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【芸術家たちの食卓】ブリューゲルの代表作に描かれた?フランドル風プリンの作り方


道徳観、宗教観を反映させた作品が多い謎多き画家・ブリューゲル。『農民の婚礼』は、 描かれた料理がいまも謎に包まれる。大きな板で運ばれているお皿は、お粥なのか、はたまたプリンなのか。

ピーテル・ブリューゲルのフランドル風プリン

ブリューゲルは謎の多い画家である。いつ、どこで生まれたかもわかっていない。そして彼が描いた絵はさらに謎めいている。群像を描くことが多かったが、聖書の物語や諺を題材にしながらも、そこには道徳的な戒めや教訓が秘められていることがほとんどだった。

たとえば、『農民の婚礼』には、何が描かれているのだろうか? 農家の素朴な結婚式の風景――村の人たちが集まって祝杯をあげている平和で牧歌的な絵だがここにも不可思議な要素がいくつか隠されている。

農民の婚礼
1568年頃 油彩、板113.5×162.5cm
ウィーン美術史美術館蔵(オーストリア)

画面中ほどの右側に、花嫁とおぼしき女性が頬を染めて腰かけている。両隣の女性は母親と姑かもしれない。花婿はどこにいるのだろうか?「花婿の到着前の場面」「花婿はおもてなしをするのでお皿を配っている手前の人物」などさまざまな意見があるが、はっきりわからない。

さて、そのお皿の中身は何なのか?これも、謎に包まれている。調べた範囲では、ヴライ(Vlaai)というネーデルランド地方のお菓子という説が有力だ。現在のヴライがどんなお菓子なのかさらに調べてみると、堅いパイ生地の中に、煮た果物が入っていて、この絵とは少し様子が違うように思える。ほかに「お粥」「プリン」という説があり、板にのせたお皿の中が、白と黄色の2色であることから「ミルク」「サフラン」のふたつの味があるという見解もある。

テーブルの上を見ると、切ったパンと骨付き肉がお皿にのっている。ひととおり料理が出終わった後と考えるならば、デザートだろう。手前の子供は指をなめて、最後までお皿にかじりついている様子であり、傾いたお皿の中身は微動だにしていない。しかも酪農が盛んなこの地方ではおいしい牛乳と卵にはこと欠かなっただろうから、やはりこれはウェディングプディングと思いたい。婚礼の最後は、甘くお腹が満たされ、誰しもが最後のひと口まで味わいたくなるようなデザートが出されたのではないか。

農民たちが婚礼を挙げるのは、収穫の直後。つまり、ネーデルランドの厳しい冬の直前であった。ふだんは過酷な労働に従事するために髪を束ね、布巾をかぶっている農家の女性だが、花嫁だけは髪を下ろすことを許される。

ブリューゲルはこの絵の中に暴飲暴食への戒めを込めているのかもしれない。でも、次々に運ばれてくるプリンをお腹いっぱい食べたい!という、鑑賞者を食欲へ誘ってしまうのは、画家の手腕そのものであるという矛盾に、彼ははたして気がついていただろうか。

【レシピ】フランドル風プリン

フランドル地方に伝わるプリンは、どのような味だったのだろうか。ブリューゲルはなにひとつメモを残していない。クレーム・ブリュレ風に表面をカリカリッと焦がした素朴な味だったのかもしれない。

材料(3人分)

生クリーム…200㎖
牛乳…30㎖ 
卵黄…3個
グラニュー糖…35ℊ

作り方

  1. 生クリームと牛乳を鍋に入れ火をかける。沸騰する直前で火を止め、60℃ぐらいに冷ましておく(好みでバニラビーンズ、バニラエッセンスを加えてもよい)。
  2. 卵黄とグラニュー糖をボールに入れ、白っぽくなるまでしっかり混ぜ合わせる。
  3. 2に1を入れて、泡が立たないようゆっくりとよく混ぜ合わせて漉し、なめらかにする。
  4. 3を耐熱容器(ブリュレ型)に静かに入れ、天板に水を張り、200℃のオーブンで20分間ほど蒸し焼きにする。
  5. 焼き上がったら粗熱を取り、冷蔵庫で冷やす。
  6. グラニュー糖(分量外)を表面にまぶし、バーナーで炙って表面をカラメリゼにする。

ピーテル・ブリューゲル
Pieter Bruegel (1525?-1569)
ネーデルランドの代表的画家。素描家、版画家としても知られる。オランダ・ブレダ付近で生まれたとされているが不明。結婚を機にブリュッセルに移り、その地で没するが、生前、有力なパトロンを持ち活躍。道徳観、宗教観を反映する傑作を残した。


文・料理 林 綾野
キュレーター。美術館における展覧会の企画、美術書の執筆、編集に携わる。企画した展覧会に「パウル・クレー線と色彩展」など。『ゴッホ旅とレシピ』『モネ庭とレシピ』、近著に『フェルメールの食卓』(すべて講談社刊)。

北村美香・構成 竹内章雄・写真(料理)
construction & styling : Mika Kitamura /photo : Akio Takeuchi

本記事は雑誌料理王国第188号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第188号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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