Go To Travelで行きたい地方の名店#3 福岡「ラ メゾン ドゥ ナチュール ゴウ」


外国人客が求める素のままの福岡
アジアとの〝近さ〟が世界への扉を開く

ラメゾンドゥラナチュールゴウ 福山剛さん

外国人客が求める素のままの福岡
アジアとの〝近さ〟が世界への扉を開く

 福岡の西中洲は、にぎやかな中洲の繁華街とはうって変わって、静かで落ち着いた大人の街だ。その西中洲にあるフランス料理店「ラメゾンドゥラナチュールゴウ」は、2002年のオープン以来十数年間、地元客の人気を集め、ほぼ満席で営業を続けている。

「ゴウ」は今や、福岡のみならず、世界に名を知られるようになった。今年、世界中が注目するレストランランキング「アジアのべストレストラン50」で、31位に初登場したのだ。これまで東京や関西の店ばかりが目立ったこのランキングに、九州・四国・中国地方のレストランがランクインしたのは初めてのこと。快挙ともいえる高い国際的評価を受けた背景には、何があったのだろう。

トップシェフとの交流
アジアからのインスピレーション

 今年「アジアのベストレストラン50」のトップに輝いたのは、昨年に続いて、タイ・バンコクにあるモダンインド料理店「ガガン」だった。「ガガン」を率いるガガン・アナンドさんは、実は福山さんとは旧知の仲。ふたりの出会いは1年半ほど前にさかのぼる。

 福山さんは「ゴウ」の常連客である中国人ジャーナリストに誘われて、上海のレストラン「ウルトラバイオレット」で開かれたトップシェフたちとの食事会に参加した。そこで同席したガガンさんと意気投合。ガガンさんは福岡の土地柄や食材を気に入り、昨年8月、「ゴウ」を舞台にクローズドでコラボイベントを開催した。今年1月には一般のゲストを呼んで「GohGan」と題したイベントで再びコラボ。席数の3倍以上の予約が入ったという。

「今までは、フランスや東京から情報を集めていました。でも最近はむしろアジアにいいシェフがいるし、面白いレストランがあるので、アジア圏から刺激を受けることが多くなってきました」と福山さんは語る。

シェフ同士の交流が深まると同時に、アジアのマスコミも「ゴウ」に注目し始め、昨年は香港や韓国の雑誌が取材に訪れた。

アジアでの「ゴウ」の知名度はじわじわと上昇し、アジアの美食家たちが来店するようになる。このあたりから、今年の初ランクインへの道筋はついていたのだろう。世界から人を呼ぶ店になるためにやるべきことのひとつとして、積極的に国外に出ること、海外のシェフと交流することは、かなり重要と言えるかもしれない。

アジアとの近さが武器に インバウンド客急増の福岡

そもそも、トップシェフとの交流を生み、アジアでの知名度が上がっていったのには、福岡という土地の特性も大きく影響している。

 福岡空港から中国・上海へは飛行機で約1時間50分。韓国・プサンまでは約55分、ソウルへは約1時間25分。東京へ出るのとほぼ同じか、それよりも早くアジアの主要都市に飛べる。

 しかも、福岡空港は市中心部からのアクセスが非常に良い。博多駅から空港までは地下鉄で約5分。気軽に日帰りでアジアの都市と行き来できる。アジアとの近さは他都市に比べてずば抜けているのだ。

 この〝地の利〞は、インバウンド客の増加にももちろん寄与している。福岡空港や博多港から入国する外国人の数は年々急増し、2013年は約90万人だった数字が、14年には約120万人に。15年にクルーズ船で入国する観光客への特例上陸許可制度が整うとその数はさらに伸び、200万人を突破した。福岡を玄関口として来日するインバウンド客は、今後も増えていくと見込まれている。

地元・福岡のニーズに応えることで世界にアピールできる

「アジアのベストレストラン50」入賞後、「ゴウ」には、北米、フィリピン、台湾、タイなど、これまであまり来店のなかった国籍のゲストが来るようになった。福山さんは海外のゲストを迎えるにあたり、料理の面では特別なことは何もしていないという。

「うちは開業以来ずっと、地元・福岡のお客さまに繰り返し来ていただける店を目指してきました」

 吟味した九州産の素材を使い、旬のものを楽しんでいただくことはもちろんのこと、クセのある食材を嫌う地元のお客さまのために、あまり特異なものは選ばず、馴染みのある食材を使っている。ルセットは、福山さんの個性や非日常の世界を追求すること以上に、ゲストが食べたいものを形にすることを優先してきた。

 さらに福山さんは、じっくり食事を楽しむというよりも、スピードとタイミングを重視する傾向がある地元ゲストの要望に応えるため、テンポよくコースを進めるようにしている。アジアの人々、特に中国人は、食事に長い時間をかけることを好まない人が多い。「ゴウ」のサーブのスタイルは、結果的に、アジアのゲストに響くものになっているのだ。 設備やサービスの面では、英語メニューを準備し、英語版のホームページを作成した。ワインのラインナップはその時々で変わるため英文のリストの準備が間に合わないこともある。そんな時は写真に撮って銘柄と値段を明記し、タブレットPCで表示してゲストにおすすめする。

 自分を表現するよりも、お客さまの求めるものに応えていきたいという福山さん。福岡のゲストのことを考え抜いた結果、福岡らしい、素のままのローカルな魅力が深まり、九州を訪れる海外からのゲストの心をもつかんでいる。インバウンド客が急増する福岡で、福山さんのフィールドは、これからますます広がっていくだろう。

夏のアミューズ
コースのアミューズとして出そうと考えているひと品。和食のすり流しをイメージし、熊本産のアカナスを焼いてコンソメと合わせ、エスプーマで泡状にした。その上に霜降りしたハモとキュウリのプレッセを盛り付ける。アガーで固めた梅酢を、ところてん用の器具で押し出して、パフォーマンス性と涼しさを演出。福岡県産のセルフィーユの花と花穂紫蘇をあしらって、夏らしい皿に仕上げた。

ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ
La Maison de la Nature Goh
福岡市中央区西中洲2-26
092-724-0955
● 18:00~24:00
● 日休
● 34席
http://gohfukuoka.com


料理王国=取材、文 濱田陽守=撮影

本記事は雑誌料理王国第280号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第280号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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