発酵食品は、その土地の気候や風土、食文化に影響を受け、発展してきた伝統食だ。地図と合わせて参照し、その味と地域柄を結びつけてイメージすれば、新たな発見があるに違いない。
日本の発酵食品の歴史と特徴
現状発見されているなかで、日本で発酵食品が作られた最古の記録は、奈良時代の木簡に残る「瓜の塩漬け」。しかし、味噌や醤油の起源となった「醤(ひしお)」、穀類や木の実などを口に入れて噛んだものを発酵させた「口噛み酒」、塩漬けにした魚を発酵させた「なれずし」といった発酵食品は、縄文時代後期〜弥生時代には作られていたとされる。飛鳥時代の終わりに制定された『大宝律令』には醤を扱う「主醤」という官職名が登場し、奈良時代には麹菌を用いた発酵技術が広まっていった。平安時代には醤や種麹を製造・販売する者がいたことも分かっている。
味噌や醤油、酢、みりんといった調味料、だしの材料のひとつである鰹節など、日本食の味には発酵食品が欠かせない。このように日本で発酵文化が発展したのには、海に囲まれていて塩が入手しやすかったこと、湿気が多くカビが発生しやすいため、麹菌などのカビを使った発酵が容易だったことなどが挙げられる。
ここでは、代表的な調味料である醤油と味噌の主な特徴と分布を、地図で紹介する。後述の都道府県別発酵食品一覧と合わせて、各地の食文化を理解する一助としてほしい。
日本地図で見る醤油・味噌の分布
醤油と味噌のルーツはともに、肉や魚、野菜に塩を混ぜた保存食「醤」とされる。中国から朝鮮半島を経て日本に伝わったのち、奈良時代から平安時代にかけて、豆を使った保存食としての味噌が誕生。その後、味噌桶に溜まった汁を調味料とした「たまり醤油」に発展。現代につながる本格醤油は、江戸時代に登場したとされる。
醤油の主な産地
● 濃口醤油 … 大豆と小麦から作った醤油麹を食塩水とともに仕込み、6~8カ月熟成。(主な産地:千葉の野田・銚子、兵庫の高砂、香川の小豆島)
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■たまり醤油 … 原料の大部分が大豆。約1年発酵させる。
■再仕込み醤油 … もろみをつくる際に食塩水ではなく生醤油を使う。
■白醤油… 大豆を少量しか使わず、精白した小麦が主原料。3カ月と短めの熟成。
※愛知県では、たまり醤油と白醤油が作られている。
味噌の地域別分布
■赤褐色の辛口米味噌(米麹)
■淡色の辛口米味噌(米麹)
■白甘味噌(米麹)
■豆味噌(豆麹)
■淡色の中辛麦味噌(麦麹)
■沖縄県では、米味噌と麦味噌が作られている
都道府県別発酵食品一覧
その土地独自の風土や食材と結び付き、親しまれている発酵食品。47都道府県それぞれの、特徴的な発酵食品を見てみよう。
北海道・東北
北海道
・めふん
鮭の腎臓を塩漬けし、発酵・熟成させた塩辛。
・鮭のはさみ漬け
・にしん漬け
魚と大根などの野菜を甘口麹で漬ける。
・ウイスキー(余市)
青森
・アケビのなれずし
アケビやヤマブドウと米飯を混ぜて、乳酸発酵させる。発酵することでアケビの苦味が消え、ほのかな甘味と酸味が生まれる。
岩手
・あわびの精
・ごど豆
・柿酢
・どぶろく
・雪下納豆
秋田
・しょっつる
ハタハタに塩と麹を混ぜ、1年以上漬け込む。魚自身の酵素によって発酵させる。
・いぶりがっこ
大根などを燻製にしたのち、米麹や塩で漬け込む。
宮城
・仙台長ナス漬け
仙台長ナスを塩漬けしたもの。
・ウイスキー(宮城峡)
山形
・ナスのからし漬け
民田ナスと呼ばれる小ナスを塩で下漬けしたのち、和からし粉に漬ける。
・青菜(せいさい)漬け
塩漬けした青菜を、醤油や昆布、鷹の爪などとともに本漬けする。
・おみ漬け
細かく刻んだ青菜と、大根やニンジンなどの野菜を塩、砂糖、酒などで漬けたもの。
福島
・三五八(さごはち)漬け
塩、米麹、蒸した米を3:5:8で混ぜ合わせ、発酵させた漬け床に、塩で下漬けした野菜や魚、肉などを漬ける
北陸地方
新潟
・どぶろく
炊いた米に麹や酒粕を加え、発酵させて作った酒。
・かんずり
雪にさらした唐辛子に、米麹、柚子、塩を混ぜて発酵・熟成させた辛味調味料。
富山
・富山黒茶(バタバタ茶)
蒸した茶葉を20日ほど発酵させたのち乾燥。
石川
・フグの卵巣の糠漬け
・いしり
・かぶら寿司
薄切りしたブリやサバをカブの間にはさみ、麹で漬ける。
福井
・へしこ
塩漬けにした青魚を、さらに糠漬けにする。
関東地方
栃木
・たまり漬け
塩漬けにした野菜を塩抜きしたのち、たまりに漬け込む。
茨城
・納豆漬け
納豆と大根などの野菜を混ぜて塩漬けする。
群馬
・焼きまんじゅう
小麦粉を米麹で発酵させたタネを焼き、味噌ダレをつけて食べる。
・麹
・納豆
埼玉
・しゃくし菜漬け
秩父地方で「しゃくし菜」と呼ばれる雪白体菜という野菜を、塩、鷹の爪と漬け込む。
千葉
・鉄砲漬け
ウリの種子をくり抜いて塩漬けにした中へ、シソで巻いた青とうがらしを詰めて、醤油に漬け込む。
・濃口醤油
東京
・べったら漬け
・江戸甘味噌
・くさや(新島)
新鮮な魚をくさや液に漬けたのち、冷風乾燥させる。
神奈川
・久寿餅(川崎大師)
小麦でんぷんを長期間発酵・熟成させて蒸し上げる。
・甘酒
・味噌
・醤油
中部地方
長野
・野沢菜漬け
野沢菜を塩漬けし、乳酸発酵させたもの。
・すんき漬け(木曽)
湯通しした赤カブの葉茎を漬け種に漬け込み、乳酸発酵させる。
岐阜
・品漬け(飛騨)
赤カブなどの野菜を塩漬けにする。
山梨
・ワイン
・ウイスキー(白州)
・味噌
・醤油
静岡
・浜納豆(浜松)
大豆を麹で発酵させ、塩漬けし熟成させたのち天日干しする。味噌のような味わい。
・わさび漬け
塩漬けしたわさびの茎・根を酒粕に漬け込む。
愛知
・守口漬け
守口大根を酒粕で漬け込む。
・このわた
ナマコの内蔵の塩辛。
・八丁味噌
・本みりん
近畿地方
大阪
・舞昆(発酵塩昆布)
・ウイスキー(山崎)
京都
・大徳寺納豆
・しば漬け
・すぐき漬け
・日本酒(伏見)
兵庫
・日本酒(灘)
・淡口醤油
・黒豆納豆
奈良
・奈良漬け
滋賀
・ふなずし
・近江牛の味噌漬け
和歌山
・金山寺味噌
米、大麦、大豆、なす、瓜、生姜、しそが入った、おかず味噌。
三重
・めはり寿司
中国地方
鳥取
・砂丘らっきょう漬け
・するめ麹漬け
島根
・津田カブ漬け
岡山
・テンペ
インドネシア発祥の納豆のような食品。
・ひしお
広島
・広島菜漬け
・日本酒(西条)
・鯛味噌
・海老味噌
山口
・山口特産寒漬
塩漬けにした大根を寒風で干し上げ、たたいてのばす作業をくりかえす。その後、6カ月間熟成させる。
四国地方
香川
・いかなご醤油
徳島
・阿波晩茶
日本茶成葉を釜ゆでしてつぶし、14~30日ほど発酵させる。
愛媛
・麦味噌
・塩麹
・石鎚黒茶
高知
・酒盗
・碁石茶
九州・沖縄地方
福岡
・高菜漬け
・柚子胡椒
・熟成黒にんにく
佐賀
・鯨軟骨粕漬け
・がん漬け
小型のカニの塩辛。
・八好美人(トマト発酵食品)
熊本
・妙解寺納豆
・豆腐の味噌漬け
鹿児島
・薩摩漬け
輪切りにした桜島大根を半年ほど塩漬けしたのち、酒粕に漬ける。
・山川漬け
干した大根を塩漬けにし、発酵させる。
・黒酢
大分
・鮎魚醤
・なめ味噌
・うるか(アユの塩辛)
長崎
・センダンゴ(対馬)
細かく砕いたサツマイモを水に数日間漬け、天日干しで発酵させたのち丸める。乾燥させ、さらに数回水につけて戻す。
宮崎
・百日糀
牛乳と麹で作った甘酒。
・ねむらせ豆腐
・玄米合わせ味噌
沖縄
・豆腐蓉
・パパイヤ漬け
料理王国=文
text by CUISINE KINGDOM