じています。だからこそ、都市の人に訴えかけるのが、都市型のシェフができることだと思う」。

また同じトークに登壇した小林氏は「地方のシェフは、できるだけ地域のコミュニティとつながって環境に配慮した食のあり方を継続していくのが大切」と話す。そして都会と地方のシェフの協力についても言及。「僕も、川手さんなど都会のシェフと仲良くさせてもらっていますが、そうすると地方と都会で情報共有できる。次の世代の若いシェフたちも、そういう友達を持ってやっていくことが大事かなと思います」。

今の時代、料理人の社会貢献はトップシェフであれば取り組んで当然、というのが世界の共通認識だ。「でも実は日本は非常に遅れている」と川手氏は指摘。「海外のシェフの話を聞くと、素材一つとっても、それが公正な方法で作られ、流通したかを重視する。つまり利他的であることを優先します。日本はまだまだ、自分単体の思想や利益を大事にする。利己的なんです。まずは、広い視野での考え方を『知ってもらう』活動を仲間としていきたい」と語る。

世界の潮流に向き合うこのアワードを通じて、日本の料理業界は目指すべき指針を知り、共有し、結束を強めることができる。ベストレストラン50は、食に関わる人間としての責任を確認する場でなっているのだ。

text:柴田 泉
東京多摩地区生まれ、横浜育ち。大学で美術史を学んだのち、食の専門出版社「柴田書店」に入社。プロの料理人向けの専門誌『月刊専門料理』編集部に在籍し、編集長を務める。独立後は食やレストランのジャンルを中心とするライター・編集者として活動する。

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