【日本のいいもの再発見】地域ぐるみで環境を整備し、仔豚から大切に育てられた「妻有ポーク」


妻有ポークは、新潟県妻有地方(十日町市・津南町)の10軒の農場で結成される「妻有畜産グループ」が飼育する銘柄豚。30年ほど前から健康な豚を育てるための環境づくりに地域ぐるみで取り組み、安全安心でおいしい豚肉を生産している。

抗生物質をいっさい使わず
安全・安心、健康な豚を育てる

脂身に甘味があり、ジューシーでやわらかいと評判の妻有ポーク。穀物を主体にビタミンやミネラルで補強し、さらに出荷前には大麦を与えて旨味のある脂身に仕上げる。こうして育てられた豚は、生後約6カ月で出荷される。

養豚では抗生物質を与えるのが一般的だが、妻有ポークの生産者は子豚期から無薬で育てる。グループの代表を務める妻有畜産の澤口晋さんは、「このやり方は自殺行為に近いんです。薬を使えば生産性が上がりますし、太りもいい。でも、そこを敢えてやらない。安全安心が第一ですから」と胸を張る。薬を使用しない分、病気との戦いになる。そこで「この地域に病気を入れない」をスローガンに、徹底した防疫体制やハサップ方式の衛生管理を導入。それらの取り組みなどが高く評価され、日本農業大賞を受賞した。

豚の臭みやえぐみがなく、脂の融点が32度と低いために脂が溶けてもさらっとしている妻有ポーク。「ビタミンEの含有量が普通の豚の10倍。じっくり熟成を施すことで旨味が出てきます」とは、加工・販売を手がける「ファームランド・木き 落おとし」の代表取締役、羽鳥辰則さん。妻有ポークを地元の温泉熱で低温調理した「湯治豚」を、地域活性の起爆剤にしたいと意気込んでいる。

地域ぐるみで環境を整え、無薬飼料で育つ豚
1988年に販売された「妻有プライムポーク」を前身とする、ランドレース種、大ヨークシャー種、デュロック種を掛けあわせたLWDと呼ばれる三元豚。現在の「妻有ポーク」という形になったのは7 年前から。グループ全体で母(雌)豚数1200頭を数える。十日町市では市内全域の小中学校の学校給食に使われている。

松之山はどんなところ?

新潟県の南西に位置する松之山は、10年前の合併で松之山町から十日町市となった。雪深い山あいには700年の歴史を有する松之山温泉郷があり、その薬効の高さから有馬、草津と並ぶ日本三大薬湯と呼ばれる。郷愁誘う豊かな自然に囲まれ、山間部の傾斜地には棚田が、丘陵地には美しいブナ林の「美人林」が広がる。3 年に1 度開催される「大地の芸術祭」では、世界中のアーティストたちが集まり現代アートを制作。期間外でも50点以上もの作品が里山に点在し、訪れる人の目を楽しませている。「むこ投げ」や「すみ塗り」などの奇祭でも有名。

左から「ファームランド・木落」代表取締役の羽鳥辰則さん、「ひなの宿ちとせ」専務の柳一成さん、「妻有畜産」代表取締役の澤口晋さん。

有限会社 ファームランド・木落
新潟県十日町市木落1366-3
☎025-761-1331
www.farmland-kiotoshi.com

豪雪地帯のため、2 階豚舎と3 階豚舎と3 層の造り。

妻有畜産 株式会社
新潟県十日町市寿町2-5-4
☎025-752-7291
www.妻有ポーク.com

松之山商工会の取り組み

湯治豚の生産者を訪ねる

98℃の高温で自噴し、湯量も多いことから、松之山温泉ではバイナリー地熱発電の実証実験が行われている。発電後の源泉も50℃以上と高いため、松之山商工会などが中心となって温泉熱を利用した調理研究が進められてきた。試行錯誤の末に辿り着いたのが、低温真空調理を施した「湯治豚」。63〜68℃の温泉に真空パックの豚を約2時間浸け込み、じっくり熱を入れていく調理法だ。低温調理は食材をやわらかくする作用がもともとあるが、妻有ポークの「湯治豚」はとろけるようにやわらかく、凝縮された旨味と脂身の上品な甘さを併せ持つ。松之山温泉の旅館などで食べられる新名物だ。

ひなの宿ちとせ
新潟県十日町市松之山湯本49-1
☎025-596-2525
www.chitose.tv

真空パックの豚を63〜68℃の湯に2時間浸せば湯治豚の完成

美しいロゼ色の肉に仕上がる。

源泉とバイナリー発電後の湯を引き込んだ調理槽の前で

「ひなの宿ちとせ」ランチプランでの人気メニューのひとつ、「湯治豚丼」

築100年の古民家を移築した体験施設「地炉」。足湯や低温調理、囲炉裏でパン作りなど、さまざまな体験ができる。

問い合わせ先:松之山商工会
新潟県十日町市松之山1571-3 
☎025-596-2174 
http://www.matsunoyama.com/syoukou/

「湯治豚」を使ったひと皿

美しいマーブル模様を活かして
酢豚をイメージしたひと皿

「TAKAZAWA」髙澤義明さん

「アジアのベストレストラン50」に3年連続ランクインする「TAKAZAWA」。オーナーシェフの髙澤義明さんは東京都出身だが、父は松之山、母は大島の出身。幼い頃からよく遊びに行っていたゆかりの地で、髙澤さんが妻有ポークと出会ったのは10年ほど前だと言う。髙澤さんは店でもこの豚肉を使っている。髙澤さんが提案してくれた料理は、湯治豚を使った酢豚のようなサラダだ。「この湯治豚は、断面の美しいマーブル模様が魅力です。それを活かしたかったので、シンプルに仕上げました」と髙澤シェフ。見た目からは想像ができないが、豚肉で野菜を包んで口に含むと酢豚の味。湯治豚の甘い脂を黒酢が引き締め、コショウの効いた絶妙のひと皿である。

天然資源で低温調理!
甘い脂とやわらかさが魅力

調理のポイント

薄くスライスした湯治豚を皿に敷き詰め、大理石のプレートに見立てた。マーブル模様を邪魔しないよう、野菜は間隔を置いて盛り付ける。黒酢はふりかけるのではなく、マシュマロのような食感のキューブに。

酢豚のマーブル仕立て
湯治豚のスライスを皿に敷き、その上にゴマ油と塩で和えたパイナップル、タマネギ、ニンジン、キュウリ、トマト、ピーマン、サラダバーネットをのせる。黒酢のマシュマロを置き、その上にコショウをひとつまみ。ゴマ油を点々とかけて完成。

Yoshiaki Takazawa

1976年東京都生まれ。2005年「ARONIA DE TAKAZAWA」を開店。2012年「TAKAZAWA」としてリニューアル。15年に「TAKAZAWABAR」をオープン。

TAKAZAWA
東京都港区赤坂3-5-2
サンヨー赤坂ビル裏側2F
※ご予約はメールフォームからのみ
● 18:00〜21:00(最終入店時刻)
●不定休
●コ ース 24000円〜(税・サ別)
●10席
www.takazawa-y.co.jp

名須川ミサコ=取材、文 富貴塚悠太=撮影

本記事は雑誌料理王国258号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は258号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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