インゲンとひき肉の炒め「桃花源本店」


肉や脂などの旨味を足して使うこれが中国料理の豆使い

中国では、豆類は肉に代わるタンパク源として古くから多く食べられてきた。医食同源を基本とする中国料理の最高峰とされ、清の女帝・西太后のために贅を尽くした宮廷料理「満漢全席」にも、豆を使った料理が数多く並ぶという。「種類が豊富で体にいい豆類は、中国の家庭料理や宴席料理では欠かすことのできない食材です」

例えば麻婆豆腐に使う豆板醤や豆豉は、ソラ豆や大豆を発酵させたものだし、豆腐を使った料理や豆を使った調味料は多い。豆そのものも、炒め物やスープ、デザートに。

今では貴重な豆料理を若き料理人のために再現

公益社団法人日本中国料理協会顧問であり、「桃花源本店」初代料理長、現熊本ホテルキャッスル代表取締役社長、斉藤隆士さんは、日本の四川料理の父、陳建民さんに師事し、九州に初めて四川料理を持ち込み、広めたことでも知られる。
「豆類は味が淡白なので、それだけでは中国料理は完成しません。脂と相性がよい豆は肉と炒めたり、上湯といったコクの深い最高級のスープで煮込んだり、必ず旨味を加えて使います。豆は素材の組み合わせや調理によっていくらでも変化する。料理人の腕が試される食材です」

中国料理では、豆類は単品では使わない。旨味のあるものと合わせるのが鉄則なのだ。

今回の料理は、中国でもっともポピュラーな豆料理「干煸四季豆」を含む3品。「干煸四季豆」は、サヤインゲンと豚肉を炒めたシンプルな料理。

サヤインゲン【莢隠元】
中国名:四季豆(スゥヂィドゥ)

完熟前のインゲン豆の若さやで、年に3回収穫できることから関西では三度豆とも呼ばれている。原産地は中南米で、世界では1000種以上、日本では200種以上あり、日本へは江戸時代に隠元禅師が中国から持ち帰ったことからこの名がついたといわれる。旬は夏だが時期によって産地が異なる。

「料理は愛。真心がなくてはだめ。その料理の歴史を思い浮かべ優しく丁寧に作る。」

四川料理は、下ごしらえから仕上げまで、ひとつの鍋で完成する。先にサヤインゲンを素揚げしておき、最後に味付けした豚肉と一緒に合わせて仕上げる。

【レシピ】干四季豆 ガンピエンスウヂイドウ(インゲンとひき肉の炒め)

中国でもっとも好まれ、世界中のチャイナタウンで食べられている代表的な豆料理。各地で多少異なり、四川では唐辛子やザーサイが入る。サヤインゲンのシャキッとした食感が残り、豆の魅力を楽しめる。

材料(4人分)

サヤインゲン…200 ℊ/ 豚肩ロース…120ℊ/搾菜…12ℊ/干しエビ(もどしたもの)…6ℊ/白ネギ(粗みじん切り)…12ℊ/朝天辣椒(チョウテンラアジャオ)…適量

◦調味料
A【酒…大さじ2/醤油…大さじ1/甜麺醤…大さじ1】/B【酢…少々/胡麻油…小さじ1】


作り方

1.搾菜と干しエビをみじん切りにする。豚肩ロースは細かく切る。
2.サヤインゲンは7~8㎝に切り、高温の油で表面にしわが入るまで油通しする。
3.大さじ2の油で朝天辣椒をじっくり炒め、1の豚肩ロースを加えてさらに炒める。
4.3に調味料Aを入れた後に2のサヤインゲンを加え、1の搾菜と干しエビを入れて水分がなくなるまで炒める。最後に白ネギ、調味料Bの酢、胡麻油を加えて出来上がり。

Takasi Saito

1942年、大分県生まれ。熊本ホテルキャッスル代表取締役社長。四川料理の第一人者・故陳建民氏に師事。33歳で新装オープンした熊本ホテルキャッスル『桃花源』の中国調理長に就任する。中国料理人として初の「現代の名工」を受賞し、2009年には黄綬褒章を受章。

御門あい=取材、文 有川朋宏=撮影

本記事は雑誌料理王国242号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は242号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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