「アルケッチャーノ」鯛とオカヒジキのMidori色したアクアパッツァ


山形・庄内浜の恵み、漁師の技

山形県の庄内地域にそびえたつ2000メートル級の名山、鳥海山と月山。その伏流水が流れる川は流れが速く、庄内浜には美しい海が広がる。更に、複雑に流れ込む水質や水量の違いから、4種類の海域を持つ浜でもある。まず、海抜0メートルから山頂までの距離が日本一短く、別名「水の山」と呼ばれる鳥海山の伏流水は吹浦沖に湧き出し、その水は冷たい。また、最上川河口にある酒田港の沖には大量の真水が流れ込み、その流れが緩やかに広がり、砂地が続く海域となっている。そして、由良漁港、小波渡漁港、鼠个関港の沖は川の流入が少なく、比較的塩分が濃い。このように変化に富む海域ゆえに、食べられる魚介類は138種類と、実に多種多様である。

しかし、庄内浜の魚介がおいしい理由は、恵まれた環境によるものだけではない。遊佐町吹浦から鶴岡市鼠个関までの約80キロメートルの庄内浜には、18の漁港が点在する。各漁港では、多様な魚種に対して、多彩な漁法を生み出し切磋琢磨し、工夫を凝らしているのだ。

たとえば最南端にある鼠个関港。底引き網漁船はすべて「船上衛生管理システム」を取り入れている。獲ってすぐに海水を冷却した水槽に入れ、その後、氷を入れた発泡スチロールに箱詰めされ、港へと運ばれる。そのため、圧倒的な鮮度を保ったまま出荷されるのだ。また、小波渡漁港の鈴木重作さんは、庄内でいち早く船上での処理技術を研究し実践したひとりだ。獲った魚をすぐに船上で活締め・神経抜きし、低温保存することで、鮮度を保つだけでなく、保存できる期間が長くなり"魚の熟成"も可能になる。「アル・ケッチァーノ」奥田政行シェフは「調理法の幅まで広がった」と言う。

「庄内の魚の味を確かめたら、浜の港それぞれによって味わいが違う。各々の磯の香りを活かすためには、極力手をかけずに人の匂いをうつさない。それが、私流の庄内浜の魚介料理なんです」とシェフ。「食の都」庄内で旨いのは米、野菜だけではない。庄内浜の恵みはもちろん、大海原と向き合う漁師の志と技が「食の都」を支えている。

四季折々に獲れる庄内浜の魚の旬
日本の中でもっとも四季がはっきりしている地域とされる庄内。獲れる魚介類は、季節によってさまざまで、年間を通して獲れる138種類のうち、代表的な魚の本当においしい旬の時期を上のカレンダーで紹介。

鼠ヶ関港

底引き網漁船には「船上衛生管理システム」を導入。「空気に触れないように船上で箱詰めをする。12月、1 月になったら、もっと赤く甘いエビが獲れるんです」と、鼠ヶ関漁業青年会会長の佐藤洋生さん。紅エビ(ホッコクアカエビ)漁は、飛鳥の南、鼠ケ関港の北西約30キロの沖合で行われる。庄内浜は全国でも5 本の指に入るホッコクアカエビの一大産地。

紅エビ( ホッコクアカエビ)

なたね油で和えた鼠ヶ関の紅エビと赤い実
エビの甘味に、ソラマメの甘味となたねオイルのナッツ香を加えた。「新鮮だからそのまままでも美味しい。だから、できるだけ甘味を活かしました。季節によっては、リゾットにしてもいい」と奥田シェフ。

小波渡漁港

第二十八長寿丸の鈴木重作さんは、20年前から船上処理を取り入れた先駆者だ。ほんの10秒ほどで活締め・神経抜きをやってのける。獲ってから30分ほどの手当ての仕方によって、鮮度が1 週間から10日間も変わる。「それだけスパンのある食材を料理人に提供できる」。タイは活締め・神経抜きにこだわるのは縁起のいい意味合いも大切にしたいからだ。「そういう配慮が、庄内人っぽい」と奥田シェフ。

由良漁港

この海域は海流の影響を受けやすく、さまざまな種類の魚介類が獲れる。この日はワラサが大漁だった。50年間ほぼ毎朝この港で定置網漁船に乗る伊関豊さんは、活締め・神経抜きをいち早く取り入れた。「網を手で引くことによって魚へのダメージも少なくなる」と伊関さん。奥田シェフは今回、伊関さんの船で、初めて網を引いた。

「庄内浜で獲れる魚は、磯の香りが活きています!」
アル・ケッチァーノ 奥田政行さん

【レシピ】鯛とオカヒジキのMidori 色したアクアパッツァ

鳥海山の軟水を使い、タイの砂ずり部分のダシをとった。ダシの喉越しをよくするため、アルカリ性の強いセロリを合わせた。ルッコラのペーストでコクを出しオカヒジキを活かす。オカヒジキとタイの相性は抜群。

材料(1人分)
鯛のカマ…1/2 匹分/タイ( 切り身)…35ℊ/セロリスライス…少々/水、塩、オカヒジキ…各適量
◦ルッコラペースト
ニンニク…25ℊ/ピュアオリーブオイル…100㏄/松の実(オーブンで軽く焼いておく)…80ℊ/洋クルミ(オーブンで軽く焼いておく)…15ℊ/ルッコラ…50ℊ/精製塩…2ℊ/ブラックペッパー…1ℊ/ピュアオリーブオイル(調整用)…適量

作り方
1.ルッコラペーストを作る。アルミのフライパンにニンニクのみじん切りとピュアオリーブオイルを分量の1/3入れて、白くなるまで火を通す。
2.松の実とクルミをミキサーに入れ、1のフライパンの中身を加えてミキサーにかけた後、冷蔵庫で冷ましておく。
3.ルッコラを包丁で切りミキサーに入れる。塩を加え、残りのピュアオイルを入れてミキサーを回す。2と混ぜ合わせ、塩、コショウで味をととのえて完成。
4.新鮮な鯛に塩をして、冷蔵庫で6時間おく。
5.カマを鍋に入れ、月山の水をヒタヒタに注ぐ。火にかけて、アクが出たら丁寧にとる。カマに火が入ったら、取り出して保温する。
6.5の湯の温度を52℃にして、鯛の切り身を入れる。身に火が入ったら、取り出して保温する。
7.6の湯を沸騰させ、アクを取り、セロリスライスを入れて塩をし、おいしいダシを作る。ここに3のルッコラペーストを入れて溶かし、味をととのえる。
8.5のカマと6の身を7に入れて味をなじませる。
9.8を皿に盛り、ゆでたオカヒジキを上に飾る。

【レシピ】由良のワラサと月の雫の塩とオリーブオイル

「アル・ケッチァーノ」のコースで最初に出すひと皿。青草の香りがするシチリアのオリーブオイルを使用。「由良から酒田沖のワラサはウリの香りがする。青草の香りを合わせるとメロンのようになる」。

材料(1人分)
ワラサ…1切れ/月の雫の塩(満月の満潮に汲みあげた海水で作った塩)、同じ海域の塩で苦味と酸味のある塩、青草の香りのエクストラヴァージンオリーブオイル…各適量
※満月の時は、干満の差が大きく潮流が激しくなり、海水に含まれるミネラル分が多くかつ多様である。
※ワラサはブリの小さいもの

作り方
1.ワラサを適当な大きさに切って、皿にのせる。
2.1のワラサに塩をふる。
3.2に青草の香りのエクストラヴァージンオリーブオイルをかける。
※由良から酒田沖のワラサはウリの香りがするので、青草の香りのオリーブオイルをかけるとメロンのように変わる。

料理王国=取材、文 富貴塚悠太=撮影 

本記事は雑誌料理王国242号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は242号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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