食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

海を渡った日本人シェフVOL.02「レストランパージュ」手島竜司さん


日本人のアイデンティティを自信と誇りに、フランス人の心を掴む 手島竜司

「フレンチ」のカテゴリーの中で日本人だから表現できる料理を

「フランス料理はフランスにしか存在し得ないのではないか」。その答えを探しに、26歳で渡仏した手島。最初の給料は300ユーロ。フランス語の料理本と日仏辞書を片手に語学を身に着け、働くレストランを転々とする度に稼ぎをあげてきた。
それでも常に金はなかった。稼いだ金は、三ツ星レストランでの“勉強代”と「食事をした後はタクシーで帰る生活をしている人の気分まで知りたかった」とタクシー代にも使った。
渡仏後12年間の下積みを経て、2014年にガストロノミー「Restaurant PAGES」をパリ16区で独立開業。わずか1年半でミシュランの星を獲得する。飽くなき探究心でフランス人の心を掴んだ手島が見つけた、ひとつの答え。それは、日本人シェフであることのアイデンティティだった。

――手島さんは修業時代に数々のレストランを渡り歩いてきましたが、有名精肉店「ユーゴ・デノワイエ」やシェフ御用達「テロワール・ダヴニール」といった食材店に勤めたキャリアもありますよね。そこでは何を得ましたか?

「自分の職業に愛情とプライドを持つ、多くの生産者と出会えたことですね。鶏の生産者は、とにかく鶏命(笑)。そういう方がたくさんいるんです。一度、オマール漁に同行させてもらったことがあるんですが、信じられないほど死と隣り合わせなんですよ。こんなにも大変な思いをしてオマール海老を獲ってくれている事実を知れたことは、とても大きな経験でした」

――そういった経験が、どのように活かされましたか?

「自分の店を持ってから、自分の仕事とは何かを考えることが増えました。そんなとき、生産者のことを思い出すんです。生産者の想い、仕事に対するプライド、生き物に対する愛情。それらを知っていると、素材との向き合い方が変わるんですね。もっと言えば、生産者や自然に対するリスペクトは、日本人のアイデンティティだと思っていて。僕が世界で一番おいしい料理は日本料理だと思っている理由は、そこにあります。現地の生産者から直接仕入れた食材を使い、僕が思う日本料理のおいしさをフランス料理の手法を使って表現することが、フランスで料理を作っている自分の仕事であり意味だと思っています」

――海を渡った先人たちの努力により、かつてフランスでは「日本人シェフはよく働き勤勉だ」という考え方が通用していました。しかし、最近は状況が違うという声を耳にします。

「とても残念なことですが、パリでは日本人シェフ不要論が顕著です。三ツ星レストランのシェフと話したときも、日本人よりも台湾人、韓国人、中国人、イタリア人を採用すると言っていました」

――なぜ、日本人の価値が崩れたのでしょう?

最近では、修業しに来た日本人が休暇や給料を主張することがよくあります。それは決して悪いことではないのですが、まずは相応の努力を示さなければ敬遠されるのは当然のことではないでしょうか。これは聞いた話だけではなく、実際に僕の店でもあったことです。もちろん、パリでしっかり頑張っている若手料理人がいるのも事実ですが」

――道を切り拓いてきた先人たちへの感謝がない者は論外として、フランスで独立開業したいという夢を持つ若い料理人には、どんな言葉をかけたいですか?

「夢を持つことは素晴らしいことですが、しっかり現実を見てやらないと失敗すると思います。レストランは景気や社会情勢の影響を受けやすく、儲けが少ないと食材費や人員を削減。結果的に満足なサービスができなくなってさらにお客さんが減るという、負のスパイラルに陥るケースは少なくありません。支払う税金も莫大です。そういった情報もしっかりと集めてから、自分が進むべき道を判断して欲しいと思います」

レストラン パージュ オーナーシェフ 手島竜司

レストラン パージュ オーナーシェフ 手島竜司

1976年、熊本市生まれ。19歳でフランス料理と出合い、23歳でソムリエの資格を取得。26歳で渡仏後、「ルカ・カルトン」や「ポムズ」など10店舗以上を渡り歩き、2014年に「Restaurant PAGES」をパリの一等地に構える。2016年にミシュラン一つ星を獲得、パリ市から勲章を授与される。今秋にはパリ郊外にラボを作り、新たな展開を計画中。また日本帰国時は、料理人の地位向上活動に尽力している。写真の手のポーズは、手島さんが集中する際に行なうルーティン。


取材・文/馬渕信彦 写真/堀清英

本記事は雑誌料理王国2019年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2019年11月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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