絶対一度は味わうべき!絶品羊料理があるお店


あの店のあの羊料理

街には、ジャンルも調理法も多彩な羊料理が溢れている。

【渋谷】Tharros

羊飼いの島サルデーニャの味と空気をそのままに

 イタリア半島の南西、地中海に浮かび、青い海と美しい自然に囲まれたサルデーニャ島。現地の味と空気を体感できると連日賑わっているのが渋谷にある「タロス」だ。まだ日本でサルデーニャがあまり知られていない90年代に「これからは地方料理の時代」とサルデーニャへ渡ったのはオーナーシェフ馬場圭太郎さん。以来、その魅力に魅せられ、先駆者として店を構えている。

 サルデーニャ料理というと「ボッタルガ」と呼ばれるカラスミをはじめマグロやイワシなどの海産物を連想するが、羊もそれを語る上で外せない。サルデーニャの美しい海岸線を離れ、内陸に入ると1800m級の山岳地があり、牧羊が盛んに行なわれている。サルデーニャの羊料理は、そこで生活する羊飼いたちの携行食をベースに、多様な料理が存在するのだ。肉は様々な部位を食し、乳はチーズとして活用するなど、あますことなく食べられるという。「ボイルや炭焼き、煮込みなどシンプルで豪快な食べ方が多いですね。新聞に羊の売買情報が普通に載っていたり、羊毛、乳製品など羊に関わる職業の人たちが多くいたりして、羊がサルデーニャの人々に与える恵みは多く、生活に欠かせない存在です」とは馬場シェフ。

ブロードにチーズで羊薫る、羊飼いの携行食
パーネ・フラッタウ

 今回紹介する料理「パーネ・フラッタウ」も羊飼いの携行食。サルデーニャの伝統的なパンを羊のブロードに浸して食べるという何とも郷土料理らしい創意工夫を感じられるもの。そして「サ・パナーダス」は大家族が多いというサルデーニャの家庭事情が反映された羊肉パイ包み。どちらもその土地ならではの料理なのだ。近谷雄一グループ総料理長いわく「羊肉というとラム・チョップが人気ですが、サ・パナーダスは腕肉を使う料理。腕肉は噛めば噛むほど味が出て、硬いと思われるが食感もいい。こういう部位の方が羊の魅力を感じられます」。近谷グループ総料理長は、前職時代から羊に魅せられた人物。北海道の名生産者「羊まるごと研究所」から枝肉の状態で半頭仕入れ、さばくなど、羊に向き合ってきた。羊の魅力を尋ねるとこう応えてくれた。「羊肉は牛肉や豚肉よりも味をのせやすい食材。中国をはじめフランスなど各地のスパイスが合わせられています。様々な表情を出すことができる、とても可能性のある食材だと思います」。

 また、羊肉は融点が高く、体内に脂が残らないのも魅力という。馬場オーナーシェフは羊は世界を救うと豪語する。「サルデーニャの羊飼いは長寿。羊肉を食べ、羊のチーズ、そしてオリーブオイル、赤ワイン、天然酵母のパン、豆類といった食生活を送っているからなんです」。

 サルデーニャの羊料理の魅力はもちろん、その健康の秘訣にもあやかりたい。

味わい深い腕肉をパイで包む
サ・パナーダス

タロス
東京都渋谷区道玄坂1-5-2
渋谷SEDEビル1F
TEL 03-3464-8511

【麻布十番】TRATTORIA CHE PACCHIA

料理人の「深夜食堂」では羊料理の火入れが物を言う

 深夜族の空腹を満たす麻布十番のレストランの中でも、夜な夜な料理人が出没するのがこちら。仕事帰りの彼らから、羊のローストのオーダーが入ることもしばしばだ。「そのたびに、自分の腕を試されている気がして」と、苦笑いするのは、岡村光晃シェフ。「ピアットスズキ」での修業時代、ようやく羊肉を焼かせてもらえるようになった後も、師匠である鈴木弥平シェフの厳しい指導が続いた。それだけに、岡村シェフにとって羊肉は、今も手強い食材。特に、ローストは、自身の火入れの技術が映し鏡のように現れるため、気が抜けない。

 「肉をいわゆるウェルダンに焼くことを、イタリア語で『ben cotto(ベンコット)』といいます。だんだん肉に火が入ってくると、そのうち肉汁が出てきますが、肉が生だと血は出ません。イタリアでその状態が唯一許される肉料理が、フィオレンティーナ・ビステッカ。それ以外は、基本的にしっかり肉に火を入れます。私が心がけている火入れもそこなのです」と、イタリア料理における肉焼きに確固たる信念を持って向き合う岡村シェフ。

 今回その真髄を、まず、フランス産ラムのモモの塊肉で見せつけた。160 ~180℃のオーブンで約2時間。時折、肉の表面に触れ、指に伝わる弾力で焼き加減を予測しながら、火を入れる。「2次工程や3次工程を経ず極力シンプルに仕上げる。でもおいしいが基本。では、人によって異なるおいしいの定義は何か?と問われたら、私にとっては『毎日食べられる』が基準です」。その答え通り、取り分けた羊肉を口に入れると、よく焼けた皮の香ばしさとほのかに甘みを湛えた脂が、噛めば噛むほど溢れ出す肉のうま味と混ざり合い、またひと口、さらにひと口と止まらなくなる。

これぞ、野生を呼び覚ます塊肉の真骨頂!
羊のモモ肉 オーブン焼

 もう一品の「カサレッチェ 羊のラグーソース」は、羊肉を余すところなく使うイタリアの郷土料理へのオマージュ。今回は、オーストラリア産ラムのバラ肉を、ごろっとした食感が楽しめるよう粗く切り、トマトベースのソースで煮込んだ。「ローマから南部にかけては羊肉の文化。羊を解体した際の端肉は煮込んでソースに使うことが多い。その代表的なパスタです。イタリア南部は乾麺文化のため、ショートパスタのカサレッチェで」。イタリア料理をイタリア料理たらし
める風土も理解した上で、とにかく基本に忠実に。素朴に。「そうそう、『ben cotto』の『ben』には、『充分に』という意味の他に、『良い』という意味もあるんです」。しっかりした火入れは、良い火入れ。骨太なメッセージを、羊肉と共に噛みしめたい。

羊肉を使い切るイタリア郷土料理に思いを馳せて
カサレッチェ 羊のラグーソース

トラットリア ケ パッキア
東京都港区麻布十番2-5-1
TEL 03-6438-1185

【銀座】銀座 やまの辺

ウイグル羊料理の本質を江戸中華の視点で捉える

 銀座8丁目、昭和初期のガス灯の明かりに屋号が浮かぶ、ミシュラン一ツ星の店。中国料理の王道を受け継ぎながら、東京ならではの “江戸中華”を標榜する「銀座 やまの辺」だ。オーナーシェフの山野辺仁さんは、ウイグル羊料理の真髄を体感することを目的に、昨年初めて新疆ウイグル自治区に足を踏み入れた。現地では中国の唐辛子が流通して以来、四川料理が流行っているそうだが、山野辺シェフが見て味わってきたのはウイグルの伝統料理。羊の丸焼きや羊の内臓の炒め煮など、その多くが他では味わうことのできない羊料理だった。「シシカバブにしても、クミンや唐辛子や五香粉などの香辛料をたくさん付けて焼くのかと思ったら、塩とほんの少しのクミンだけなんです。羊肉が新鮮だから、味付けは意外なほどシンプル。素材の味を活かす感覚は、日本人に近いと思いました」。

現地では市場にも通い、新疆唐辛子やウイグル産クミンなどを試食。「やはり香辛料も鮮度が大切」だと痛感したそう。日本に戻り、ウイグルで見て味わった料理に山野辺流のアレンジを加え、さっそく羊料理のメニュー開発に取り組んだ。まずはウイグル式ピラフ「ポロ」。羊肉、玉ねぎ、人参、白米をいっしょに炒めてから鍋で炊き上げる料理で、ウイグルの家庭料理であり屋台料理だ。羊肉のうま味や香りを活かすため、シェフが使うのは鮮度のいい北海道産ラム。背肉を骨と赤身にバラし、モモと肩ロースも加える。「現地では水だけで炊いていましたが、骨もいっしょに炊き込めば出汁が出ておいしいと思って。あと、向こうでは具材を炒める際に鍋底に油がたまるほど大量の菜種油を使って作っていたけど、僕は油を減らしてあっさりとした味わいに仕上げました」。味付けは上湯と昆布と塩とクミン、そして骨から出る出汁。山野辺シェフのアレンジが加わった「ポロ」は、羊肉の香りをまとった上品な炊き込みご飯だ。

上品な出汁で炊くウイグル式ピラフ
ポロ

また、ウイグルの伝統的な焼き方を踏襲し、金串ではなく柳の一種「紅柳 」に刺したラムを炭火で焼く「シシカバブ」も絶品だ。1本の紅柳に刺すのは、北海道産ラムのヒレ、モモ、肩ロースの各部位。前述した通り、ウイグル式シシカバブの味付けは塩と少しのクミンだけ。味付けは現地に習ってシンプルに。肉を大きめにカットして焼くことで、咀嚼する度に各部位の異なる味わいを舌と鼻で楽しむことが出来る。

 ウイグルの羊料理に触れ、すっかり魅了された山野辺シェフ。「味を活かすも殺すも料理人の腕次第。それが僕の羊肉の捉え方。新たな発見の多い食材だと思います」。今後は、貸し切りのみの「ウイグルやまの辺」を店舗で開催していくそう。ウイグル羊料理と江戸中華の融合地点を、とくとご堪能あれ。

紅柳に刺して焼く本場仕込みの羊肉串
シシカバブ

銀座 やまの辺
東京都中央区銀座8-4-21保坂ビルB1F
TEL 03-3569-2520

【牛込神楽坂】BOLT

羊スネ肉のシグネチャーディッシュは必食

 フランス料理をベースにしながらも、自由な発想で作られる料理で食の感度の高い人々を惹きつけている牛込神楽坂の「BOLT」。オーナーシェフの仲田高広さんは本格的なフランス料理店で修業した後に渡仏。さらに渡豪し、帰国後に居酒屋を経て、独立した異色の人物だ。

 そんな彼のシグネチャーディッシュが羊のスネ肉の煮込み「ラムシャンクブレゼ」。羊のスネ肉を塩、赤ワインと香味野菜でマリネし、焼き色をつけたら、フォン・ド・ボーなどでじっくりと煮込み、そのまま1日寝かす。さらに肉を取り出して、ソースを濾して、煮詰めていくという、仕込みに計4日間もかかる一品だ。オーストラリアでも食べられている豪快な羊肉料理をフランス料理の技術でしっかりと時間をかけて仕上げている。

 「羊肉は独特な食材ですよね。香りがしっかりあって、焼いても煮込んでもいいし、フランス料理以外でも中国料理、中東の料理などどんな料理に使える。肉らしさがあるのでメイン料理で使いたいですね。お酒によく合うのも魅力です」。「自分にとって料理とお酒は切っても切り離せないもの」という仲田さんのスタイルに沿って、ワインをはじめ焼酎など豊富に揃うお酒といっしょに楽しみたい。

羊肉の食べる喜びをダイレクトに感じる
ラムシャンクブレゼ

ボルト
東京都新宿区箪笥町27
神楽坂佐藤ビル1F
TEL 03-5579-8740

text 竹内せいじ、馬渕信彦、浅井直子photo 依田佳子、よねくらりょう

本記事は雑誌料理王国2020年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2020年3月発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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