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ル スプートニク髙橋雄二郎さんのシグネチャーディッシュ「〝薔薇〟フォアグラ、ビーツ」


毎日、新しい料理を出したい
だから〝シグニチャー〟は意識しない

5年連続で一ツ星を獲得した「ルジュードゥラシェット」でシェフを務めていた髙橋雄二郎さん。昨年7月に独立、六本木に「ル スプートニク」をオープン。即、星を取った。髙橋シェフのシグニチャー料理といえば「"薔薇"フォアグラ、ビーツ」だろう。精巧に作られた薔薇は、立体的なものを得意とする髙橋さんの真骨頂。花びらのパリッとした食感と、下に隠れているフォワグラのテリーヌとの食感の違いも楽しめ、優美な驚きと興奮が広がる。

 考案したのは2年ほど前だ。フォワグラとビーツで何か作ろうと思って、最初はビーツのチュイル(薄い焼き菓子)を作り、ミルフィーユ状にフォワグラと重ねた。しかし、フォワグラと接着しているチュイルがへたって、せっかくのパリパリッとした食感がなくなるため、接着部分を極力少なくしようと考えた。それで思いついたのが、フォワグラの上にチュイルを刺すこと。さらに、ビーツの深紅色から薔薇を連想し、飾り付けてみたところ、見た目にも美しい料理が完成したのだ。
 今では、髙橋さんイコール"薔薇"というイメージが強いが、当の本人は「シグニチャー」という意識はまったくないという。

「特に要望がない限り毎回違う料理を出しているので、うちにはシグニチャーはないんです。ただ、『この店に来たら、コレ』という料理があれば、名前を覚えていただきやすいと思って、薔薇を出しています」

本物と見紛うほど精巧に作られた薔薇。ビーツのチュイルを、まだ熱いうちに一枚一枚手で曲げて作ったものだ。パリッとした食感の花びらは、甘みの中にほのかに塩味を感じる。下に隠れているフォワグラとの相性も抜群。

繊細でもろいビーツのチュイルは時間との勝負から生まれる

 気が抜けないのがチュイル作り。時間との勝負になるからだ。シルパット(オーブンシート)を敷いた鉄板に大きさの異なる花びらの型を置き、チュイルの生地を薄く塗る。型は牛乳パックを花びら型にくり抜いたお手製だ。それを120度のオープンで45分間乾燥焼きにする。「チュイルがもつのはせいぜい2~3時間。ゲストの入店時間の頃合いを見てオーブンで焼き、前菜を出している間に1枚1枚微妙に角度を変えながら手で曲げていきます」
 熱いうちに曲げないと乾燥して割れてしまうため、素早くやるのが鉄則。とはいえ、熱いうちに曲げても何枚かパリッと割れるくらいもろい。花びらを多めに焼いておき、それをやさしく丁寧に扱いながら曲げていく。ひとつの鉄板で作れるのは薔薇1個分。オーブンに入る数を考えると、最大でもひと晩に6~7個しか作れないという。

 飾り付けは、ゲストに出す直前に。皿の上にセルクル(型)で抜いたフォワグラのテリーヌを置き、その上からアガーシート(海藻などのゲル化剤)をかぶせる。スターアニスやシナモン、薔薇の香りを利かせたアガーシートは、フォワグラの味を引き立てるだけでなく、フォワグラを隠すという点でも必要だという。
 アガーシートをかぶせたフォワグラの上に、ビーツのチュイルを薔薇の花に見立てて刺していく。小さい花びらは真ん中の芯の部分にくるように。最後に酸味のあるビーツパウダーを振りかけて完成する。
「味だけでなく、目でも楽しめる料理になっていると思います」

アガーシートをかぶせたフォワグラのテリーヌの上に、ビーツのチュイルを刺していく。中心の芯の部分には小さな花びらを置き、角度やバランスをみながら薔薇を形成する。

試行錯誤中の発展途上のソース自分流の新しい料理に挑戦する

 ゲストの履歴を見て過去のメニューを確認し、これまで出したことのない料理を提案する。それが髙橋シェフのポリシーだ。
「フランス料理をベースに、どこまで個性を伸ばせるか。常に新しいことにチャレンジしていきたい。それが自分のスタイルですから」と語る。

ビーツと赤ワインビネガーで作ったパウダーを薔薇のまわりに振りかけ、黒コショウとミニョネットをアクセントに置く。少し酸味のあるパウダーがフォワグラとよく合う。

フランス料理をベースにどこまで個性をのばせるか。いろんなことに挑戦したいんです。

 髙橋さんの2品目のシグニチャーは、いろんなことに挑戦する、という意味合いから「茨城県産小鳩のロースト 内臓のアンチョビ仕立て」を選んだ。この料理は、内臓を使った新しい料理が作れないか、と発想したものだ。小鳩の内臓に塩をして発酵・熟成させて作った、アンチョビ仕立てのソースがポイントになる。熟成ならではの旨味とコクが加わったソースを、ローストした小鳩に添えて供する。「まだ発展途上です」と前置きしつつ、「フランス料理には、醤油みたいな発酵・熟成させた調味料があまりないので、どうにか応用できないかなと考えたのがこのソースです」と言う。

塩コショウした骨付きの胸肉を、 200℃のオーブンでロゼの状態にロースト。取り出したら表面をフライパンで香ばしく焼き、骨を外してフルール・ド・セルを振る。

 発酵・熟成させるには微生物の働きが必要だが、肝心の微生物が死活して発酵まで至らないこともあった。内臓にはタンパク質がないため、菌があまり増殖しない。そこで端っこの肉を加えてみたりもした。

「最終的にはオイル漬けにして、アンチョビみたいに刻んで使う。そういうソースを作れないかなとチャレンジしていますが、熟成というのがまだまだ読めなくて。今は試行錯誤の段階で、課題がたくさんあります。死ぬまでに完成すればいいな、なんて思っています」

骨と首、フォン・ド・ヴォーなどから作ったジュ・ド・ピジョンを肉に添える。肉のエキスがたっぷり詰まったジュは、美しい琥珀色。小鳩だけでなく野菜との相性も抜群だ。

 小鳩は茨城県産のものを使用。「国産の鳩は筋肉質で硬いイメージがありましたが、茨城県産はジューシーでやわらかい。新鮮なのでコントロールもしやすいんです」

 大小、調理に合わせて好きなサイズが選べるのも気に入っていて、髙橋さんは550グラムを指定して届けてもらっている。取り寄せてすぐに捌くと出血が多いため、1週間くらい寝かせてから使う。
「フランス料理の醍醐味は、骨や内臓も余すことなく使うところ。そういう多面性のある料理を、自分のスタイルで表現できたらいいなと思っています」

茨城県産小鳩のロースト 内臓のアンチョビ仕立て
小鳩のむね肉、砂肝、半分に割った頭、もも肉のソーセージ仕立てをそれぞれにロースト。発酵・熟成させた内臓のアンチョビ仕立てのソース、ジュ・ド・ピジョン、ルッコラのピューレを添える。春野菜と一緒に。
Yujiro Takahashi
1977年福岡県出身。大学卒業後、調理師専門学校へ。都内のレストランで修業後、2004年に渡仏し三ツ星の「ルドワイヤン」などで修業。 07年に帰国。代官山の「ル ジュー ドゥ ラシェット」のシェフを経て15年7月に独立。

ル スプートニク
le sputnik

東京都港区六本木7-9-9 リッモーネ六本木1F
03-6434-7080
● 12:00~15:30(13:00LO) 18:00~23:00(20:30LO)
● 月休
● 20席
http://le-sputnik.jp


名須川ミサコ=取材、文 星野泰孝=撮影

本記事は雑誌料理王国第260号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第260号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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