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ビオワインと一緒に楽しむ羊料理は、体と心を温める中国・東北地方の郷土料理「味坊」


東京・神田
味坊
梁 宝璋さん[中国料理]

食べる物にこそ活力の源があるとする「医食同源」の考え方は、中国で生まれた梁さんのDNAにすり込まれている。とくに梁さんが生まれ育った東北地方は、モンゴル平原に近い場所で、冬はマイナス35度にもなる厳寒の地。野菜の収穫は秋に済ませ、雪が積もると、肉や豆腐などのタンパク源とともに雪中に保存する。東北地方に暮らす人々は、先人の知恵に感謝して、体を温めるためのさまざまなスパイスや食材を活用して、厳しい寒さを乗り越えてきたのだ。それは、先人たちの家族への愛情。その愛情が育んできた東北料理は、それを作る梁さんの温かな人柄と相まって、今、日本で季節を問わず、多くの人に親しまれている。

豚バラ肉と白菜漬け煮
豚骨のだしの中に、豚バラ肉、自家製白菜漬け、春雨を入れて煮込む。豚肉の脂の甘さと白菜漬けの酸味がバランスよく口の中で調和する。ハッカク、花山椒、仕上げにのせたパクチーが旨味を引き立てる。980円

日本風にアレンジして
スープのコクと旨味を出す

梁さんが東京の神田駅近くに「味坊」を開いたのは15年前。日本に来たのはそれより3年前で、最初はラーメンやチャーハン、ギョウザが中心のごく一般的な中華料理屋だった。やがて日本から中国に赴任する会社員が増えると、彼らは帰国後、本場の味を懐かしんだ。そんなゲストにせがまれて、裏メニューとして作っていたのが東北地方自慢の羊料理。しかし、「日本人の求める味はこれだ」と直感した梁さんは、その店を閉めて神田に移転。新たに東北料理専門店「味坊」をオープンさせたのだ。

メインは羊料理で、やわらかなラム肉の肩ロースを使ったしゃぶしゃぶや串焼き、炒めものに人気が集まる。ラム肉に欠かせないのはクミン。その使い方も絶妙で、このほか、ハッカク、ナツメ、チンピ、ケイヒ、トウキなど、何十種ものスパイスや乾燥した薬用植物を料理に使う。

ラム肉はすぐれた高タンパク食材。ミネラル、鉄分、ビタミンB1・B2が豊富で、体をあたためて体力の不足を補う。コレステロールの含有量が低いうえに、脂肪燃焼を促すカルニチンも含まれている。「味坊」の常連客は、羊料理をビオワインとともに楽しむ。料理に合わせて、スパイシーな赤ワインを選ぶゲストが多いが、よく冷えた白にもロゼにも、梁さんの羊料理は合う。「郷土の味を大切にしていますが、ワインとのマリアージュは日本ならではですね」と梁さん。「旨味を重んじる日本人は、コクのある味わいが好きだから」と、ラム肉のしゃぶしゃぶ用スープは日本人向けにアレンジしている。母国では湯を使うところ、「味坊」では豚骨でだしをとり、さらに豚バラ肉でコクを加えたスープを使っているのだ。

ただし、鍋料理で「絶対に変えないと決めている」ことがある。それは銅鍋を使い、炭で調理すること。現在は中国でも、ガスや電気の鍋で提供するモダンな店が増えているが、梁さんは、あくまでも昔ながらの炭にこだわり、銅鍋は北京から仕入れている。「炭を使った時の熱の伝わり方と、電気やガスとは違う。調味料や食材だけでなく、調理法にこだわることも大切だと思います」

この言葉通り、たとえば鍋に入れる豆腐は一度冷凍してから使う。「故郷では、豆腐を雪中で保存していました。冷凍期間は長いほどよく、水分が抜けてスポンジのようになる。これがスープをよく吸って、とてもおいしいのです」

日本でも鍋が恋しくなる季節。梁さんの料理とやさしい笑顔が心身ともに和ませてくれるだろう。「医食同源」が、人間のために人間が考え出した知恵なら、それを伝える人もまた、愛ある人であってほしい――。「味坊」を訪れるゲストはそれを求めて、今日も店にやってくる。

ラム肉のクミン風炒め
「味坊」の人気メニューのひとつで、クミンの香りをまとって香ばしく焼けたラム肉の辛さは、一味唐辛子による味付け。クミンは梁さんがもっとも使う調味料で、食欲を増進させ、消化を高める効果があるとされる。

厨房でフライパンをふりながら、「料理の師は母親」と語る梁さん。母親とは野草摘みにも出掛ける。「お酒の飲み過ぎで肝臓が疲れている人は、タンポポの葉をかじったり、ジュースにして飲むといいですよ」。

「風邪には、お湯にショウガの千切りや黒砂糖を入れて飲んでみて」と、ゲストに「医食同源」に基づくアドバイスをすることもある。

ビオワインについては、日本で最初に自然派ワインを紹介したという勝山晋作さん(左)に相談しながら仕入れている。

Hosho Ryo

中国・東北地方にある黒竜江省のチチハル出身。18年前に来日し、東京・足立区で中華料理店を開くが、2000年に移転。神田駅のガード下に東北料理専門店「味坊」を開店させた。料理店での修業経験はなく、母親の家庭料理から学んだ。

味坊
Ajibou
東京都千代田区鍛冶町2-11-20
☎03-5296-3386
● 11:00~14:30、17:00~23:00
●日 祝休
●コ ース 3000円~
● 80席

本記事は雑誌料理王国255号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は255号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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