フランス料理が取り込んだ中国料理の伝統の調理法【蒸】の技!


いま、注目する中国料理の若手は誰か? という話題に、必ずといっていいほど名前が挙がるのが「シーフ」の東浩司さんだ。
中国料理の垣根を越え、フランスと日本の料理から学んだ技と知識を自由に使い〝中国料理らしくない中国料理〞で海外のゲストをも魅了する。伝統的な中国料理を「Re-Creation=再創造」したいという東さんに、中国料理が世界に発信する技や考え方を聞いた。

シーフでは、中国料理とワインの提案も積極的に行う。店にはソムリエもいるが、じつは東さんもワインに造詣が深い。ワイン教室の講師を務めていたことも。「蒸す~甘鯛・筍・雫」の餡で使った氷結を解凍してクリアなスープをとる方法は、氷結したブドウから作る「アイスワイン」の近代的な製造方法「クリオ・エクストラクション」がヒントになったという。

フランス料理と中国料理、それぞれの【蒸】の技法

Chi-Fu(シーフ) 東 浩司さん

フランス料理の世界に、1970年代に「ヌーヴェル・キュイジーヌ」の潮流が生まれて以降、多くのトップシェフが中国や日本などを訪れた。シェフたちは、初めて出会ったアジアの食材や調理法を取り入れ、フランス料理をさらに発展させたといわれる。中国料理の「蒸(チョン)」の技法もそのひとつだろう。

例えば「火入れの魔術師」と呼ばれるパリの三ツ星「アルページュ」のアラン・パッサールさん。パッサールさんは、魚の切り身を、沸点以下の低温でゆっくり火を入れる。これは中国料理の「蒸」の調理法の温度帯にヒントを得たのではないか、とシーフの東浩司さんは考えている。

フランス料理にも「ヴァプール=蒸す」はあるが、これは食材と水分を入れた鍋をオーブンに入れるなどして加熱することが多い。一方、中国料理の「蒸」は、沸かした湯から立ち上がる蒸気で熱を加える。素材の水分を保ちながら、セイロの扱い方次第で100度以下の低温でやさしく火を入れられる「蒸」の技法に、パッサールさんは発想を得たのではないか――。中国料理のルセットではなく、伝統に育まれた知恵と技法を持ち帰って自分のものにしたフランス料理人たち。東さんは彼らを尊敬しつつ、中国料理人として「恐れ」を感じたという。

「ジャンルを越えて調理法を学び、伝統をリ=クリエイトする。その姿勢は、中国料理の伝統を守るためにも必要だと痛感したのです」

それは、裏を返せば中国料理の知恵が、世界の料理人を驚かせる力を秘めていることでもある。「蒸」を使った料理について、東さんに聞いた。

東シェフによる「新緑」の一皿。薄く焼いた生地に季節の野菜をのせ、ラップのように包んで食べる中国風のクレープ「烤素方(ガオスーファン)」は、東さんが「精進ダック」と呼ぶ、シーフ定番の前菜だ。なかでも「新緑」は、春から初夏にかけてのメニューで、山菜や芽キャベツなどの野菜や、生麩、揚げた湯葉を使っている。フキノトウ、甜麺醤(テンメンジャン)、豆鼓(トウチ)が生地に塗ってあり、野菜を生地で包んで食べる。器は、富山市の「Shimoo Design」の特注品。
新緑

薄く焼いた生地に季節の野菜をのせ、ラップのように包んで食べる中国風のクレープ「烤素方(ガオスーファン)」は、東さんが「精進ダック」と呼ぶ、シーフ定番の前菜だ。なかでも「新緑」は、春から初夏にかけてのメニューで、山菜や芽キャベツなどの野菜や、生麩、揚げた湯葉を使っている。フキノトウ、甜麺醤(テンメンジャン)、豆鼓(トウチ)が生地に塗ってあり、野菜を生地で包んで食べる。器は、富山市の「Shimoo Design」の特注品。

こんな時にこそ【蒸す】その①!

アツアツで出したいなら
出す直前に蒸し器で蒸す

ヨモギを練り込んだ生地を薄くのばし、あらかじめフライパンで焼いておく。生地の割合は、強力粉と薄力粉、ヨモギ汁が2:1:1.5。

焼いて仕込んでおいたものを提供直前に蒸し器で蒸す。温かいものを出すことで、ヨモギの香りや野菜の香りがゲストの前で立ち上がる。

次ページ:【蒸】調理:東さんによる現代の火入れについてと、「甘鯛」の一皿


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