フランス料理技術講習会 by勝又 登氏 〜サスティナブルな感性 terroirの魅力を学ぼう〜


「月曜シェフ塾」は、フレンチやイタリアンを中心としたプロの若手料理人、ホテル勤務者などを対象にした、低価格で調理技法を学べ、試食もできる料理講習会だ。講師は、業界を代表する高い見識と調理技術を有する一流シェフ。レストラン業界の休みが多い月曜日を基本に開催している。

2023年1月16日(月)、東京・渋谷の「服部栄養専門学校」のステューディオ ドゥ キュイジーヌ(別館ANNEXE 2-3階)で、「オーベルジュ オー・ミラドー」の勝又 登シェフによる「フランス料理技術講習会」が開催された。今回のテーマは、「サスティナブルな感性terroirの魅力を学ぼう」だ。1986年、勝又シェフは、箱根に日本初の宿泊施設付きフランス料理店「オーベルジュ オー・ミラドー」を開いた。コンセプトは、「その土地の食材を活かして料理を作ること」。それはまさに「テロワール」であり、勝又シェフは35年超、それを実践し続けてきた。テロワールの魅力を熟知する一方で、難しさも知り尽くした勝又シェフのフランス料理技術講習会とあって、多くの料理人たちが会場を埋めた。

最初の料理は、「Ormeau、Gribiche 蝦夷鮑、グリビッシュ」。
「これはクラシックな調理法ですけれど、アワビを美味しく食べることができます」と勝又シェフは説明する。フライパンにニンニク、ローズマリー、カイエンヌペッパー、オリーブオイルを入れ、アワビを上向きに乗せる。スプレーでアワビに日本酒を吹きかけ、上にアルミホイルを乗せて、ごく細火にかける。ときどき日本酒をスプレーで吹きかけ、だまし焼きにする。
「アワビが酔っ払って気持ちよくなったところに火が入るというイメージですね。アワビは高温で焼くと身が硬くなるので、ごく弱い火でアワビにストレスをかけないように焼くのがポイントです」。
タマネギ、コルニッション、ケッパー、ニンニクのみじん切り、プチトマトをボウルに入れ、ケッパーの汁、白ワインビネガー、オリーブオイル、マスタードを入れ、塩・胡椒を加えて混ぜ合わせてグリビッシュソースを作る。
「グリビッシュソースは酸味があり、かけるとアワビがより美味しくなります」。
続いて、アワビを殻からはずし、コライユをバターとともに裏ごしし、コライユバターを作り、赤キャベツは千切りにしてボウルに入れ、温めた赤ワインビネガーをかけて混ぜ合わせ、汁を切る。その後、ニンニクのみじん切り、クミン、オリーブオイル、塩・胡椒を入れてマリネする。
皿に、赤キャベツのマリネとアワビを盛り付け、グリビッシュソースをかけてハーブを添える。「コライユソースは、お客さまに提供するときに、お客さまの目の前でかけます」。

続いては、「Noisette de chevreuil à la mandarine 鹿背肉のロースト スパイス風味 江の浦みかん ポワヴラードソース」。鹿背肉を140gに切り、みじん切りにしたセロリの葉、ポワローの青い葉、ニンジン、ニンニク、サラダオイルでマリネする。
「鹿背肉は、焼いた香りが出るくらいが丁度いいです」。

また、ポワヴラードソース用にも、鹿肉とスジを、みじん切りにしたセロリの葉、ポワローの青い葉、ニンジン、ニンニクにサラダオイルを加えて2日間マリネする。骨とスジ、野菜とつけ汁に分け、骨とスジはオイルをかけてローストし、油を切って別鍋に移す。同じロースト鍋にタマネギ、ニンジン、セロリ、ポワロー、ニンニク、赤ワインビネガー、白ワインビネガー、赤ワイン、白ワイン、タイム、ローリエを加え、肉汁を落としながらトマトペーストと共に色良くソテーし、再び骨の鍋に移し、熱したジュを70% 煮詰める。さらに、フォン・ド・ヴォーと水を加えて熱し、あく取りをし、砂糖をカラメルにし、ミニョネットを加えて香りを出したら、赤ワインビネガーで鍋底についた焦げや旨みを煮溶かす。これを70%に煮詰めたジュの中に加え、約8時間ゆっくり煮込んだあと、布漉しし、ピュアなポワヴラードソースに仕上げる。
さらに、赤ピーマン、黄ピーマン、クルジェット、ナスをサラダ油で軽くフライにしておく。鍋にオリーブオイルとニンニクを加えソテーし、フライにした野菜、白ワイン、タイム、トマトを入れ、塩・胡椒をして柔らかく煮込み、コンポートを作る。

140gに切ってマリネした鹿背肉に塩・胡椒をし、ポワレする。250〜300℃のオーブンに1分入れ、ホイルをかけ、5分ほど休ませる。これを5回ほど繰り返す。
鍋にみかんのリキュールを入れて熱し、アルコールを飛ばし、みかんジュースを加えて1/2になるまで煮詰める。さらに、先に作ったポワヴラードソースを加えて1/3量になるまで煮詰める。これがみかんのポワヴラードソースとなる。
コンフィしたサツマイモをバターで焼き色を付け、皿に盛り、上に野菜のコンポートと、オリーブオイルで和えたエノキ茸、香草、食用花を添える。
最後に、みかんのマーマレードを盛り付け、ジュニパーベリーのみじん切り、粗びき黒胡椒、ピンクペッパーを添え、鹿背肉をバターで色良く焼いて盛り付け、その上にみかんのポワヴラードソースを添えれば、みかんの甘味や酸味が効いたジビエのひと皿の完成だ。

3つ目は「Loup de mer Poêler, calamar à la Bolongnese, polenta, purèe de broccoli スズキのポワレ、ポレンタ、芭蕉イカのボロネーゼ ブロッコリーのピューレと共に」。冷した野菜の出汁に塩麹10%を加え、スズキのフイレ220gを入れて4時間マリネする。ポレンタに牛乳、バターを加えて弱火で煮たあと、パルメザンチーズ、塩・胡淑で仕上げる。

鍋にオリーブオイルを入れ、みじん切りにしたニンニク、タマネギ、セロリを加えて弱火で焦げないようにゆっくり火を入れ、さらに粗く切った芭蕉イカを加え妙め、白ワインで鍋底などについた旨味や焦げを煮溶かす。さらに、ホールトマト、トマトペースト、フェンネル、スズキの出汁を加え、40~60分煮込み、ラグーを仕上げる。これで、芭蕉イカのボロネーゼは出来上がり。
また、鍋にオリーブオイルを入れ、ニンニクのみじん切りを香りが出るまで炒め、タマネギとセロリのみじん切りを加えてさらに炒める。白ワイン、ホールトマト、イカ墨、スズキの出汁、タイムも入れて30 分煮込み、味を調え、ミキサーにかけてイカ墨ソースを作る。

さらに、ブロッコリーは重曹、塩を入れたお湯で下茹でし、氷水で冷やしてミネラルウオーターを加え、ミキサーにかけ、少量のゲルパウダーでとろみをつけ、ブロッコリーのピューレを作る。

4時間マリネしたスズキをマリナードから取り出し、ペーパータオルで水分をふき取る。スズキにオリーブオイルをスプレーし、塩・胡淑をしてテフロンのフライパンでごく弱火で加熱する。
「ここでは、スズキのタンパク質に火が入り過ぎないように注意するのがポイントです。コラーゲンは上から下に落ちてくるので、皮目を下にして焼くようにします。 マリネするとアミノ酸がたくさん出てきて焦げやすくなるので気をつけてください」と勝又シェフはアドバイスする。
温めた皿にポレンタ、イカ墨ソース、香草を盛る。テフロンのフライパンを熱し、オリーブオイルをスプレーした半生のスズキをカリッと香ばしく焼き、切り分けて皿に盛り、上に芭蕉イカのボロネーゼを添える。ブロッコリーのピューレを温め、オリーブオイル、塩、胡椒で味を調え、フォン・ブランで濃度を調整。最後に客の前で、このブロッコリーのソースをかける。
「イカ墨のソースも芭蕉イカのボロネーゼも味がしっかりしているので、ブロッコリーのピューレはさっぱりした味わいのほうが相性はいいですね」。

「コンフィの良さは、油の中でゆっくり水分を取ることができる点。食べたときの食感が違います」「アワビは火を入れると一度は硬くなるけれど、その後柔らかくなります」「猪や鹿、野鳥類など野生の肉には、鉄のフライパンを使っています」「山の素材の場合は、基本的に岩塩を使っています」等々……。
長年テロワールと向き合ってきたシェフならではの実用的なヒントが詰まった講習会は、若い料理人たちにとってたくさんの発見があったようだ。

text:山内 章子

Sautoir Club/月曜シェフ塾 

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