ロンドン初の手巻きバー登場、シェフは日本仕込み!

ロンドン初の手巻きバー登場、シェフは日本仕込み!

昨年夏、ロンドンに初めて手巻きバーが登場し、脚光を浴びている。巻くのは銀座などで修業をした若手イギリス人。赤酢のシャリは完璧。近海で獲れる魚を使った最高の手巻きに、グルメなロンドナーたちの評判も上々だ。

ロンドンの飲食業界は今、とても困難な時期を迎えている。ブレグジットとパンデミックのダブルパンチでヨーロッパから来ていた労働力が国に帰ってしまい、未曾有の人手不足に見舞われているのだ。飲食店では人材を探す一方で、シェフたちは長時間労働を強いられている。もうヘトヘトなのである。しかし食への情熱で、なんとか持ちこたえている。

昨年の夏に立ち上がったロンドン初の手巻きバーでエグゼクティブ鮨シェフに指名されたショウラン・スティーンソンさん(Shaulan Steenson/冒頭写真)も、仕入れ・仕込み・営業と毎日てんてこ舞いだ。オーストラリア生まれのイギリス人であるショウランさんの技術は生粋の日本仕込み。ワーキングホリデーで渡った日本の文化に一目惚れ。銀座はっこくで佐藤博之さんから手ほどきを受け、富山の鮨し人での経験を合わせて1年2カ月を日本で過ごした。鮨は素材との真剣勝負だと身体と心ですぐさま理解したショウランさんは、言ってみれば「洋魂和才」の人。だが話していると、魂はすぐに日本へと飛んでしまう。

店があるのは今市内で最もホットな南ロンドンの屋内マーケット。食に個性を求めるロンドナーたちが目指す、トレンド発信地である。日本食が大人気の食ジャンルとしてロンドンのフードシーンに君臨してもう10年以上が経ち、鮨ブームは一巡し、現在は変化球よりも古典的な鮨を求める人が多くなった。「本場の味とは?」を追求する人が増えたということだ。そんな中で、ショウランさんの手巻きバーは古くて新しい本物の日本を体験させてくれるユニークな鮨処として注目されている。

手巻きと言えば日本では家庭でいただくことが多いが、ロンドンではむしろ高級鮨店のおまかせの最後に出される「締めの1本」のイメージが強い。ショウランさんは山形産のつや姫を使った旨味の強い自慢の赤シャリで、サステナビリティに配慮した鮮魚や野菜を巻いていく(ロンドンの高級店では赤酢のシャリが主流だ)。ノリで底をきれいに閉じる技術も含め、その職人手巻きは真剣に美味い。「僕が修業した日本の店は初心者に対してとてもおおらかで、鮨を握らせてもらえる時期も早かった。師匠たちからは本当に多くを学ばせてもらった」。

本日の盛り合わせはスペイン産の熟成マグロ、コーンウォール産ヨーロッパヘダイ、モンゴウイカの3種。土佐酢のジュレで。ヘダイは水揚げされた白身魚の中でも風味を重視して選んだ品種。
本日の盛り合わせはスペイン産の熟成マグロ、コーンウォール産ヨーロッパヘダイ、モンゴウイカの3種。土佐酢のジュレで。ヘダイは水揚げされた白身魚の中でも風味を重視して選んだ品種。
「銀座はっこく」仕込みの赤身は名物の一つ(左)、右はコーンウォール産ロブスター。千切りキュウリと六甲味噌入り自家製マヨネーズで巻く。
「銀座はっこく」仕込みの赤身は名物の一つ(左)、右はコーンウォール産ロブスター。千切りキュウリと六甲味噌入り自家製マヨネーズで巻く。
握りではなく手巻きなのは純粋にオーナーの好物だから。特にこの鰻きゅう巻きが好きなのだとか。仕上げの味噌汁は昆布と鰹節で丁寧に出汁をとったもの。隠し味は七味。
握りではなく手巻きなのは純粋にオーナーの好物だから。特にこの鰻きゅう巻きが好きなのだとか。仕上げの味噌汁は昆布と鰹節で丁寧に出汁をとったもの。隠し味は七味。

イギリスに戻ってからは最高峰の鮨レストランとして揺るぎない地位を築いているEndo’s at the Rotundaで2年を過ごし、働いている間にミシュラン一つ星を獲得したのは刺激的な体験だった。今は自分の城を、客とのコミュニケーションの中でじっくりと築き上げているところ。そして日本にいる師匠たちにそうしてもらったように、後進の育成にも力を注いでいる。

ショウランさんのような日本の心を理解する本物の鮨職人がロンドンでは大勢育ってきており、「鮨屋の厨房は日本人だけの専売特許ではなくなりつつある」というのは、つい最近経験豊富な日本人の鮨シェフから聞いた話だ。とはいえショウランさんに限って言うと、将来は「囲炉裏レストラン」を日本でオープンするのが夢なのだとか。囲炉裏を囲んでお客さんにくつろいでもらいながら、彼が信じる料理を提供していく。ふと私もいつか、そこを訪れてみたいと思った。彼の料理と情熱には、そう思わせる何かがある。

Temaki
http://temaki.co.uk

命の次に大切な包丁は合羽橋で入手した。「いつか日本に帰りたい」
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text・photo:Mayu Ekuni 協力:英国政府観光庁

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