アラン・デュカス氏の薫陶を受けた「エッセンシエル」大東和彦さんの食材選び


「フランスの料理」を追うのではなく素材に向き合った日本らしいフレンチを

大東和彦さんエッサンシエル

店名のEssentiel(エッサンシエル)とは、「本質の」とか「精を集めた」という意味のフランス語だ。


8年以上パリ、東京、大阪でアラン・デュカス氏の薫陶を受けた大東和彦さんは、2012年3月に独立した。店名は師のデュカス氏による。

カウンタースタイルは、京都の割烹「祇園 さゝ木」の佐々木浩さんとの出会いによる。「これをフレンチでやりたい、と思い、独立を決意しました」と大東さん。

現在、世界にある店舗のスタッフに向けて、デュカス氏は定期的にメールマガジンを配信しているが、そのタイトルが「L’essentiel」。「店名が決まっていないなら」と、デュカス氏がくれた6つの店名候補のなかに「Essentiel」があった。大東さんは、迷わずこれを選んだのだ。


日本人らしいフレンチを気軽に楽しんで欲しい

シンプル、ナチュラル、エッセンス――。デュカス氏から受け取った思いを、大東さんはこう解釈する。それは皿の上だけにとどまらず、カウンタースタイルの店内や、木や錫などを使ったテーブルセットなど、店全体に反映されている。

Bio以外の食材も使うし、ワインも全てがBioというわけではない。それでも特集のテーマである「Bio」に対し、「店のコンセプトが非常に近い」と大東さんは感じている。「フランスから見て日本は、地球の裏側にある国。だから、日本らしいフレンチでいいと思うんです。日常的に気軽に楽しむ。和食が当たり前のように日本の旬の素材を使うように、僕が考えるフレンチもそうありたい」。日本には良い素材があるのだから、ソースやピュレで飾りつけるような、「フランスの料理」を追いかけるのではなく、日本らしいフレンチを目指す。「素材に対し、この味を感じて欲しい」という強い思いが大東さんにはあるからだ。「それをお客様に伝えるためには、無駄なものを省き(シンプル)、良い素材(ナチュラル)の味を抽出(エッセンス)する必要があるのです」

Bioであることとは、未来の生命と生産者を守ることだと思います。

今回の「三重愛農ナチュラルポークのラッケ」も、そぎ落とされたピュアな味で構築されたひと皿だ。

「愛農ナチュラルポーク」とは、全国で唯一の全寮制の有機農業実践校・愛農学園農業高校の生徒が育てた豚。養豚部の活動の一環として、経済飼育ではなく健康を第一に育てられ、年間200頭にも満たない。
大東さんは、ストーリーだけの豚肉ではなく、濃厚な味わい、持続する旨味、思わず「旨い」と唸ってしまうような肉に惚れ込んだ。その素材の旨味だけを引き出すため、150度のオーブンで2分、取り出して2分休ませ、これを約40分繰り返す。

料理のすべてをカウンターで作るエッサンシエルでは、営業中は当然このピッチの短い火入れをゲストの目前で行う。「調理の全てが見えるようテーブルとキッチンの段差を作らず、あえて〝隠す場所〟をなくしています」と大東さんは明かす。バックヤードには洗い場と仕込み用のコンベクションオーブンがあるのみ。
つまり、調理の一部始終をゲストに見せる。どんな素材を使っているのか、どう保存しているのか、どう料理しているのか。カウンタースタイルであることは、ゲストとの距離を縮めると同時に、安心・安全であることを示すことにもなる。
「子どもたちに安心できる食を残し、生産者を守っていく。第一線に立つ僕たち料理人が変えていく」。「Bioであることとは、生命を守ることでもある」と、大東さんは最後に付け加えた。

三重愛農ナチュラルポークのラッケ
しっかりとした肉の繊維質と、噛むほどに強くなる旨味をストレートに感じさせる。付け合せのツクシのような形の野菜が「野生アスパラ」。山菜らしい苦みと香りが皿のなかで重要なアクセントになり、奥深さを与えている。もち麦のリゾットを添えて。有田焼の器に美しく盛り付けられた。
フランスのものは日本製日本のものはフランス製のバランス
「日本の素材を使っても、日本の調味料は使わない。なぜならフレンチだから」と大東さん。素材のみならず、器やカトラリーについても信念を持つ。カトラリーに並ぶ箸はクリストフル社製で、カップグラスはスガハラガラス社製を使う。プレートは有田焼や作家ものなど日本の磁器を使用。「フランスのものを日本が作る。面白いでしょ。それが良いものであればどんどん使っています。ただし、日本とフランスのものであること。それだけは決めています」。

エッサンシエル
Essentiel
大阪市中央区北浜1-1-28
ビルマビル北浜7F
☎06-4963-3767
●12:00~、17:30~
●不定休
●コース  昼4500円~ 夜12000円~
●23席 www.essentiel.jp

取材・文 中西一朗=撮影

本記事は雑誌料理王国239号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 239号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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