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【世界のレストラン事情】手でつまんで食べるカクテル「マンゴーマルガリータ」(マレーシア)


世界的に、カクテルペアリングを提供する店は多くなってきた。その多くが小さなポーションで多皿展開をするモダンな料理の店である。全皿にカクテルを合わせると、糖分もアルコール分も多すぎ、コース途中でお腹がいっぱいになったり、欧米人と比べてアルコール分解酵素の働きが弱い人が多いアジア人の場合、酔いすぎて料理を最後まできちんと味わえなくなってしまうこともある。

そんな中、アジアのファインダイニングは、新しいカクテルペアリングのあり方を模索している。例えば、香港のミシュラン一ツ星のアジアンフレンチ、「VEA」では、オーナーのひとりで5軒のバーを持つ敏腕バーテンダー、アントニオ・ライが、ナマコを使った料理に、リュウゼツランから作った蒸留酒、「メスカル」とジンジャービア、蟹酢を加えたカクテルと合わせるなど、独創的な「甘くないカクテル」を提供している。カクテルのアルコール度も7~8%と、低く抑えてある。「アルコール分は、カクテルに香りを加えるだけでなく、クリアな香りを抽出する触媒としても有効だ。ⅤEAでは、自家製のシソのジンやバジルウォッカなどがある」。アルコールには料理の味を増幅させる効果もあるため、たとえ割合は低くとも、ペアリングの飲料にアルコールが入っていることは意味があるといえるだろう。

手でつまんで食べるカクテル

もう一店、面白いカクテルペアリングを提供しているのが、2017年にマレーシアのクアラルンプールにオープンしたモダン南インド料理の店、「ナドディ NADODI」だ。12皿の小皿コースを提供しているだけに、カクテルは、少量のポーションにこだわり、必ずしもグラスに入って出てくるとは限らない。例えば、軽くフライパンで焼いたホタテには、マンゴーの果肉にテキーラと乳酸カルシウムを混ぜ、アルギン酸ナトリウムの中に入れて表面をゼリー化させた手でつまんで食べるカクテル「マンゴーマルガリータ」を合わせる。その量はわずか20ミリリットルほど。アルコールのボリューム感と本来の味わいを保ちつつ、少量にすることで、アルコールや糖分の摂取を控えめにできる。

とはいえ、ただ一律に少なくしている訳ではない。ひと口サイズの「バイト」と、しっかりと液体のある「リキッド」を使い分ける。インド料理らしくスパイシーな料理や、口の中の水分を奪いやすいタンパク質ベースの料理には、リキッドタイプを合わせるようにしていた。
「それぞれのカクテルに使うハードリカーの分量は、35ミリリットル以内に抑えるように統一している」と、カクテルを担当するアクシャル・チャラワディは語る。

料理とカクテルの垣根が消える

クラッシックなスタイルで知られるワクギンの地井和広ヘッドバーテンダーは、こういったカクテルペアリングについて肯定的に受け止めている。「食中に楽しむカクテルペアリングは、食前か食後に飲むというカクテルの固定観念を打ち破り、カクテルの裾野を広げた。さらに、クラッシックなバーでも、新鮮な食材を活かしたカクテルが増えてきており、ファインダイニングのカクテルから学ぶことも大きい。将来、料理とカクテルの垣根は、さらに低くなっていくのではないか」。

料理の世界の、より軽く、より低糖質という波は、カクテルの世界にもやってきている。それと同時に、料理に合わせるカクテル、というコンセプトが、それに拍車をかけているといえるだろう。アジアの軽やかなカクテルペアリングに注目したい。(敬称略)

VEA Restaurant
VEAレストラン

30/F, The Wellington, 198
Wellington Street, Central, Hong
Kong
+852 2711 8639
●18:00~
●日休
●コース HK$1480
www.vea.hk

NADODI
ナドディ

Lot 183, 1st Floor,Jalan Mayang,
Off Jalan Yap Kwan Seng, 50450
Kuala Lumpur, Malaysia
+6017 390 0792
●18:00~23:00
●日休
●コース RM360(7皿)~
www.nadodikl.com


仲山今日子 (ジャーナリスト)=取材、文、撮影

Kyoko Nakayama
日本人で初めてイタリアの国家試験であるオリーブオイル鑑定士資格を取得。イタリア各地、ニューヨーク、東京の国際オリーブオイルコンテストの審査員を務める。


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