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【世界のレストラン事情】才能ある若手シェフ発掘の場 シェフが季節で入れ替わる!(フランス)


左からユーゴ・イヴェルナさん、ソフィー・コルニベールさん、取材時の担当シェフだったラファエル・カリストさん、レベッカ・アスタルテールさん。レストラン業の傍ら、フード誌の刊行も続ける。
酒巻洋子 (編集ライター/フォトグラファー)=取材、文

ポップアップレストランから誕生したポップアップシェフ

事の始まりは、8年前からパリで開催している、「2番手は1番」と題したイベント「フルグランス」にある。フード誌「イティネレール・デュンヌ・キュイズィーヌ・コンタンポレーヌ」を編集する、ソフィーさん、レベッカさん、ユーゴさんの3人は、メディアに登場することが多いシェフの影で厨房を仕切る、スーシェフにも脚光を浴びてもらおうと、才能あるスーシェフを招待して一夜限りのポップアップレストランを主催していた。その反響の大きさに、2015年に同じコンセプトながら場所を固定して、レストランをオープン。こうして3~6カ月ごとにシェフが変わる、新業態の「フルグランス・ラドレス」が誕生したのだ。

シェフ以外は厨房とサービスのスタッフは同じ。メニューの値段は均一にし、期間は限定。お客さまは基本的に地元の人々と、枠組みがすでにでき上がっているレストラン。その制約のなかでどんな料理を作って出すかは、各シェフの腕の見せ所である。「パリの人気レストラン『フレンチー』でセカンドを務めていたイスラエル人のシェフに来てもらった時は、最初は自分のスタイルをどう築くか悩んでいたの。最終的にイスラエルの手法で、前菜にメゼの要素を取り入れたら、大人気になったわ。私たちは世界各国で取材をしている経験を活かして、創造性やアイデンティティの出し方など、それぞれのシェフにアドバイスをすることもできる。いわばアートディレクターの役割でもあるの」と話すのはソフィーさん。

若手シェフの料理のアイデンティティを確立し、実践できる場を提供する。

各シェフとともに成長しながら共同作業で作るレストラン

ひとりのシェフが受け持つ期間は5〜6カ月が理想だとも言う。「例えば、現在シェフを務めるポルトガル人のラファエルは、最初の日から2カ月経った今では、驚くほど仕事が向上しているの。特に他国から来るシェフは、環境、スタッフ、お客さまに慣れることで、よりリラックスして料理を作れるようになる。いろんなことを試しながら、シェフと一緒に私たちも成長するのは、本当におもしろい。シェフたちにとってはひとつの通過点だけれど、私たちがやっていることは、よりよい仕事をするための共同作業なの」

パリ11区という立地も、ポップアップシェフの形態に適している。この界隈は、「ボボ」と呼ばれる好奇心旺盛なパリジャンたちが多く住み、新しいものや質の高いものにお金を費やすことを厭わない。お客さまによってはシェフが変わるたびに、新しい料理を味わいに来店する人もいるのだとか。また、働くシェフの国籍によって、同じ国のお客さまを呼び寄せるとも言う。常連のパリジャンを軸としながらも、シェフによってお客さまの層が大きく広がっているのだ。コンセプトを知らずに訪れても、店の雰囲気が気に入って常連になるパターンも多い。ソフィーさんの言う「スタッフが一体となった共同作業」が、お客さまにも伝っているのだろう。

開店から現在まで厨房に立ったシェフの数は、国籍もさまざまな9人。当初は取材先などで声を掛けて、スーシェフに来てもらっていたが、現在ではレストランの評判を聞いて、自ら売り込んでくるようになった。舌が肥えた3人の編集者のお眼鏡にかなう腕前はもちろんのことながら、最終的な判断の決め手は、「シェフの人間性」だとソフィーさんは話す。我こそはと思う日本人のスーシェフたちよ、彼らに連絡を取ってみてはいかが?


Fulgurances l’Adresse
フルグランス・ラドレス
10, rue Alexandre Dumas 75011,
Paris
+33(0)1 43 48 14 59
12:30~14:00、19:30~22:00
土、日、月休

ランチ 19€、24€
ディナー 46€、58€
http://fulgurances.com/en/

Yoko Sakamaki
大学卒業後、パリの料理学校、ル・コルドン・ブルーに留学。2003年に再度渡仏し、パリとノルマンディーを行き来する生活を送っている。『フランス人と気の長い夜ごはん』(産業編集センター)など著書多数。


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