響き合うオリジナリティ「料理屋 植むら」植村良輔さん×江戸切子職人 堀口徹さん


植村 俺らが出会って8年ほどになるけど、何か変わった?
堀口 料理人さんとのネットワークが劇的に広がったね。良ちゃんと知り合う前はゼロだったから。
植村 そうなん!?俺が最初なんや。あの頃いい切子が欲しくて、器屋さんに紹介してもらってんな。
堀口 自分は独立したものの、会社(堀口硝子)に工房を間借りしてた。そこに来たんだよね。ちょうど料理人と知り合いたいと思ってたんだよ。
植村 そしたら同い年やし、その日すぐに、一緒に飯食いに行った(笑)。僕は既製品ではない器を作家さんに作ってもらいたいから、お互いを知る必要があるねん。
堀口 自分は自分で、器が使われている現場を知りたいと思ってた。
植村 だからうちの店を見に来てくれって言うたんやん。
堀口 いやあ正直、神戸まで足を運ぶ予算も時間もなくて苦しかったんだけどさ。行って正解だったよ。
植村 あれは最初に注文した酒器30脚が届いてからやから、半年後ぐらいやったっけ。
堀口 そうそう。木箱に並べて品名を書くアイデアには感動したなあ。うちの商品にさせてもらってるよ。
植村 ちゃんと俺のアイデアやって言うといてや(笑)。
堀口 しっかり書いてるって(笑)。良ちゃんの発想には本当、驚かされてばっかりだよ。他にも、江戸切子って底も見ごたえがあるんだけど、お客さんにはなかなか見てもらえなくて残念だ、っていう話から……。
植村 それなら底に鏡を敷いたらええ、って鏡でコースターを作った。
堀口 そういう発想って、器を使う現場にいないと出ないんだよね。つくづく良ちゃんがやりたいことに応えなきゃ、って思うな。
植村 徹は十分に応えてくれてるで。ただ納期を守らない!
堀口 納期なんかないでしょ! 納得できるまでやってくれ、って言われる方がハードル高いんだよ!
植村 だからって、1年半とか2年とかは、ないわー。
堀口 だよね(笑)。
植村 まあ、スペシャリテのカニはわざと3年かかる器にしたんや。
堀口 製作途中のサンプルを送ったら「これ送り返してまた送ってもらえる?」って言われてびっくりした。
植村 ええ感じやってんもん。
堀口 まだ半分ぐらい摺りガラスの状態なのを、翌年は全面が透明になって、その翌年は完成してっていう3年計画で〝育む器”。良ちゃんが常連さんを新鮮に驚かせたい人だっていうのは知ってたから、想いをアシストしたくなったんだよね。
植村 「セコガニの面詰め」は代表作やから、徹とコラボできてよかった。かまくらをイメージしたデザインも、冬の料理にピッタリやし。
堀口 そういえば「切子って冬に使っちゃダメなの?」とも言ってたね。確かに夏っぽいけど、考えもしなかった。結露するから難しいかな。
植村 うちは温かい料理も盛ってるよ。ハマグリの温サラダとか山菜の天ぷらとか。反射を殺してしまうから、やっぱり常温の方がいいけど。そうや、切子だけで全料理やる?コース8皿を10席で80脚。四季の4パターンがいるから320……。
堀口 何年かかるんだよ!
植村 10年後とか? (笑)。
堀口 まったく、その自由な発想の元はどこにあるんだ。
植村 それ、よう聞かれるけど、自分じゃわからん。ただ〝考える〞時間は必要かもしれない。僕がよくやるのは、SNSの写真だけを見て、何なのかを当てる遊び。説明を見たら意外な答えやったりする。あと、商店街を歩いて観察するのも面白い。商店街って生活の集合体やから。
堀口 自分は車がそれだなあ。車体じゃなくて空間が好き。だから、いつでも運転できるようにしてる。微妙なアンテナはつねに張り続けてる。何かあったらすぐ反応したい。
植村 あと、テレビ番組をメモるっていうのも結構やる。
堀口 なにそれ。
植村 面白かった話を、次の日みんなに披露する。全然オリジナルやないけど、やってるうちに自分の感覚になっていく。そもそも僕らの仕事って「伝達」やから。食材や器や、作り手の想いを伝えるのが仕事。
堀口 あ、それわかる。料理も切子も手段であって目標じゃないよね。たとえばこの斑点は魚ななこもん子文って伝統文様で、子孫繁栄の意味がある。そういうことを伝えたいと思うわけ。
植村 へえー、知らんかった! そんなん教えてよ、魚卵盛るのに〜。説明書きとか付けてへんの?
堀口 今のところ付けてない。由来が失われてる文様が多くて、課題なんだよ。僕ら「自分がオリジナル」かどうかは重要視してないよね。
植村 うん、だいたい誰かが先にやってるし。自分は肉付けしてるだけで、ゼロからの構築は苦手。アーティストではないもん。
堀口 アーティストって「求められなくても作る人」だからね。オリジナリティを「こだわり」と捉えれば、僕の場合は〝選ぶ〞ことが得意だと思う。たとえば素敵だと思う人と同じ環境に身を置いたり、真似したり。そんな積み重ねじゃないかな。
植村 こだわりなら、僕も確かに強いわ。厨房機器まで焼き物で特注してるし、輪島塗だけで優に家一軒分ぐらいかけてるで。
堀口 試作品もちゃんと買い上げてるもんね。「次はこうして」と言いつつ。その男気があるから「この人を納得させたい」と思うんだよ。
植村 ま、おかげで借金だらけやけどな(笑)

煮アワビの土佐酢煮凝り
植村さんが「夏の王者」と呼ぶ兵庫県淡路産のアワビが主役。長く煮る必要はないと考えており、1時間だけ煮て味を含ませている。底には希少なタイラギ貝が敷いてあり、アワビのだしと土佐酢のジュレで味わう。盛り付ける切子は無色の沓形を選んで、涼やかな印象に仕立てた。

色とりどりの酒器30脚はすべて堀口切子の定番作品。ジャストサイズにあつらえた木箱に並べて、日本酒をオーダーしたお客に好きな器を選んでもらう趣向だ。蓋の裏には筆書きでそれぞれの文様名が記されている。

Horiguchi kiriko
堀口切子
東京都江戸川区松江5-10-2
5-10-2,Matsue,Edogawa-ku,Tokyo
☎050-3735-3755
http://kiriko.biz/

セコガニの面詰め
松葉ガニのメスであるセコガニを兵庫県浜坂から活けで仕入れて、塩ゆでにしたもの。1匹分を甲羅に詰めて土佐酢を添え、堀口さんの切子でかまくら仕立てに。シンプルながら高い技術が必要な植村さんのスペシャリテだ。11月の松葉ガニ解禁日から12月までの提供となり、これを目当てに訪れるリピーターも多い。

写真手前は製作1年目の半分ほど摺りガラスが残った状態。2年目は全面がクリアになり、3年目で上の写真の状態となって完成。"育む器"として3年間お客の目を楽しませた。輪島塗蒔絵の盆の中央には鏡が仕込まれており、切子を美しく反射する。スペシャリテだからこそ「この2人にしかできないことを」と考案した。

堀口さんのオリジナリティのルール

  • いつでも車の運転ができる状態でいる
  • 憧れる人と同じ環境に身を置く
  • いつも「選択」を意識する

植村さんのオリジナリティのルール

  • 商店街を歩く
  • SNSの画像だけを見て推理。説明を見て答え合わせをする
  • メモを取りながらテレビを見る

江戸切子職人
堀口 徹さん[堀口切子 三代秀石]

Shūseki(Ⅲ) Toru Horiguchi

1976年、東京都生まれ。1921年創業の堀口硝子・二代秀石氏に師事する。2008年に三代秀石を継承し、堀口切子を創業。12年に日本の伝統工芸士(江戸切子)認定。ニューヨークやパリ、ロンドン・在英国日本国大使館など海外においても作品を発表し、高い評価を受ける。江戸切子新作展最優秀賞、グッドデザイン賞など受賞多数。

進化を求める日本料理人
植村良輔さん[料理屋 植むら]

Ryosuke Uemura

1976年、香川県生まれ。金沢に本店をもつ東京の「赤坂浅田」で加賀料理を学ぶ。その後、神戸「西村屋」、大阪・北新地の老舗和食店などで修業を積み、2007年に弱冠30歳でカウンター8席のみの「料理屋 植むら」を開店。10年に現在の場所に移転する。11年版「ミシュラン・ガイド関西」より一ツ星、14年版より二ツ星で連続掲載中。

Ryoriya Uemura
料理屋 植むら
神戸市中央区中山手通1-24-14 ペンシルビル4F
1-24-14,Nakayamate-dori,Chuo-ku,Kobe-shi
☎050-3184-1015
●12:00一斉スタート、18:00~23:00( 要予約)
●水休
●コース 昼10000円、夜20000円~
●10席
www.ryouriya-uemura.com
※サービス料15%

藤田アキ=インタビュー、構成 川瀬典子=撮影

本記事は雑誌料理王国287号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は287号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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