シェフの切り札調味料「マルディ グラ」和知徹さん 07年5月号


これぞ私の調味料・スパイス使い

「もう携帯で写真を撮る必要はない。お客の舌と脳に刻みこまれる料理を提供したい」

こう意気込みを語るのが、フランス料理に軸足を置きながらも国籍にこだわらない料理も定評がある、「マルディグラ」の和知徹さん。和知さんが考える記憶に残る料理とは、意外性があったり、ひと皿のなかでも味や食感などに〝ギャップ〞を感じさせる料理だ。そうした料理をつくるうえで欠かせないアイテムがスパイシーな自家製調味料なのだ。

たとえば、自家製ケチャップはトマトではなく、酸味が少なく独特な香りと甘味のある赤ピーマンを使うのがポイント。市販のトマトケチャップよりもフレッシュ感があるうえ応用範囲が広く、ベーシックな調味料として揚げ物のソースやパスタソースなど、さまざまな料理に使える。見た目は市販のケチャップと変わらないため、ほぼ100%のお客が赤ピーマンと聞いて驚くという。

そして、豚の血を使ったカレー風味のソースも印象深い。「ひと皿の構成の仕方には無難にまとめる方法と、ギャップを生み出す方法がありますが、後者の技法のために考えた調味料がこれ。中南米料理にあるような、コクのある乳製品とピリ辛味の組み合わせの料理のためにつくりました。コクまろとピリ辛の取り合わせは、日本人のDNAにはない新鮮な味ですよね(笑)」と、和知さん。ソース自体も豚の血のコクと、さまざまなスパイスが醸し出すカレーのような風味と辛味があり、複雑で深い味わいだ。

スパイスを多用することで料理に変化が生まれ、幅が広がるが、主役の肉や野菜を引き立て、ワインの邪魔をしない分量を見極めることも大切だ。また、和知さんにとってスパイスは、かつて旅をした国の思い出につながる思い入れのある素材。テクニック的な面からだけでなく、純粋にスパイスからその国の風土や人々の日々の暮らしが垣間見えることも大きな魅力だという。

個性の強い豚の血とスパイスでギャップのある味や食感を

血のソースの材料
(作りやすい分量)
タマネギ 1個
ニンジン 1本
ニンニク 2片
豚の血 大さじ4
ターメリック、マサラスパイス、コリアンダーパウダー、ジンジャーパウダー、カイエンヌペッパー、クミンパウダー 各小さじ1
ブイヨン(鶏) 150ml
ブイヨン(牛) 150ml
塩、コショウ、バター 各適量

作り方
タマネギ、ニンジン、ニンニクはよりストレートに風味を出すためにフード・プロセッサーにかけ、塩、コショウを加えてバターで炒める。スパイスを加えてさらに炒め、スパイスの香りが立ってきたら鶏と牛のブイヨンを加えて15分間ほど煮込む。豚の血を加えて混ぜ合わせ、とろみが出てきたら火からおろす。冷めると凝固する。これは基本となる配合なので、イメージする味に合わせてスパイスの分量を変えるとよい。

その他の応用
ジビエのソース、ハンバーグに混ぜ込む、エビのグラタン風オーブン焼きなどに。

意外性ある赤ピーマン風味のケチャップで驚きを

ケチャップの材料
(作りやすい分量)
赤ピーマン 2個
白ワインビネガー 180ml
グローブ 2~3粒
オールスパイス 小さじ1
シナモンスティック 1本
砂糖約 30g
岩塩 少量

作り方
赤ピーマンはざく切りにし、少量の水で柔らかくなるまで煮る。残りの材料とともにミキサーに入れ、なめらかになるまで攪拌する。鮮やかな赤色を出すために、赤ピーマンは皮ごと使用するのがポイント。漉さずにそのまま使用する。酸味と甘味のバランスのとれた味にしたいので、赤ピーマンの甘さに合わせて砂糖の量は微調整する。ちなみに、やさしい素材のため、スパイスも甘い香りのもので統一した。

その他の応用
揚げ物に添える、パスタソース、サラダのドレッシングなどベーシックな調味料として幅広い料理に応用できる。

自家製調味料で記憶に残る料理を

ピジョン&ライス

プエリトルコライスという、南米をイメージした料理をアレンジしたもの。バターライスの上にスライスした鳩をのせ、キドニービーンズ入りの辛味の効いたミートソースをかけ、グリュイエールチーズをたっぷりふる。オーブンで焼き上げ、すぐに料理の縁に沿って豚の血のソースを流すと、カレーのようなスパイシーな香りが鮮やかに立ち上ってくる。血の生臭さはまったくなく、コクに変わっている。チーズのまろやかな風味とのギャップが印象的で、ワイルドでパンチの効いたひと品だ。

レッドハンバーグステーキ

200gもあるボリューム満点のおにぎりのようなハンバーグに、たっぷりとケチャップをかけた。しかも、トマトならぬ赤ピーマン風味にまた驚かされる。ハンバーグは厨房で牛肉を粗く挽き、牛の腎臓も加えて複雑味をアップ。自家製ケチャップならではのフレッシュな赤ピーマンの香りとマイルドな酸味の相性がいい。また、ケチャップにも使われているオールスパイスをハンバーグにも加えることによって、全体としてまとまりのある味に仕上げた。

text by Toshie Shimizu/photographs by Haruko Amagata

本記事は雑誌料理王国2007年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2007年5月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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