コーラはまるで民藝。ご当地コーラづくりで、日本再発掘。ともコーラ#1


クラフトコーラ「ともコーラ」を手がける古谷知華さんがつづるのは、身近な「コーラ」を通して、日本の食文化や風土を捉え直す冒険の話。
連載第1回は、古谷さんがクラフトコーラを民藝として再定義するまで。

クラフトコーラというものづくり

私はクラフトコーラブランド「ともコーラ」の調香師をやっている。
クラフトコーラとはスパイスやハーブ、柑橘などの天然素材のみで作る手作りコーラのことであり、添加物や合成甘味料などは一切使わない。その味わいは、一般的なコーラよりもスパイシーで甘さは控えめで、コーラと言えばコーラなのだが、別物といえば別物でもある。クラフトコーラは恐らく日本で誕生した概念であり、ここ2年間でカフェやレストランなどでメニューとして目にする機会も増えている。

ビールやジンといった業界では、早くから「小さな作り手達」が「独自の製法」や「希少性の高い原材料」を用いてクラフト化を進めていったが、同様の波が現在コーラ業界にも押し寄せている。そもそもコーラは、150年以上前にアメリカで誕生した薬草シロップに起源がある。当時の人々が抱える不安や病状を癒やす効能を謳って世に打ちされ、記録によるとコーラ・ナッツ、コカの葉、ナツメグなどの天然素材を調合し作られた。最初はシロップの形で販売され、炭酸水で割って飲むというスタイルがメジャーであった。そこからいつしか今のコーラの形に置き換わり、我々が物心つく頃には「既成品としてのコーラ」がいつでもどこでも手に入る形となった。

この茶色の液体が何から出来ているか、どのようなスパイスやハーブが配合されているか、多くの人は想像することなく、だが最も身近な飲料の一つとして親しんできただろう。私は原点回帰のコーラとして、15種類以上の天然素材を調香しクラフトコーラを作る。シナモン・カルダモン・クローブ等の海外産スパイスに、季節の国産柑橘や山椒などの国産品を融合し絶妙な味を目指す。鍋から沸き立つ湯気からは複雑なスパイシーさと優しさが感じられる。

忘れかけられた日本の食材たちへの憧憬


私はクラフトコーラを作る前には、一般社団法人和ハーブ協会さんと一緒に、日本原生の野草たちを使った「日本の庭」という和のスパイスブランドを作っていた。

2017年冬、和ハーブ協会の古谷代表・平川理事に偶然出逢ったのがきっかけとなり、日本全国に原生する”和のスパイス”について知ることとなった。「日本にもシナモンがあるのですか?え、胡椒まで….?!」初めて古谷代表の話を聞いた時の興奮は今でも記憶に残る。スパイスと言えばインド、インドネシア、ジャマイカ産など南方国家のイメージしかなかったが、古谷代表は日本にもシナモン、コショウ、ミント、アンジェリカルート、さらにはジュニパーベリーに”あたる”ものが日本にも存在するという。例えばシナモンに近いものとしては沖縄の”唐木”や高知の”ヤブニッケイ”、コショウなら石垣に根を張る沖縄の”ヒハツモドキ”や”フウトウカズラ”、ミントなら北海道の”ハッカ”や岐阜の”カキドオシ”、アンジェリカルートなら奈良や沖縄の”トウキ”だと教えてくれた。古谷代表は「大正時代くらいまでは各地域のおばあちゃん達は料理や薬のため、野草づかいに詳しかったが、西洋化に伴い知識が継承されなくなった。古くは古事記にも記録が残っている。」と教えてくれた。和ハーブ協会は現在も、日本に眠る野草達を”和ハーブ”として再定義化する活動を行なう。「日本の庭」自体は一時的な活動で終わってしまったが、私はこの事実に心から感動し「これはとんでもないことを知ってしまった…」という高揚感と使命感を強く抱いた。

ご当地クラフトコーラ=民藝としての可能性


クラフトコーラを作り始めた後も、和ハーブ協会の教えは常に頭にあり「いつか自分も日本の野草文化を伝える手伝いをしたい」と思うようになった。かといって市場流通しない野草たちを使うには、山で自ら採集をするか、特殊な生産者たちと繋がる他に手段はなかった。そのため初期クラフトコーラに使用できる日本の素材といえば一般的な山椒くらいのものであった。
しかし、ともコーラを始めて1年弱経った2019年初夏に転機は訪れた。熊本県から、熊本の素材を使ったクラフトコーラの製造依頼を受け、青みかんや黒糖など地場の食材を使った日本初のご当地クラフトコーラをともコーラで製造したのだ。

この成功をきっかけに、全国の都道府県から相談がくるようになり、その度にかつての教えを思い出しては「◯◯県には珍しい植生があるはずなので、△△を使ってみませんか?農家さんを探しませんか?」などと提案し、各地の山奥でひっそりと文化を守る生産者とも徐々に繋がりはじめた。
私は全国を巡るうちに、「各地域の人が長らく継承してきた文化を解釈し、その技術や素材を用いて土地の人と一緒に新しいプロダクトを生み出すという活動は、まるで民藝のようだなぁ」とご当地クラフトコーラ作りについて考え始めるようになった。またこの活動は、若い人が地域の文化を再解釈し、新しい形で残すことにも繋がると思った。

実際、ご当地クラフトコーラプロジェクトをその土地で推進するのは、若くて好奇心が旺盛な地元の人々である。私はその土地にお邪魔して、歴史や植生を勉強させてもらい、それをコーラというアウトプットにまとめているだけで、実際の主人公は各都道府県のコーラプロデューサーたちなのだ。彼らとの出逢い、そして熊本・高知・岐阜・奈良・徳島….日本各地で進行する民藝としてのご当地クラフトコーラプロジェクトの話は次回以降としよう。


text 古谷知華(ともコーラ)

(プロフィール)
ふるや・ともか
1992年生まれのフードプロデューサー。調香師。クラフトコーラ「ともコーラ」やノンアル専門ブランド「のん」等の飲食事業をプロデュー スする他、日本初のフードレーベル「ツカノマノフードコート」を主宰し都内に神出鬼没の食の実験場を作る。「料理王国」「Ozmagazine」「日本食糧新聞」などで連載執筆も行なう。


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