ジュースペアリングで食の楽しみの裾野を広げる「ラ・ボンヌ・ターブル」


お客様から『お酒が飲めなくてよかったです』という言葉をいただきました

ラ・ボンヌ・ターブル

フレンチとペアリングする飲み物といえば、真っ先に思い浮かぶのはワインだ。料理と合わせることで、より食事を楽しむことができる。一方で、アルコールを飲めない人にとってはどうだろう。レストランで食中に飲むノンアルコールの飲み物といえば水かお茶、フルーツジュースくらい。料理とペアリング、という楽しみ方からはいささか遠いように思える。選択肢はかなり狭くなるのだ。

そうした人も料理とドリンクのペアリングを楽しめるのが、「ラ・ボンヌ・ターブル」。同店で話題を呼んでいるのは、ノンアルコールドリンクと料理のペアリングである。ひと皿ひと皿に対して趣向を凝らしたベストなドリンクを提供し、料理の新たな側面を引き出している。巷でも増えつつあるノンアルコールのドリンクペアリングだが、同店は早い段階から力を入れて取り組んできた先駆者である。

同店でドリンクをディレクションするのはソムリエとして各所で活躍する大越基裕さん。シェフソムリエの戸澤祐耶さんとともに、料理に合わせたさまざまなドリンクを考案している。

車の運転や体質など、さまざまな事情でアルコールを飲めない人にも、料理の世界観をもっと楽しんでほしいという気持ちで始めました」

大越さんがペアリングを考える時の基本は5つ。味わいや香りを合わせること。渋味や酸味で脂を中和するように相殺すること。食感や舌触りのテクスチャーを揃えること。料理と飲み物の温度感を揃えること。最後に五味(甘い・辛い・酸い・苦い・塩辛い)のバランスをとること。つねにロジカルだ。

「これらはワインの考え方ですが、どの飲み物にも当てはめることができます。たとえばコーヒーは酸味の強弱があり、酸味の少ないコーヒーにはアーモンドなど甘い食べ物がうまくペアリングします」

時に、直感や感性が働くこともある。たとえば、ニンジンジュースにはオレンジやクミンが合うが、以前はこれらがなぜ合うのかはよくわかっていなかったという。そうした感性から生まれた組み合わせが、試して積み重なることでロジックになっていった。そして、その向こうには再び感性によるひらめきが生まれる。そうやってペアリングはつねに進化していくのだ。

ラ・ボンヌ・ターブルでのドリンクペアリングは、シェフの中村和成さんが料理を考案するその時から始まっている。試飲と意見交換を繰り返してクオリティを高めていくのだ。中村さんから、使う素材のアドバイスを受けることもあるという。

しかし、ノンアルコールならではの注意点もある。すでにあるものから選ぶしかないワインと違って、ノンアルコールドリンクは料理にどこまでも合わせて作れる。そのため、合わせることを徹底しすぎるとソースのごとく料理の一部となり、逆につまらなくなってしまうのだ。

「料理とドリンクはあくまでも別物としてお互いを引き立て合うのが理想。料理の一番特徴的な部分をクローズアップするのがドリンクの役割で、ちょっとだけズレているくらいの方が楽しめるのです」

ひとつのドリンクを考えるのには、ひとつの料理を考えるのと同じくらい労力がかかるという。それでも続けるのは、大越さんや中村さんに確固たる信念があるからだ。

「アルコールを飲めないからノンアルコールドリンクを選ぶ、というのではなく、アルコールが飲める場合でも、選択肢のひとつとしてノンアルコールドリンクが入ってほしいと思っています」

大越さんがお客さまに言われて嬉しかった言葉があるという。

「とあるイベントでノンアルコールドリンクのペアリングをご提供したとき、お客さまから『お酒が飲めなくてよかったです』という言葉をいただきました。それはすごく嬉しかったですね」

すべての人が料理とドリンクのペアリングを楽しむことができる――ラ・ボンヌ・ターブルが目指すのはそんな世界だ。

金目の蒸篭蒸し、
北寄貝と柚子のブールブランソース アンディーブ、サンマルツァーノ、葱油
×
洋梨のジュース

蒸篭蒸しにしてほくほくとやわらかくなった金目鯛に、濃厚なユズのブールブランソースをたっぷりと。サンマルツァーノトマトやバジルなどを加えて香り高く仕上げたひと皿。洋梨と自家製ジンジャーエールのジュースをひと口飲めば、フレッシュな果実感が加わってより一層甘美な香りが漂う。強い生姜の風味も金目鯛と絶妙にマッチする。

ホロホロ鳥のロースト、ゴボウのソース、舞茸、リンゴ、セリ、ナスタチウム
×
マッシュルームの出汁で淹れたほうじ茶

ホロホロ鳥をシンプルにロースト、ゴボウの香りが漂う濃厚なソースと生のセリが土や畑のニュアンスを醸し出す。ナスタチウムの花の下にはリンゴのペーストを潜ませ、アクセントに。さらにほうじ茶のスモーキーさが加わることで、土っぽさに官能的な要素が入った。

ディレクター
大越基裕さん

2001年から「銀座レカン」のソムリエとして活躍。2013年に独立し、ワインテイスターとして活動する一方で、ノンアルコールのペアリングを追求。現在、「ラ・ボンヌ・ターブル」のドリンクディレクタ ーを務める。

シェフソムリエ
戸澤祐耶さん

1985年、東京生まれ。オザミグループのレストランで学び、三軒茶屋「ワイン食堂テッペン」にて、自然派ワインの経験を積む。2015年より「ラ・ボンヌ・ターブル」にてソムリエを務め、2016年よりシェフ・ソムリエに就任。

シェフ
中村和成さん

武蔵野調理師専門学校卒業後、「シェ松尾」、江古田「ラ・リオン」などを経て「レフェルヴェソンス」へ。スーシェフとして2年間腕を振るったのち、「ラ・ボンヌ・ターブル」のシェフに就任。

山田井ユウキ=取材、文 林 輝彦=撮影

本記事は雑誌料理王国270号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は270号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする