【南青山】インド料理の名店が伝授!スパイスの使い方5か条


香辛料の“いろは”を知りインド料理の魅力を存分に

スパイスを多用するイメージのあるインド料理。
しかし、伝統的な調理法にはすべてセオリーがある。
その基本を学ぶことこそインド料理におけるスパイス使いを向上させる唯一の方法だ。

まずは3種のスパイスとガラムマサラを使いこなす

 カレー、カバブは言うに及ばず、野菜料理や豆料理、ドリンク類に至るまで、本格インド料理を作るなら、香味の演出は欠かせない。そこで、素材にこだわり、アーユルベーダを基本とする医食同源の考えを守った本格インド料理の店「シターラ」の総料理長で日本のインド料理界の第一人者、モハメド・フセインさんに、香味使いの教えを乞うた。
「インド料理におけるベーシックなスパイスといえば、シナモン、べイリーフ、カルダモン、クローブ、コリアンダー、クミン、ターメリック、チリなどが挙げられるでしょうか。その中で最初に使いこなせるようになるべきスパイスは、クミン、コリアンダー、ターメリックですね。加えて外せないのは、ガラムマサラです」。複数のホールスパイスをあらかじめ調合してから挽いて使用するガラムマサラは、料理の風味を格段に上げてくれる重要なミックススパイス。インド本国のレストランではたいてい独自の配合バランスで作る自家製ガラムマサラがあるが、基本となるのはカルダモン、シナモン、クローブの3種。フセインさんも、この3つに数十種類のスパイスを調合し、オリジナルのものを作っているという。

 さて、インド料理といえばカレーである。チキン、マトン、ラムなどの肉系から、シーフード、野菜、ダールなど、さまざまな素材を用い、小麦粉が入ったカレー粉は使わず複数の香辛料を用いて辛味をつけるのは周知のとおり。日本人にとってポピュラーなスパイス料理と言ってもいいかもしれない。
 だが実のところ、インド本国のカレーは、それほどのスパイスを使うわけではなく、多くても12~13種類である。巷には「50種類以上のスパイスを使って煮込んだカレー」といった類のうたい文句があるが、素材との絶妙なバランスで成り立っているインド料理には、それは当てはまらない。どのスパイスを利かせているかが大事で、必要以上に使うことでかえって味がぼやけてしまう。そもそも、多くの種類を使うほど味が深くなるというわけではないそうだ。

「インド料理は長い歴史を持つ伝統料理。古くから受け継がれている組み合わせがあります」とフセインさん。また「それがベストだからこそ受け継がれているのであり、踏襲するべき。基本を押さえたうえでアレンジをするのは構わないですが」とも。 
 さらに「カレーはひと晩寝かせた方がおいしいという説は、ヨーロッパのカレーにのみ言えること」とやんわり警告も。「スパイスの華やかで奥深い風味を楽しむインドのカレーは、作りたてが一番おいしいのです」。

基本を学ぶひと言 インド料理の壱
多くの種類を使うほどに味が深くなるというわけではない

ローガンジョッシュ(ラムカレー)
伝統的なムガル料理のひとつ。 油を温めてホールスパイスを入れ、しっかりと香りを引き出したらタマネギをソテー。トマト、ニンニクを加えて炒め合わせた後に、パウダースパイス、ラム肉を加えて1時間半ほど煮込み、仕上げにガラムマサラを。とろけるほどやわらかくなったラム肉にスパイスの複雑な風味がしみ込み、香ばしさは格別だ。ひと口目はマイルドな辛さ、そしてだんだんと辛さが効いてくるという変化を楽しめる奥深いひと皿。

重要なのはタイミングとカッティング

 植物の種や葉、茎、樹皮、花などを乾燥させた食材であるスパイスは、その形状から「ホールスパイス」と「パウダースパイス」に分けられ、使い方が異なる。原形そのままのホールスパイスは香りを出すために、ホールスパイスを挽いて粉末になったパウダースパイスは味付けや色付けのために使うのが一般的で、それぞれ投入のタイミングにセオリーがある。

 料理全体を包み込むような香りが持続するホールスパイスは、料理の最初に使うのが基本。インド料理には油で素材を炒めるというプロセスが多く見られるが、その際にホールスパイスを入れて、油にスパイスの香りをつけることが重要になる。「油を熱して温かい状態で入れると、よりスパイスの香りが出るのです。ただし、焦げないよう油が高温になる前のタイミングで入れるのがポイント」。最初にこれをしっかりやることが、おいしい料理に仕上がるかどうかが分かれ道になるという。

 一方パウダースパイスは、ホールスパイスより強い香りながら、時間とともに飛びやすいという性質を踏まえ、料理の途中、あるいは最後に使う。そして、入れたあとは必ず火を通すことが肝心。香りを一層引き立てるためと、粉っぽくなるのを避けるためである。

 注意したいのは、ホールスパイスをパウダースパイスで代用するのは避けること。その逆も然りである。
「たとえば、ホールで使うべきグリーンカルダモンをパウダーに置き換えたとすると、微妙に味が変わってしまうのでおすすめできません」
 また、意外に大切なのは食材のカッティングであるとフセインさんは語る。みじん切り、薄切り、千切り、小口切りなど、用途に合った切り方をすることはもちろん、いずれにおいても均一に切ること。肉にも適宜切り込みを入れる。スパイスの風味を均一になじまなせるためだ。一見スパイスとは離れた地味な作業だが、こういった下ごしらえを手抜きせず行うことが、料理のでき上がりを大きく左右することを覚えておきたい。

 スパイスの陰に隠れがちだが、インド料理ではハーブもふんだんに使う。おなじみのタンドリーチキンをはじめ、カバブには欠かせない存在だ。「独特の芳香があるフレッシュコリアンダー、清涼感をもたらすフレッシュミントは万能選手。爽やかな辛味を持つグリーンチリも使う用途が広いハーブです」
 スパイスに加えて、フレッシュハーブを使いこなせば、料理のグレードは何倍にもアップする。

基本を学ぶひと言 インド料理の弐
均一に香味をなじませる食材のカッティングが重要

ムルギチャンプ
フレッシュ感たっぷりのグリーンマサラで味付けをした鶏の炭火焼。インドでは大変人気のある料理ながら、高度なテクニックと手間を要することから、日本でお目にかかることは少ない。本格インド料理店の証ともいえる料理だ。ジューシーな鶏肉とフレッシュハーブの清涼感が溶け合って、コクがありながらも軽やかな味わい。塩とクミン、ミントで作ったドリンク「ジャルジーラ」を添えて。

インド料理で守るべきスパイスの5カ条

1.ホールスパイスとパウダースパイスを使い分ける
2.スパイスを入れるタイミングを重視
3. 素材のカッティングに気を配る
4. パウダースパイスを入れたあとは必ず火を入れる
5. 入れ過ぎた場合に修復が難しいため、少しずつ量を足していく

Mohamed Hussein
オールドデリーの老舗レストラン「カリムホテル」、デリーの五ツ星ホテル「タージマハルホテル」を経て来日。その後、「シターラ」の総料理長に就任。鋭敏な感性と経験に裏付けられた確かな知識によって香辛料を自在に操り、“スパイスの魔術師”の異名を持つ。

シターラ
SITAARA

東京都港区南青山5-7-17 小原流会館 B1F
03-5766-1702
● 11:30~14:00LO、18:00~21:30LO
● 毎月最終日曜・年末年始休
● 43席
www.sitaara.com/


乾麻里子=取材、文 ナカムラユウコ=写真

本記事は雑誌料理王国第264号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第264号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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