自分のすべてを注ぎ込んだ下村版レストラン。「エディション・コウジ シモムラ」下村浩司さん


自分のすべてを注ぎ込んだ〝下村版レストラン〞へようこそ

エディション・コウジシモムラ 下村浩司さん

「私の料理に不可欠な要素は、味、美しさ、テーマ性」と言い切る。料理や器はもちろん、インテリアからサービスまで、すべてにおいて〝下村版〞を表現する。フランスから帰国し、9年の歳月を経て、2007年に「エディション・コウジ シモムラ」を開いたときに、そう決めた。

お客様の笑顔に料理人の血が騒ぐ

22歳で渡仏。トロワグロ、マーク・ヴェイラ、ジャック・シボワ……。

8年間、幾多の星付きレストランで修業をした。なかでも忘れられないのは、初めて働いた三ツ星レストラン「ラ・コート・ドール」である。

 まずは客として訪ねた。シェフであるベルナール・ロワゾーは、当時のフランスでは最先端の料理を提供していた。

「期待に胸を膨らませて食事をしたのですが、そのときの私の料理観では理解できないほどの衝撃でした。この料理を学びたい。そして会得したい!」

 それが、「ラ・コート・ドール」で働きたいと思った理由である。厨房で働き始めて数カ月後、方程式の答えはある日突然、天から降ってきた。「なるほどと思いました。私にとってフランス料理の師匠は、後にも先にもベルナールロワゾーだけです」

30歳で帰国。使う食材はフランス産にこだわった。

「フランス料理は、その土地の風土に影響を受けると言われます。だから、8年間フランスにいた私の舌は、どっぷりフランスの味に漬かっていたわけです。味の記憶のない食材を使って料理を作り上げることはできません。結果、私はフランスの食材を使うしかなかったのです」

しかし、日本国内や世界各国を旅するうちに、たくさんの素晴らしい食材に出会った。お客さまからも、おいしい食材を教えてもらった。「日本に帰国して以来、日を追うごとに厨房の食材は日本産が増えていきました」

下村さんの内なる〝味の記憶〞が、変わり始めたのだ。それが証拠に、いかなる和の食材を使おうと、下村さんはフランス料理にしてみせる。こんなエピソードがある。

あるゲストから、「鮎料理が食べたい」とリクエストがあった。鮎と言えば、塩焼きである。下村さんは、一計を案じる。ある粉を塩に見立てて、鮎につける。鮎は塩水に浸して、あらかじめ塩味をつけておく。焼けば、見た目は完璧に鮎の塩焼き。しかし口にすれば、塩焼きのカテゴリーには入らない「下村の料理」である。ひと口食べたゲストは、瞬間、驚きの表情を見せ、すぐに破顔した。「そういう瞬間が、私は好きなのです。お客様も楽しみ、私も楽しむ。そのために、日夜、頭を捻っているようなものです」

テーブルやイス、オブジェ、皿、グラス……。すべてが下村セレクション。エディションという店名も、すべてを下村さんが編集し、その集大成である「下村版レストラン」をお客様に楽しんでいただきたいという気持ちを込めて名づけた。

器もまた素材のひとつ

そんな下村さんの料理の、もうひとつの大きな特徴が、器の妙である。「器もまた素材のひとつ」と言い、「この料理にはこの皿」とメニューの分だけ食器もあることが理想、と下村さんは言う。確かに、どこの厨房にも増して、器の種類が多い。「しかも個性的な食器を中心に買ってくるものだから、すぐに絶版になってしまう。だから、あるうちにゴッソリ買い溜めておくんですよ」

今回使った器も、じつは蓋付きの器ではない。サーブしたときの驚きを演出するために、2つの器をあえて蓋と器にしたのだ。料理の〝主役〞は雲丹。小さな突起のついたガラス器は、雲丹の殻に見立てたのだろう。「器も食材」という言葉を納得せざるを得ない演出である。「現在の日本のフランス料理界は、ある意味落ち着いてしまったような印象を持っています」と下村さんは言う。しかし、うかうかしてはいられない。早晩、世界戦略に打って出なければならない時代がくるだろう、と下村さんは考えている。「これからは、日本のレストランも海外からの集客を意識するべきでしょう。事実、私どもにも、日本人のお客さまよりはるかに頻繁に来てくださるシンガポールや香港のゲストもいらしゃいます」

国境を越え、既成概念を飛び越えて、〝下村版フレンチ〞が躍動する。

【レシピ】雲丹、人参のピューレ、ビーツのコンソメジュレのコンビネーション

材料(1人分)

ウニ…30g/ビーツのコンソメジュレ…10g/ニンジンのピューレ20g/3色のニンジン(紫、黄色、オレンジのリング)…10g/ニンジンの葉…3枚/ニンジンの新芽5枚

ニンジンのピューレ
ニンジン(芯を外したもの)200g/グレープシードオイル…10g /牛乳…50g /水…50g /塩…適量

コンソメ ジュレ(ビーツ)
A(牛すね…2kg /丸鶏…1羽/牛骨、牛すじ…各500g/トマト、タマネギ、ニンジン、セロリ…各200g/ニンニク…1片/ローリエ…2枚)
B(牛すね、鶏胸肉、卵白、黒コショウ)/ビーツのすりおろし…20g /塩…適量

作り方

  1. ニンジンのピューレを作る。ニンジンの皮を剥き、縦1/4にカットし、中心の色の薄い部分を抜く。1cm角に切る。
  2. ココットにグレープシードオイルを入れニンジンを色付けないように火を通し、水分がなくなったら、牛乳と水を加え、再び水分がなくなるまで煮詰める。
  3. 熱いまま、15分間ミキサーにかけ、滑らかに仕上げる。
  4. ミキサーでクリーミーになるまで回す。
  5. 裏漉しし氷水を当てたボールで冷ます。
  6. ビーツのコンソメ ジュレを作る。Aの材料でブイヨンを取り、Bとよく混ぜ合わせてコンソメをひく。このコンソメ150gを90gになるまでまで煮詰め、塩で味を調えて、すりおろしたビーツを加え、香りと旨みを加える。
  7. キッチンペーパーで裏ごす。
  8. センスよく盛りつける。

Koji SHIMOMURA
1967年、茨城県出身。大阪・辻調理師専門学校卒業後、都内のフランス料理店で修業し、1990年に渡仏。8年間研鑽を積んだ後帰国。乃木坂「レストランFEU」のシェフを経て、2007年に「エディション・コウジ シモムラ」(現在ミシュランガイド東京版二ツ星)を六本木に開店。

山内章子=取材、文 大野利洋=撮影

本記事は雑誌料理王国224号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 224号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする