クラシックをしっかり解釈した上で、新しい料理に派生させていくのが使命「銀座レカン」


「これまで学んできた基礎を裏付ける料理が作れるように」そんな思いを込めるのは、フレンチの歴史を紐解き再構築した2皿。

僕にとって原点回帰とは、
まさに温故知新のような意味合い
高良康之さん◉銀座レカン

「昨今いろんな料理が出てきている中、グローバル化された部分やオリジナリティの追求ばかりがクローズアップされている」と高良さん。それが悪いというわけではないが、その店のオリジナル料理は学んでいても、基本を知らない若手が増えている実感があるという。シェフは基本が分かった上でアレンジを施していても、若手はアレンジ後の料理しか見ていないがために、基礎が分かっていない……。だからこそ、高良さんは原点回帰というものに温故知新の精神を重ね合わせる。
「もう一度基本に立ち返るということをやってみたい。自分が学んできた料理の基礎というものを、きちんと裏付けられるような料理作りを若い人たちにもしてほしいから」

時代に合った「軽さ」のために
澄んで濁りのないフュメを取る

高良さんの料理に欠かせないのは、現代のテクスチャーに合わせた、軽くて濁りのないベース。そのベース作りこそがフランス料理の歴史を振り返ることにもなる。中でも、最近あまり作られていない魚のだしでとったフュメ・ド・ポワッソンをあえて取り上げる。
「私がフュメ・ド・ポワッソンを最初に教わった1985年当時は、しっかり炒めた野菜と魚のアラを、真っ白になるほど煮出したものでした。1970年にヌーベルキュイジーヌが起こり始めて、新しくて軽い料理がどんどんでき上がっていた頃です。それに対応していくため、ベースにも軽さを出そうと、水につけるだけの方法でだしがとられていました」。水に素材を入れ、水でのばす。確かに軽くはなるが、それでは味がない。「そこから試行錯誤の末に辿り着いた、僕の方法です。ここ数年はずっとこの方法で作っています」フュメ・ド・ポワッソンを使う料理として高良さんが選んだのは、パン粉を付けて焼く魚料理をアレンジした「フロマージュを纏った真子カレイヴェルモットソース」。

フロマージュを纏った真子カレイ
ヴェルモットソース フュメ・ド・ポワッソンをベースにしたソースをカレイにからめて食べてもらいたいから、下にソースを広げる。

「クラシックをしっかり解釈した上で、新しい料理に派生させていくのが使命」

高良さんのフュメ・ド・ポワッソンでも、はじめに香味野菜とブーケガルニを使うところは変わらない。ただし、目指すのはあくまで濁りのないフュメ。そのため、崩れやすいタマネギは繊維に沿って切り、ペースト状になって液が濁るのを防ぐ。「欲しいのはタマネギの味わいだけ。濁らないフュメをとるために、野菜の切り方も考えます」魚のアラは天火で焼いたものを使う点にも注目したい。従来、魚のアラはフライパンで真っ白になるまで炒めるものだ。
「これも魚の味は欲しいけれど、白濁したものは欲しくないので、充分血抜きしたものをサラマンドルで焼いてから使います。煮つめてだしをとるのではなく、水に味わいを移すイメージです」焼くことで魚の香りだけを液体の中にエッセンスとして抽出できる。あくを取るためのレモンや白ワインビネガーも使わない。やはり、この先に派生させる料理に必要のない素材だからだ。代わりに使うのは少量の白ワイン。これまで抽出してきた味わいに角が立たないよう、細心の注意が払われる。

ブランマンジェの歴史を紐解き
素材を置き換える

現代においてクラシックと呼ばれる料理は、つねにその時代の最先端を行くア・ラ・モード(現代的)だった。歴史を掘り下げ、自分の知識や力を溜め込んでいく。そういった作業も原点回帰には必要だと、高良さんは力を込める。「ブランマンジェは本来、アントルメではなく鶏のブイヨンもしくは鶏肉とアーモンドのすりつぶしを一緒に炊き出していた料理でした」そんな時代とともに変化した料理の原点に焦点を当てながら、鶏のブイヨンとアーモンドの組み合わせのうち、アーモンドをカブに置き換えたのが「カブのブランマンジェ」だ。ブランマンジェでカブの根を表し、その上にカブの葉で作ったアイスをのせる。仕上げには、火を使うことで失われた素材の香りを呼び戻すものとして、貝割ダイコン、刻んで干した生ハムなどが使われている。
クラシックな料理を紐解き、そのまま現代に再現するのではなく、それを土台に次の料理へと派生させる。手本のような意欲作と呼べるだろう。「現代のようなレストランの形が成り立ったのは19世紀のこと。だから、その後に出てきた料理を古典の枠にはめるのはちょっと違うかなと僕は思うんです」と高良さん。「17世紀くらいにさかのぼって勉強し、料理の成り立ちを学ぶ。そういうところまで掘り下げて知識を自分の力として溜め込んでいく。その作業が原点回帰には必要なことだと思います」

カブのブランマンジェ
カブの根に見立てたブランマンジェ、葉に見立てたカブの葉のアイスクリームをひと皿に。素材に熱を加えることで失われた風味を、貝割ダイコン、乾燥させた生ハムの細切りなどによって呼び戻すことで再構築。

text 田中英代  photo 富岡敦、能谷わかな

本記事は雑誌料理王国2016年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2016年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする