【食英語コラム】ロールケーキはあってもroll cakeはないんです。


スポンジケーキに生クリームや果物などのフィリングをくるっと巻いたものを“ロールケーキ”と言いますよね。

すでに日本語として定着しているので、カタカナで表記してある分には違和感がないのですが、これをアルファベット表記で“roll cake”とあるとどうでしょう。

すんなりなじめますか。

“ロールケーキ”は日本独自のカタカナ語

実は“ロールケーキ”はカタカナ語です。

海外にも“ロールケーキ”そのものはありますが、“ロールケーキ”を英訳した“roll cake”という言葉はないのです。

ではどういうか、というと、

“swiss roll”
“rolled cake”(巻いたケーキ、の意)
“(sponge) cake roll”(スポンジケーキを巻いたもの/スポンジケーキ巻き、の意)などと呼びます。

英語圏の国、イギリスでは、スポンジケーキを使ったロールケーキを“swiss roll”と呼ぶので、“swiss roll”という言い方がいちばんしっくりきます。日常生活では、上記3つのうち後の2つは、やや説明っぽく響くように思えます。

では、チョコレート味やイチゴやクリームをフィリングしたものはどう呼ぶのかというと、それぞれ、

“chocolate swiss roll”(チョコレート・ロールケーキ)
“swiss roll with strawberry and cream”(イチゴとクリーム入りロールケーキ)

となります。

また、スポンジケーキ以外の生地、例えばメレンゲなどで巻く場合は、”meringue roll” と表現され、

“○○ roll”

などとなります。

フランス由来の呼び方も

日本でもおなじみのフランスのクリスマス菓子、“ビュッシュ・ド・ノエル”はイギリスでも見られ、フランス語そのまま“bûche de Noël”とすることもありますが、その意味するところの“クリスマスの薪”を英語に翻訳して、“Christmas log” “Yule log”(“Yule”はクリスマスの意)と呼んだりもします。

そして、こういうクリスマスに登場する巻いたケーキや菓子を称して、”Christmas roll”と呼んだりもします。

さらに、ちょっと気取った言い方でロースケーキを“roulade”という言葉を用いることもあります。

読み方は“ルラード”。

フランス語由来の言葉で、日本でもフランスパンでなくバゲットというのと似たニュアンスで、ちょっとスノッブな印象を与えます。

“roll cake”だと???なわけ

では、なぜ“roll cake”だと具合が悪いのでしょう。

それは、“roll”は動詞だと“巻く”、名詞だと“巻いたもの”“巻き”であって、“巻いた” “巻かれた”を表現するからではないからなんですね。

なので、“roll”は、動詞なら、“rolled”として“rolled cake”となり、名詞として使う場合は“○○ roll”となるわけです。

“○○ roll”はお寿司の“鉄火巻き”などの”巻き”と同じと捉えると、わかりやすいかもしれません。

見ればわかる、感覚的に理解できる、といった声もありますが、せっかくなら日本語が母語でない人もすんなりと理解できる言葉を使って表現したいですね。


文=羽根則子

食のダイレクター/編集者/ライター、イギリスの食研究家。出版、広告、ウェブメデイアで、文化やレシピ、技術、経営など幅広い面から食の企画、構成、編集、執筆を手がける。イギリスの食のエキスパートとして情報提供、寄稿、出演、登壇すること多数。自著に、誠文堂新光社『増補改訂 イギリス菓子図鑑』など。


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