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【芸術家たちの食卓】シャルダンの「パテ・ド・カンパーニュ」


ジャン・シメオン・シャルダンのパテ・ド・カンパーニュ

ジャン・シメオン・シャルダンは1699年、パリで生まれた。父親は王室用のビリヤード台を作る指物師で、息子のシャルダンは家業を継ぐべく育てられた。しかし、幼い頃から絵の才能を発揮したシャルダンは、ほぼ独学で画法を学び、二十歳の頃には、職人画家、静物画家として一本立ちをする。

甘美で享楽的なロココ主義華やかな時代の中で、シャルダンはパリに生きる中産階級の家庭の台所や慎ましい食卓、客間の風景を描いた。落ち着いたトーンと、調和のとれた色彩で構成される彼の絵は、市民だけでなく、王侯貴族にも愛される。とりわけ当時のフランス国王ルイ15世は、彼の絵を好み、高額で多数購入し、ルーヴル宮内に画家のための住居をあてがうほどであった。

正統な美術教育を受けなかったシャルダンは、王立美術アカデミーで教えられる、型にはまった方法論ではなく、自分のスタイルを築いていた。彼の描く絵には、日常品や身近な人々の様子が穏やかに描き出されている。それらに寓意や象徴を潜ませることもなく、彼は見る者の目を純粋に喜ばせることに徹した。作品「オリーブの瓶」にも、そんな彼らしいモチーフがびっしりと並んでいる。やわらかな光を受けたオリーブの緑色の瓶とワイングラス。果物はみずみずしく輝き、食への幸福感を誘う。画面左にずっしりと描かれた巨大なパテは、異様な存在感を放っている。

肉や魚、野菜やキノコとさまざまな材料をミンチ状にして蒸し焼きにするパテ。保存がきき、台所にある材料で簡単に作ることができるため、当時のフランスでよく作られていた。作り方が簡単でも、フランスの台所ではおいしく仕上げる気配りを忘れることはない。濃厚なレバーを混ぜ込み、豚肉、鶏肉を合わせ、粘りがでるまでしっかりもみ込む。タマネギやニンニクを加え、肉がかたくならないように、火入れは低温でゆっくり。ずっしりと味わい深いパテは食卓の主役となったにちがいない。

丸眼鏡をかけ、キャンバスに向かう画家。職人としてスタートしたシャルダンは、自分の愛したものを実直に描き出した。静謐な画面から伝わってくる画家の眼差しを受け止めれば、彼がどんな食卓を愛したか、それすらも想像できるから不思議である。

ジャン・シメオン・シャルダン「オリーブの瓶」
1760年 油彩、カンヴァス71㎝×98㎝
ルーヴル美術館(フランス)蔵

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【レシピ】ジャン・シメオン・シャルダンのパテ・ド・カンパーニュ

パテの肉から溶け出た透明なジュレをソースがわりに、オリーブも添えて。ロココ時代に生きた中産階級の人々の暮らしを愛したシャルダンらしい食卓だ。

材料 (テリーヌ型25㎝×8㎝×高さ6㎝1台分)

鶏レバー 140g
鶏ひき肉(ムネ) 400g
豚ひき肉 400g    
タマネギ 200g
ニンニク 1片
卵(M) 2個
スライスベーコン 200~250g
塩 適量
コショウ 少量
クローヴ 少量
ローリエ 適量
タイム 適量
ブランデー(マデラ酒でも) 30ml

作り方

  1. タマネギ、ニンニクをフードプロセッサーにかける。
  2. 1に血抜きした鶏レバーを入れ、撹拌する。
  3. 2に鶏ひき肉、豚ひき肉を入れ、卵を加える。重量を量り、重量の1.1%の塩を加える。
  4. 3にコショウ、クローヴ、ブランデ ーを加え、粘りが出るまでよくもむように混ぜ合わせる。
  5. テリーヌ型にベーコンを敷きつめ、 4を空気が入らないように入れる。
  6. 5の上の部分をベーコンで覆い、その上にローリエ、タイムを置く。
  7. 6をアルミホイルで覆い、180℃のオーブンで約1時間半、湯煎にかけて焼く。
  8. オーブンから出し、ホイルの上から重しを載せ、平らにし、冷ます。
  9. 冷蔵庫で冷やす。

Jean-Baptiste Siméon Chardin
フランス・パリ生まれ、ロココ時代のフランスの画家。穏やかな静物画、家族的な風俗画を得意とし、明快な構図、色彩や明暗表現は、市民、王侯貴族にも深く愛された。


文・料理 林 綾野
キュレーター。美術館における展覧会の企画、美術書の執筆、編集に携わる。企画した展覧会に「パウル・クレー線と色彩展」など。『ゴッホ旅とレシピ』『モネ庭とレシピ』、近著に『フェルメールの食卓』(すべて講談社刊)。

北村美香・構成 竹内章雄・写真(料理)

本記事は雑誌料理王国2011年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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