「リストランテ・ラ・チャウ流!」ジャージー牛の火入れ


身と脂のほのかな甘さ、歯応えのよさも肉好きにはたまらない

 ジャージー牛といえば「乳牛」という認識が強く、肉そのものを食べるというイメージは従来はなかった。「ジャージー牛は、体もあまり大きくなりませんから、実際に食べてみるまではいったいどんな味なのか、肉質も想像できませんでしたね」と「リストランテラ・チャウ」のオーナーシェフ、馬渡剛さんは言う。それだけに、2年ほど前、初めてこの牛肉を口にした時のおいしさは感動的だった。

「フィレやサーロインなどの部位もおいしいけれど、もう少し肉の繊維が味わえる内モモのほうが私の好みです」という。馬渡シェフが使う神津牧場のジャージー牛は、広い牧草地で伸び伸びと健康的な環境で肥育されている。

内モモ肉は使い勝手がよく何通りもの料理に活用できる

馬渡シェフが好んで使うのは、ジャージー牛に限らず、あまりサシが入っていない赤身の部位。「肉を食べている」と実感できる食べ応え充分の肉を提供したい。その条件を満たすのがジャージー牛の内モモ肉だった。肉自体に甘みがあり、ほどよい弾力で噛み応えも丁度よい。また、クリーム色がかった脂身も甘い。

 馬渡さんは、このジャージー牛の内モモ肉を6キロほどの塊で仕入れると、もっともやわらかな部分、歯応えが感じられる部分、肉質が硬めの身と脂︱︱の3つのパートに分けて使う。やわらかな身はさっと焼いてカルパッチョに。歯応えのある部分はローストに、そして脂や硬い身の部分はパテにして提供するのである。旨味や歯応えがあるのはもちろん、こんなふうにひとつの部位を三様に楽しめる点も、ジャージーの内モモ肉を選ぶ理由だという。

「ラ・チャウ」では、使う牛肉を1種類に限定するのではなく、短角の内モモやシンタマ、アメリカンビーフのハラミという具合に、その都度シェフが納得できるものをメニューに組み込んでいる。そんなシェフが、現在、一番気に入っているのが神津牧場のジャージー牛だが、人気の高い肉の人気部位である内モモ肉は、手に入らないこともある。

 たとえどんなに信頼できる業者から届く肉であっても試食を欠かさない。ジャージー牛の場合は比較的個体差も少なく、おいしい。「だから試食で満腹になってしまうこともあります」と笑う。自分自身が大好きで、「もっと食べたい」と思える牛肉料理を提供する。これがシェフの基本。だから、シェフの肉料理にはゲストを引きつけ、「もう一度食べたい」と思わせる力があるのだ。

ジャージー牛のパテ イチジクのピューレ添え

パテは内モモ肉の脂とやや硬めの肉を混ぜて作るが、その量はほぼ同量。この肉と一緒に、ニンジン、セロリ、玉ネギなどを炒め、煮詰めたら、250℃のオーブンで₁時間半ほど焼く。この時の「焼き」は、肉を焼き切る感じで、こげる直前まで火入れする。こうすると肉が凝縮されて、パテといえども、肉そのものを食べているという印象が強まる。

軽くあぶったジャージー牛のカルパッチョ 卵黄ソースと黒トリュフのサラダ

内モモ肉は、比較的やわらかな部位だが、切り方によって、その食感は異なる。カルパッチョの場合は、やわらかな食感が求められるので、フライパンで表面をさっと焼いたあと、肉の繊維に沿うように薄くカットして盛り付ける。仕上げに黒トリュフを削り、黒トリュフと相性のよい、生クリームと卵黄のソースを回しかける。塩については₂回に分けてふるのがポイント。最初にフライパンで焼く前に、細粒の塩とコショウをふっておき、そして盛り付ける際、肉の上に粗塩をのせる。

ジャージー牛のローストワラの香り

牧草地の牛がワラを食べている場面からイメージしたひと皿。厚切り肉の塊をシンプルに焼きながらも、豊かな自然を感じさせる。シェフの心にくい演出だ。ほのかなワラの香りと、香草のさわやかな香りが牛肉に移って食欲をそそる。

Tsuyoshi Mawatari
1972年、東京都生まれ。イタリアのピエモンテ州にある一ツ星店「ラ・チャウ・デル・トルナヴェント」にて4年半修業。帰国後、都内有名ホテルやイタリアンレストランのシェフを経て、2007年、「リストランテ ラ・チャウ」を開店。13年には、同じビルの1階にイタリアワインが楽しめる「ヴィネリア ラ・チャウ」をオープンした。

本記事は雑誌料理王国2014年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2014年1月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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