イギリスを代表する女優と聞かれて、誰を思い浮かべますか?
若きホープから貫禄十分なベテランまでさまざまな顔が出てくると思いますが、映画『007』シリーズのMでおなじみのジュディ・デンチもその中に入っているのではないでしょうか。
ジュディ・デンチは多くの映画や舞台に出演。市井のおばあちゃんから女王まで幅広い役柄を円熟の演技で魅せ、イギリス王室から“Dame(デイム)”の称号を授与されているほどの名優です。
そのジュディ・デンチの出演した映画のおすすめランキングを、イギリスの新聞が2019年に発表し、1位に輝いたのは、『あるスキャンダルの覚え書き』(原題:Notes on a Scandal、2006年)。
現代のイギリスを舞台にしたこの映画で、ジュディ・デンチはベテラン中学校教師、バーバラを演じています。
ラザニアはイギリスの普段のごちそう
映画の中で、バーバラが勤める中学校に赴任してきた美術教師、シーバを演じるのがケイト・ブランシェット。
親しくなった2人。ある日シーバはバーバラを自宅に招待します。
そのとき、シーバがバーバラのために作ってもてなしたのが、ラザニア。
「ラザニアぐらいだけれど」みたいなことを言って、でも、そこには、そこまで肩肘張ったものではないけれど、だからといって普段の食事ではない、あなたのためにちょっと張り切って料理したのよ、そういうニュアンスが感じられるわけです。
そうなんですよね。
ラザニアは、日本でもよく知られているイタリア料理ではありますが、 イギリスでもおなじみの一品で、家庭のコンフォートフードのひとつです。
スパゲッティ・ボロネーゼなどと並んで、イタリアルーツの料理です。
今の感覚だとちょっとノスタルジックな趣があるかもしれませんが、ひと昔前だと、ラザニアはイギリスの普通の家庭のちょっとしたごちそうといったイメージでしょうか。
日本だと、たとえば人が集まったときに、ちらし寿司や唐揚げを作ったり、誕生日の夕飯にハンバーグを、というのと似ているかもしれません。
そう、ラザニアは一般市民のごちそう。
ロックバンド、オアシスのファーストアルバム『オアシス』(原題:Definitely Maybe、1994年)の中の「ディグジーズ・ディナー(Digsy’s Dinner)」にもラザニアは登場します。
リアム・ギャラガーが例の調子で「らっざーーーーにぃゃあああーー」と歌っていますよ。
文=羽根則子
食のダイレクター/編集者/ライター、イギリスの食研究家。出版、広告、ウェブメデイアで、文化やレシピ、技術、経営など幅広い面から食の企画、構成、編集、執筆を手がける。イギリスの食のエキスパートとして情報提供、寄稿、出演、登壇すること多数。自著に、誠文堂新光社『増補改訂 イギリス菓子図鑑』など。