女性たちが家事の合間に作るパスタ。「シチリアの原点」を手作りする


ブズィアーテ

シチリアーナ・ドンチッチョ石川勉さん

30年前に、初めてイタリアに渡った。シチリアでふと入ったトラットリア。出てきたパスタにパラパラとふりかけられていたのは、刻んだアーモンドとマグロのカラスミと粗めのパン粉を煎ったものだった。「パスタの上にかけるものと言えば、粉チーズぐらいしかなかった時代ですからね。イタリアでは、パスタの上にこんなものをかけるのかと驚きました。しかも旨かった」

 町に出れば、マンマたちが地元の伝統パスタ、ブズィアーテを夕食のために作っている。

「強力粉と薄力粉とセモリナ粉を練って細い帯状にしたものを、竹串や金属の細い棒に、クルクルと巻き付けて成形していくんですが、人によっては自転車のスポークを利用していたりして……。日本人には考えられないようなおおらかさが面白かったし、心地よかった」

 シチリアでは、マグロもイワシもウニもタコも食べる。バターはほとんど使わず、オイルと言えばオリーブオイル。料理全体が、自分の体に合った。
「おかげで、日本食が恋しいと思ったことは一度もありませんでした」

シチリア料理なら、日本人の口に無理なく合う――そう確信した。

ブズィアーテ作りは、基本、2人ひと組。ひとりが棒状の生地をつくり、ひとりが鉄串に生地をクルクル巻いて成形をする。
らせん状のショートパスタなのでソースが絡みやすく、喉ごしもつるりとやさしい。卵を使っていないので、色も白い。

若い頃の驚きや感動が店作りの原点に

 2000年に自分の店をオープンさせた。もちろん、シチリア料理を中核に据えた。ブズィアーテもメニューに入れた。パスタには、刻んだアーモンドとマグロのカラスミと粗めのパン粉で作ったコンツァをかける。どれも、シチリア料理の原点だから。それは今も変わらない。

 若いスタッフと、その日の分のブズィアーテを一本一本手作りする。仕込みの厨房には、率先して立つ。

スタッフの中心には、いつも石川さんがいる。

「ブズィアーテって、シチリア西部の店ならどこにでもありましたよ」
 つい最近、シチリアでの修業を終えて帰ってきた若いスタッフが、笑顔で教えてくれた。

 30年前、石川さんもまた、この若いスタッフのように、瞳を輝かせて自身のシチリア体験を語っていたのだろう。イタリアで、驚き感動した石川さんの魂が、ブズィアーテとともに次世代へ受け継がれていく。

シチリア手打ちパスタ Busiate
捲海老のトマトソースとシチリア名物〝コンツァ〟
殻がついたままの海老と煎ったアーモンド。香ばしさとゴツゴツとした食感と、ブズィアーテのもちっとした口当たりのコントラストが面白く、味わい深い。シチリアらしさを追求し続ける石川さんは、オリーブオイルも塩もシチリア産を使う。「塩辛さのなかに感じるミネラルの甘さとか、レモンの木と一緒に育ったオリーブに感じられる柑橘系のほのかな香りとか……。僕はそういうものを大切にしたい」

Tsutomu Ishikawa
1961年、岩手県出身。19歳で料理の道に入り、23歳で単身イタリアへ。シチリア、フィレンツェ、ボローニャで計3年間修業し、1987年に帰国。「クッチーナヒラタ」などを経て、2000年に独立。2006年に同店を閉め、「トラットリア・シチリアーナ・ドンチッチョ」を開く。

トラットリア
シチリアーナ・ドンチッチョ
Trattoria Siciliana Don Ciccio

東京都渋谷区渋谷2-3-6
03-3498-1828
● 18:00~25:00(24:00LO)
● 日休(祝日の月曜は休み)
● 60席

山内章子=取材、文 富貴塚悠太=撮影

本記事は雑誌料理王国2014年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2014年8月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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