流行る店の作り方。大阪市「リンコン・カタルーニャ」の場合


大阪の下町商店街にスペインの風を吹かせる

京阪電車の高架下に飲食店が軒を連ねる大阪・京橋東商店街。その一角で、花屋を併設した独自の業態で営業している店がある。09年2月、隣接するスペインバル「ブラン」(2005年開業)の2号店としてオープン。以前営業していたしゃぶしゃぶ店が閉店するやいなや、物件確保に走ったというオーナーの堂後康さん。

「並びで同業店を出すなんて無謀だという周囲の声もありましたが、『ブラン』は南スペインの料理が中心だから、こっちは北の料理を出したらいいのでは?と思って」と話す。開店準備のため、「ブラン」の料理人だった現シェフの石橋篤さんを、バルセロナにある堂後さんの友人の店に修業に出した。

心がけているのは下町らしい気さくな接客

料理用語が少しわかる程度でスペインに渡った石橋さん。大バコのレストランだったので、努力の甲斐もあり仕事を任され、着実に腕を磨いていった。そんななか、同店で働いていたカタルーニャ出身の女性料理人、スサーナ・ジュリア・マグリニャさんにスペイン語を習ううちに恋に落ちた。約2年間の修業を終えた石橋さんは、料理人であり、後に妻となるスサーナさんとともに帰国することとなった。

そして、スサーナさんと石橋さんのダブルシェフで、カタルーニャ地方の郷土料理を中心に提供することが決まった。コシナ・ヌエバ(創作料理)もいいけれど、デイリーに食べられる家庭の味で、まずスペインを知ってほしいと堂後さんは考えたためだ。 

店の雰囲気は、居酒屋感覚で立ち寄ってもらえるような気楽さを重視。2階建て15坪の店を全面改装し、1階はカウンターとテーブル席でフラワーショップを併設。2階はグループ客のためのテーブル席にした。花を売るのは、バルと並んでフラワーショップが多いバルセロナの街をイメージしたからという。

開業投資額は1500万円。什器なども含む内装費用を1000万円に抑えたのは、内装に力を入れすぎないよう意識したからだ。

「バルはレストランと違って、堅苦しくなく、ふらっとおしゃべりしに来るような感じのほうがいい」と考え、あえて座り心地にはこだわらず、背もたれなしの丸椅子を選んだり、ワイン樽をテーブル代わりにした。こうした店づくりが、下町情緒を醸し出し、立ち飲み店が多い京橋東の土地柄にぴたりとハマった。早い時間は会社帰りの人、その後は近隣客、深夜は同業者という幅広い客層も得た。

まるでスペイン人のようにラテン的な風貌で、スペイン滞在で得た現地情報も交えて自らサービスに立つ堂後さん。お客を迎えるとき、すぐに「いらっしゃい」と言わないよう心がけているという。「一度でも来てくれた人なら、『あ〜っ(覚えてますよ!)』と、手を挙げて迎えるほうがうちらしいから」。

また、なるべくお客と直接会話ができるように黒板のメニューも、日本人に馴染みのない「フィデウア」(パスタのパエリア)などの郷土料理も詳しい説明文は一切ナシ。あえてワインリストも置かず、時にはスペインの地図を広げて、身振り手振りで説明もする。だからこそ、お客との距離はぐっと縮まり、帰りには「おもしろかったわぁ」と笑顔になるという次第。次もまた、「京橋ならあそこ行こか」と思わせるインパクトの勝利である。

繁盛ポイント

  1. スペイン人の女性シェフの料理
  2. 話上手で明るいオーナーの接客
  3. 花屋併設でバルセロナの雰囲気を演出

text by Yuka Kinbara photographs by Manabu Sugita

本記事は雑誌料理王国2010年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2010年1月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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