シェフたちの「肉」勉強会。


冷蔵庫から出してすぐ
常温に戻さずに焼きはじめる

肉の厚さは2.5~3㎝が理想
薄いと火が入り過ぎる
できるだけゆっくり火を入れたい

藤本 深夜0時なんて時間にお集まりいただいてありがとうございます。
仲本 ずっと藤本さんの噂を聞いていたので楽しみにしてきました!
前田 僕もです。
植村 自分は、何度目かな? ところでみんなはどんな火入れしてんの? 自分とこでは、途中、サーキュレーターとかオイルバスも使うけど、最終的な仕上げはほぼ炭やね。
仲本 僕は、元さんから教えてもらった「温蔵庫」を使ってます。フライパンでさっと表面を焼いて、60度にした温蔵庫で火入れ。出し入れしながら、芯温計を差すと55~58度になる。お客さんが食べるスピードによって、回数を多くします。それで、最後の仕上げでフライパン。
前田 温蔵庫は、営業中にほっとける反面、温蔵庫任せになって考えなくなる。繊細な、微調整の部分が必要になる部分、例えば水分が出るのを押さえたいとか、肉のハリをもっと張らせたい、というイメージは、温蔵庫だけで表現できないから。

結局、自分のイメージが答えで、そこにもっていくためにいろいろな感覚が必要なのに、数字に頼りだすと、自分の感覚が研ぎ澄まされなくなって、数字が答えになってしまう。
植村 元がいうように、答えは自分なんやから、今は、そこを試してる途中かな。自分が答えなんやけど、まだ自分ではできていないかもね。
藤本 僕は最終的には、すべての部位で火入れを変えます。脂によって熱の伝導が違うし、焼き目の付き方も違います。肉の厚さは2・5~3センチが理想で❶、薄いとすぐに火が入るし、中の肉汁がずっと動いた状態なので、カットすると汁が出てきてしまう。それを抑えるために厚く切って、火が入る時間を長くしてるんです。それと冷蔵庫から出してすぐに塩を打って、炉に入れます。
前田 え?常温に戻さないの?
藤本 そうです。炉窯の扱いで一番難しいのは、最初の焼き。ここでしっかり表面を焼き込んで肉汁を閉じ込める必要があって、できるだけ高温で焼きたい。でも、中に入る熱を少しでもゆっくり入れさせたいので、冷たい状態から焼きはじめるんです。

サーロイン
イチボ

火入れが安定する理想のサイズは、重量は最低120ℊで、厚さは2.5~3cm。「赤身は火が入り過ぎるとパサパサになるので、サーロインよりも厚く。温度も低めで火を入れます」と藤本さん。

肉は一度も炉から出さず
常温で休ませることなく焼き続ける

表面を焼き込んで
肉汁を中に閉じ込めておくためにも最初にしっかり塩をふっておく

藤本 塩は、表面にしっかり張りつけています❷。炭で表面をしっかり焼いてメイラード反応させながら、塩の食感も楽しんでもらえるように。
仲本 僕は焼く前に塩はふらない。
前田 僕も。塩をふることで水分が出て、肉質が変化する。僕の場合は、長時間の火入れになるので、塩が浸透してしまうと加工肉みたいになってしまうんです。植村さんは?
植村 当たり前のように先にふってた。打つのも結構アバウト。打って、すぐ焼くしね。時間もおかない。
前田 自分は、最後の仕上げの前に打って、もう一回加熱して肉の中に浸透させる。断面にのせるのは大きい塩で、噛んだ時の味の変化。ガリッとするのは、噛んだ時に塩味の強い塩、肉の旨味のいろいろなヴァリエーションで、食べるときのリズム感を作りたい。お肉をいろいろなリズムで食べてもらえるイメージかな。
仲本 炭の温度ってどれくらいなんですかね?
藤本 俗にいわれるのは、800度なんですが、それだと塩が液化するので、そこまでいっていないと思います。600~700度で火を入れているんじゃないでしょうか。
仲本 でもすごいな、その炉から一度も出さずに焼き終えるんでしょう? 僕らだと、ずっとオーブンの中に入れてるってことですよね。
前田 これで焼くなんてのは、ぜんぜん想像できない。
植村 でも、なんで休ませるんやろ。
前田 肉に余熱で火を入れる、ゆっくり火をいれる。肉汁を落ち着かせる。焼いてそのまま切ったら、肉汁が出てしまうからかな。真ん中に火が入っていないということもあるし。焼いた時間と同じだけ休ませるのはセオリーだよね。
藤本 それじゃ、肉を炉に入れます。
全員 ええー、そんなに(炭に)近いんや?❸ うわぁ、バチバチいうてる。うわぁ、(炉窯の扉を)閉めた。
仲本 最初にリソレをがっつりやるんですね。肉から落ちる油が炭に当って煙を出して、燻製の効果もある。肉からでる水分が水蒸気になってる。焼きながら、燻す、蒸すをやってるようなもんですね。

高知県産の「土佐の海の天日塩 あまみ」を使う。以前は、塩の手離れを良くするために、自分で塩を焼いていたという藤本さん。「植村さんと話す中で、すでに火が入ったものを炭で焼いても本来の塩の良さが出ないんやないか、と思ってやめたんです」。

❸ 超近火!バチバチいってて大丈夫?

炉窯焼きで一番苦労したのは最初の超近火の火入れだったという藤本さん。「最初は、表面にメイラード反応を起こすために、吸気口を空けておくと炭がマックスになってそれで焼いていましたが、イメージと違った。今は、開けて締めて、を繰りかえす。マックスにいく手前で焼き出すイメージ。最初の炭の威力を知ること、最初の火入れを1㎜か1.5㎜で火入れしたんです」。

夜0時から始まった炉窯炭焼きの勉強会は、明方まで続いた。「炉窯で他の肉も焼けないかな?」「鴨とかいけるんちゃう?」「魚なんて焼いたら、めっちゃおいしいと思うで」「ああ、早く鮎の時期にならないかなぁ」と、料理人魂に火を付けたようだ。右から、植村さん、前田さん、仲本さん。

ストレスをかけないように
高温多湿の炉内で肉を休ませている

炉内の温度帯をイメージし
そのなかで適切な場所に肉を置いて均一に火を入れていく

藤本 炉内の奥の壁にラックを作って、数センチだけども、炭から距離を変えています。裏返したり、方向を変えて縦にしたりして、肉に火が入っていくようにしています❹ 。
前田 数センチでも変わるんですね。
藤本 オーブンから出して、常温で休ませるのは、サウナと水風呂を行き来しているイメージがあって、それは肉にとってはよくないのではないかと思うようになった。それなら、炭の温度と炉内の温度を管理して、炉内で休ませようと思ったんです。

炉内は、炭の付近の次に排気口の周りの熱が高い。僕の中では炉内の温度帯は8ブロックくらいある❺。サーロインは排気口の近くの熱が高いところ、イチボは熱が低い逆のサイドで火を入れます❻。


――約20分で焼き上がり。試食。

植村 噛んだら噛んだだけ肉汁が出てくる。これすごいな。
前田 あははは(笑)、すごい!
仲本 サーロイン、おいしい! 表面パリパリ、コントラストがあって、中がジューシー。塩は最初だけ?
藤本 脂といっしょに流れるので、それを計算にいれてふらないといけない。サーロインは強めにふります。
仲本 塩が焼かれて、肉の中に浸透しない。だからガリガリしている。
前田 この表面の香り、めっちゃ好き。過剰な薫香じゃない。
植村 自分たちが信じていたものが否定されてる! でも旨い! 革命や。だって、説明できないから。
仲本 うちらの仕事ってそう。24 時間かけて火を入れた肉と、網でジューと火を入れた焼肉を比べて焼肉の方がおいしいってなったら、僕らの仕事、過程は自己満足になってしまう。結果が全てなんやからね。ああ、いつになったら、それなりにできるようになるんやろ……(笑)。

まずは、店に戻ってガンガン炭を起こして、表面にメイラード反応を起こして、温蔵庫で高温で、休ませる方法をやってみますわ!
前田 ゼロから考え直さないと。今回の焼きは、セオリーと全然違う。咀嚼して、再構築してみたい。新しい肉焼きが生まれるかもしれないな。
藤本 今日はお忙しい中、どうもありがとうございました。

❹塩がしっかりキャラメリゼされており、メイラード反応が起きている。

炉の中は8つの温度帯がある

空気の流れは、向かって左奥の排気口に流れている。そのため炉内の熱は全体的に左側が高く、右側が低い。図の❶の炭の近くがもっとも熱が高く、❽が低い。この中で、肉の部位や厚さ、その微妙な差、状況によって位置を変えながら焼いていく。

肉を休ませないで炉内で火入れ

サーロインは脂が多いので、上の図の❷の熱の高めのところに。イチボは❻あたりの低めで。

神戸牛の炉窯焼きステーキ
皿の上には、炉窯で焼かれた肉だけ。ピュレもなければ塩もない。付け合せは季節の野菜のみ。肉を食べるために店に訪れたゲストを満足させる至極のひと皿だ。サーロインは、ガリガリとした表面と中のやわらかさ、噛み締めると飛び出す肉汁、黒毛和牛の王様、神戸牛の旨さをダイナミックに味わえる。イチボは脂が少ない分、噛み締めることで深くなる旨味が魅力。サーロインとは異なる神戸牛の良さを発見できる。

植村 良輔さん

「料理屋植むら」
1976年、香川県出身。金沢に本店を持つ東京の「赤坂浅田」などで修後後, 2007年、神戸・北野にカウンター8席の「料理屋植むら」をオープンし、独立。この時、30歳。その後、2010年に、北野坂の現在地に移転し、カウンター11席に。「ミシュラン・ガイド 関西」2014年版以来、二ツ星。

仲本 章宏さん

「リストランテ ナカモト」
1979年、京都府出身。料理専門学校を卒業後、21歳でイタリアに渡り、「エノテカ・ピンキオーリ」などで約4年間研鑽を積む。その後、アメリカ・ニューヨークや、東京・南青山のリストランテを経験した後、故郷・木津川に2011年、「リストランテ ナカモト」をオープンし、独立した。

前田 元さん

「MOTOI」
1976年、京都府出身。「リーガロイヤル京都」の中国料理部門を経てフレンチに転身。渡仏して1年修業を積む。帰国後はホテルオークラ京都「ピトレスク」、大阪「HAJIME」などで経験を重ねる。2012年「MOTOI」を京都・富小路二条に開店。「ミシュラン・ガイド 京都・大阪」2013年版以来、一ツ星。

本記事は雑誌料理王国281号(2018年1月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は281号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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