焼き菓子勉強会「ピティヴィエ」のつくりかた


日本人好みの「しっとり・やわらか」に革新?
フランス小麦100%の小麦粉で作る「ホロホロ・しっかり」な焼き菓子の可能性

フランス菓子・料理研究家 大森由紀子さん PRESENTS
第2回 焼き菓子勉強会

永井紀之シェフ

パティシエール

 

小麦粉の勉強会第2回目は、フランスの伝統菓子や焼き菓子を広く提供している「メゾン・ド・プティ・フール」の西野シェフに、第1回目に試食したお菓子とはまた別の種類のお菓子を製作していただき、使用する小麦粉で、食感、風味がどう変わってくるかを食べ比べてみた。

試食に参加してくれたのは、先回同様、レストランやホテル、パティスリーの若きパティシエールたちである。普段、仕事の流れの中で、こうした食べ比べをする機会のない彼女たちの、真剣そのものの表情に、好奇心がのぞく。

小麦粉を変えて作った4種類のお菓子を食べ比べてみる

今回西野シェフが使用した小麦粉は、エクリチュール、スーパーバイオレット、カメリヤである。中でもエクリチュールは、日清製粉(株)が、ヨーロッパの焼き菓子に近い食感を出せるように、フランス産小麦100%で作った小麦粉。西野シェフは、お店で作る焼き菓子の大半をこのエクリチュールで作っていると言う。スーパーバイオレットは、蛋白質が少ない小麦粉で、軽い口どけのよいお菓子作りによく使われている薄力粉である。

種類のお菓子には、それぞれ、粉による違いが顕著に現れた。エクリチュールを使用したお菓子の中で評価が高かったのが、フイユタージュを使ったピティヴィエである。層が一定で、膨らみ方も均一。食べた瞬間からハラハラと繊細に生地が崩れ、軽さが際立った。また、中まで深く焼き色も入る。

もう一方の、スーパーバイオレットとカメリヤをブレンドして作ったというピティヴィエは、「フォークを入れたときにくずれず、しっかりしている」という結果に。作業性についてはどうだろう「。エクリチュールは、水分をよく吸うので、デトランプを仕込むときは、少し固めに仕上がるんですが、伸びをよくするためのヴィネガーなどを入れなくても、伸ばすときに抵抗感なく、よく伸びます。それと、エクリチュールは、火通りもいいですね」とシェフ。水分と生地の関係について、面白かったのは、揚げ菓子のクレープ・フリゼ・デ・ピレネーである。これはクレープ生地を揚げたお菓子だが、クレープを仕込む際、同量の水分でも、エクリチュールを使用した場合は、生地が若干しまるので、そのまま揚げると食感も、スーパーバイオレットを使用した生地とくらべると、もっちりした噛み応えの揚げ菓子となる。

日本人好みと本場フランスの菓子の差を埋められる可能性を秘めた小麦粉

また西野シェフは、「エクリチュールは、フランスでお菓子作りに使う粉に近づけて製造されているから、適度に灰分の量があって、色も濃いよね。だから、小麦の味というのをとても感じる。タンパク量も多く、小麦粉の分類でいえば、中力に近いから、しっかりした食感になるんですよね。でも、その分膨らみはそれほど期待できない。」とも言う。その膨らみの状態がよくわかるのが、スポンジ生地である。

エクチュールで作ったスポンジ生地は、スーパーバイオレット使用のスポンジ生地に比べ、焼き上がりの高さが低い。そして、粉の粒子が大きいため、食べると従来のスポンジのような軽さは出ないが、粉の持つ味わいはダイレクトに伝わる。

かたやスーパーバイオレット使用のスポンジ生地は、日本人が好みのやわらかくふわっとした食感。はちみつとスパイス入りのパン・デピスでも、同様な結果が出た。

エクリチュールのスポンジ生地はやわらかい生クリームには調和しないかもしれないが、その力強い食感は、バタークリーム、ムースリーヌクリームなどと合わせることによって、新たなお菓子作りの可能性を引き出すのではないだろうか。

2回にわたる勉強会を通して、お菓子は粉次第で、いかようにも変身することができるのだと再発見。粉を深く知り、自分の目指すお菓子作りをぜひ実現させようではありませんか。

ピティヴィエ Pithivier

材料

パート・フィユテ
エクリチュール 1kg
水 450cc
塩 20g
グラニュー糖 20g
バター 100g
折込み用バター 800g

作り方

エクリチュールをフォンテーヌ状にし、中央に柔らかくしたバターを置き、塩とグラニュー糖を溶かした水を注ぐ

エクリチュールを崩しながら、全体を混ぜてまとめ、ひとかたまりにする。

表面にナイフで、十文字の切り込みを入れて、ラップなどでくるみ、冷蔵庫で、2~3時間休ませる。

切り込み箇所から四方に生地を伸ばし、麺棒などでたたいて20×20cmの大きさにしたバターを中央に置く。

バターを包み込んだら、三つ折りを2回行い、冷蔵庫で2時間休ませる。

5と同じ動作を2回繰り返し、最終的に三つ折りを6回行い、半日休ませる。

生地を2.5mm厚さに伸ばして、直経10cmのセルクルで2枚抜く。

100g分のアーモンドクリーム(別に仕込む)を直径13cmの円形で冷凍にしたものを乗せ、全卵を周囲に塗る。

もう一枚の生地をかぶせ、ペティナイフで半円模様に切り込みを入れる。このとき、回転台があると便利。

200℃で30分焼いたら、一度取り出し、粉糖をかけて、さらに20分焼いて、表面をキャラメリゼさせる。}

大森由紀子=取材、文 富貴塚悠太=撮影

本記事は雑誌料理王国2013年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2013年1月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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