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海を渡った日本人シェフVOL.01 「はし田」橋田建二郎さん

はし田 橋田"Hatch"健二郎さん

己が信じた原則に忠実に次代を切り拓くエポックメーカー

園児の頃から包丁を握り、将来の夢は「人間国宝」と言って周囲を驚かせていた橋田。先代の下で修業中、接客に英語が必要と痛感した3日後から英会話学校へ通うが、実践的な語学力を習得できなければ意味がないと渡米。23歳で帰国すると、流暢な英語による接客パフォ ーマンスが評判になり、複数の投資家からスカウトされるも「時期尚早」と固辞。遊び場であった六本木のクラブで人脈を広げ、みずからの力量を計るべく「はし田」の仕事と並行して始めたケータリングでは「寿司屋のマカロン」が大当たり。そんな規格外の実行力から、ときに異端的な見方をされる橋田だが、常に本質を追い求める姿勢は真の正統派と言える。寿司の領域に収まらず、 料理によるエンターテイメントを突き詰める稀代のシェフの生き様に迫った。


受け継いだものに加え
どう自分の色を創り上げるか

――2013年、シンガポールに「HASHIDASUSHI」を開店。異国で成功するために、どのような戦略を立てたのでしょうか?

「親父が「はし田」でやってきたことや自分の考え方を、シンガポールだからといって変えるつもりはありませんでした。親父は寿司屋でありながらシグネチャーを作った人。大振りの大トロを薄くカットした「はし田」の看板メニューは、必ず持っていくと決めていました。ただ、最初から手の内すべてを見せてしまうことはしませんでした。お客さんに飽きられてしまうので。オープンから2年間は、揚げ物は出しませんでしたね。あと、シンガポールの店では箸に紙を巻いてセッティングしているのですが、その紙にはシェフからのメッセージが書いてあります。「ニヵ月間彼女に会えないのと「はし田」の寿司が食べられないのと、どっちがいい?」というくだらない内容から(笑)、「お飲み物$10オフ」というラッキーなメッセージまでさまざま。このたった1枚の紙が、お客さまを笑顔にしてくれるんです。レストランはエンターテイメントであるべきというのが僕の価値観。箸に紙を巻くアイディアは一例ですが、お客さまに常に楽しんでいただくために、どうすべきかを考えるのはとても大事なことです」

――シンガポール人に受け入れてもらうために、歩み寄ったことは?

「お醤油の味は少し変えました。日本人でもわからない程度ですが、ちょっとだけ味醂が多め。でも、シャリとガリは親父に習ったものそのままですね。そこはアイデンテイティですし、「はし田」のDNAでなければいけないと思っているので。DNAという親父から受け継いだものを持ちつつ、自分なりの色を加えて勝負しています」

――「はし田」の二代目として?

「はい。0から1を生み出したのが親父だから、僕はどうしたって1から2を生み出すしかない。だから親父に習ったことをベースに、自分が何を考え、どう自分の色を創り出してきたかを伝えていくことで、橋田建二郎が完成していくんだと思っています。これは二代目や三代目の強みであって、初代にはできないこと。なのに、他のお寿司屋さんを見ていると、二代目も三代目も同じことをやってる。それでは面白くないと僕は思うんです」

――日本に帰ってきて感じることは?

「これだけ海外からのお客さんが多くなっている時代に、英語で接客できない店がある。コミュニケーションも大事なサービスのひとつだということを、もっと真剣に考えるべきだと思います。海外に目を向けるというよりも、自分は地球人のひとりで、傍から見たら外国人なんだという気持ちでいないとダメだと思いますね」

―― 現在、令和2年7月のオープンに向け、勝どきの旧「はし田」跡地に新店を建設しているそうですね。

「店名は「HASHIDATOKYO」です」

―― ”SUSHI”という単語は入らない?

「はい。寿司は僕のアイデンティティなので、もちろんコースの中で握りますよ。でも、僕がやりたいことは寿司屋ではありません。店のコンセプトは「賞味八景」。僕が実際に足を運び、心に刻まれている八つの景色を、季節の食材を使って料理に落とし込み、ご賞味いただくというものです」

―― 先ほどレストランはエンターテイメントだと仰っていましたが、料理以外でも何か考えているのでしょうか?

「店の入口に*%&@?*(※行ってからのお楽しみ)を置いたり3Dプリンターを駆使したり、いろいろな仕掛けを考えています」

――遊び心が随所に盛り込まれると。

「親父からは「仕事にしちゃダメだ、遊びにしなさい」と教わりました。その通りで、仕事になった瞬間、いいアイディアは下りてこないですから。自宅と店を往復するだけの日々になってしまって、シェフのライフが輝いていなかったら、お客さんを楽しませることなんてできません。そしてレストランは、自分が行きたい店を作るべきです。お金儲けをするための店を作ったら、必ずぎくしゃくしますから」

―― 最後の質問です。橋田さんの一番好きな食べ物は何ですか?

「オムライスですね。上にかけるケチャップで遊べるし、基本的に僕は何かが隠されているものが好きなんです。何が出てくるのかわからないワクワク感とか、何なの?と思わすところに、お客さんを楽しませる答えがあると思っています」

はし田
橋田”Hatch”健二郎さん


1979年、東京・勝どきの寿司店「はし田」の長男として生まれる。12歳で家業の手伝いを始め、専門学校で日本料理を学んだ後に路上アーティストとして絵を描く日々をおくり、21歳から本格的に「はし田」で修行を開始する。
2013年に投資家からのヘッドハンティングを受け、シンガポールに「HASHIDA SUSHI」を回転。以降、現地のレストラアワードを次々と受賞。2018年にはジャカルタでのポップアップストアを大成功させるなど、世界中のシェフや美食家から注目を集める。2019年、KRUG アンバサダーに就任。座右の銘は “Money is Never Real”。写真は新店「HASHIDA TOKYO」の建設予定地で撮影した。


text 馬渕信彦 photo 堀清英

本記事は雑誌料理王国2019年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2019年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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