2023-11-25

佐々木康二シェフによる鳥取県の柿『輝太郎』料理講習会レポート

産地研修など

料理王国の直営キッチンスタジオ「グルメスタジオFOOVER(フーバー)」で、鳥取県の柿「輝太郎(きたろう)」をテーマ食材とした料理講習会が開催された。

今回の講師は、フレンチレストラン「プレスキル」の佐々木康二シェフ。神戸「アラン・シャペル」やパリ「ホテルクリヨン」を経て、2008年 第1回ボキューズ・ドール アジア大会優勝するなどの活躍がめざましい佐々木シェフ。2015年に「プレスキル」開業と共にシェフに就任されました。「プレスキル」は大阪のビジネス街の中心街にありながら洗練された飲食店が軒並み揃う淀屋橋で人気を誇り、ミシュランも獲得している店だ。その佐々木シェフから学びを得ようと、約20人の料理家たちが集まった。

テーマ食材は鳥取の柿「輝太郎(きたろう)」

柿といえば秋から11月頃にかけた時期が旬の果物。今回のテーマ食材「輝太郎(きたろう)」は9月末に収穫ができ、従来の柿と比較すると早生でありながら溢れる甘さが特徴だ。「輝太郎(きたろう)」の由来になった黒いタンニンが柿の中心部にまれに現れる。その姿はまるで「目玉」そのもの。そして、ソフトボールほどの大きさながら糖度は平均17度と非常に甘い。16年かけて開発された、大きくて上品な甘さが特徴の柿である。

実は佐々木シェフも、先月、鳥取県に行ったそうで、ご自身のレストラン「プレスキル」でも鳥取県の食材を使用しているそう。「食べてみると印象が変わる」とスタッフの間でも好評で、鳥取県には一通りの食材が揃っていると佐々木シェフのお墨付きだ。

この日、佐々木シェフが披露した「輝太郎(きたろう)」のレシピは3品。「柿を(フレンチとして)料理するのはなかなか難しいです」と佐々木シェフ。甘さが特徴の柿「輝太郎」がシェフならではのフレンチにどうアレンジされるのが見どころだ。

ロメインレタスと海老のサラダ仕立て 輝太郎のレムラードソース

1品目は「ロメインレタスと海老のサラダ仕立て 輝太郎のレムラードソース」。

「柿を感じていただきたいので、いろいろな形にしています」と、見た目にも美味しい料理を生み出す佐々木シェフならではのこだわりが。

まずは、ロメインレタスを1/4にカットして芯を取り除いておく。ロメインレタスに塩と胡椒を少々、フルールドセルと、柿のレムラードソースをふる。レムラードソースとは、オレンジジュースや柑橘類などの果汁を煮詰めたものとマヨネーズをベースにしたソース。市販のマヨネーズでも可能だが、旨味が多く味が勝ってしまうため、今回はシェフが持参したレムラードソース専用のマヨネーズを使用していく。

レムラードソースに、柿の皮を剥いて種をとりミキサーで回した柿のピューレを混ぜ合わせる。ピューレは落としラップやジップロックなど真空状態であれば、約2日は変色しないそうだ。

「甘さは料理に必要ですが、そこに酸味と塩味も必ず必要。塩だけだと旨味が入ってこない」と言う佐々木シェフがレムラードソースに混ぜ合わせたのは粉チーズ。

さらにオリーブオイル(エクストラバージン)でなめらかさと風味をプラス。柿のレムラードソースをディスペンサーに入れておく。

次に、スライサーで薄く切った柿に、オリーブオイルとフルールドセルと、黒コショウをかける。

参加者からの「サイの目でも問題ないのか」という質問に対し、佐々木シェフは「自宅でやってみたが面倒だった(笑)結局料理は簡単な方がいい」と答え、会場をさらに柔らかな雰囲気にした。

柿をスライサーで薄く切る
ピューレは裏ごしせずにそのまま使用していいそう。
スライサーで薄く切った柿とエビを添える。薄くなった柿は、透き通りつつも全体に華やかさをもたらす。

サイの目以外にも他の切り方でも問題ないそうだが、スライサーで薄く切った柿は、ロメインレタスの形状と重なり視覚的に美しい。

塩ゆでした海老をサッと焼き、一口大にカットする。レタスの上と周りに柿と海老を乗せ、 ディスペンサーに入れた柿のレムラードソースをかける。 
最後に、食感の違いを出すためのクルトンとデュカ(中東発祥のスパイス)をふって完成だ。

ロメインレタスと海老のサラダ仕立て 輝太郎のレムラードソース

「簡単過ぎて腹立ってませんか?(笑)」「ちょっとの風味と、ちょっとの旨みを足せばいい」と佐々木シェフ。見た目の華やかさに比べ、手間のかからないレシピに、料理家たちも驚いた様子。

柿のクーリとホタテ貝のポワレ

柿のクーリとホタテ貝のポワレ

続いては「柿のクーリとホタテ貝のポワレ」を作っていく。
柿のピューレに塩コショウをし、酸味の白ワインビネガーを加えよく混ぜ合わせる。酸味は、米酢だとまろやかさに欠けるらしく、リンゴ酢などであれば問題ないそうだ。
塩について「甘味を引き立たせるための塩だと思ってください。よくスイカやトマトに塩をかけるのと一緒ですね」と、家庭的なアドバイスも。
そして、先ほどと同じように柿をスライサーで薄く切り、丸型とイチョウの型でくり抜いておく。

シェフ曰く、甘い食材と魚介類の相性は良く、シーフードカクテルがその一例。ホタテや海老はフランスでもよく使用される。そんな柿にうってつけのホタテ貝に2カ所の切り込みを入れ、塩コショウをふり、先ほど丸型にくり抜いた柿を切り込みに挟む。

柿のピューレとスライスされた柿
まるで本のように切られたホタテの間に、鮮やかな柿が挟み込まれていく。白と柿色のコントラストに、断面が楽しみになる。

そして、ホタテ貝の片面を強火で焼き色を付ける。ここで佐々木シェフからのスパイスと焼き方のアドバイスが。

フライパンで焼き色を付ける
半分に切った状態
柿のクーリを器に入れ、ホタテの断面が見えるように飾りつける。ホタテは半生で良いそうだ。

「コショウは“香り”と“辛さ”で香辛料。魚や肉もそうですが、焼く面にコショウをかけると、フライパンの約200度の温度でコショウも焼けてしまい、香りが飛んでしまう」「香水も、身体全体に振らずに体温が上がる部位につけるはずです。料理も同じ。香りはずっと残らないので、表面にコショウはふらないです。私はね(笑)」と、探求心あふれる佐々木シェフの持論に思わず料理家たちも大きく頷いた。

反対面を5秒ほど焼いたら、縦半分に切っておく。お皿に先ほど作った柿のクーリを流し、切っておいたホタテ貝を中央に盛り、コショウとフルールドセルをまぶす。

ホタテの周りに塩コショウをした水ナスを飾り、一番上に薄切りしたラディッシュ、飾りの水菜、柿のイチョウ切りを乗せて完成だ。 

「色は赤、黄、緑を揃えるようにすれば、だいたい綺麗になります」。クーリのほんのりとした酸味、そしてホタテの旨みが生き生きとしている。

豚肉のポワレと輝太郎のグラタン

最後に「豚肉のポワレと輝太郎のグラタン」。佐々木シェフも「柿のグラタンは、見たこともないし、食べたこともないと思います(笑)」と洒落っ気のある笑みを見せる。どんな料理になるのかが楽しみだ。

まず、柿のヘタを取り皮をむき、サイズによって 8または12等分に切る。フライパンにオリーブオイルを敷き、中火で玉葱のみじん切りを炒め、しんなりしてきたら柿を加えて強火にする。熟した柿の場合は煮崩れする可能性がある。この案は、シェフがここに来る道中に思いついたそうで、本日は小麦粉をつけて焼いた。フライパンにオリーブオイルを足し、表面の色が変わってきたら柿を裏返す。火の温度を上げて、白ワインを加え、アルコールが飛んだら水を加える。

煮崩れを防止するため小麦粉をまぶす
フライパンで焼く時は温度に注意

佐々木シェフは「通常のグラタンであれば、ここでブイヨンや出汁を入れますが、柿なので動物性の香りで煮込みたくないので水のみ加えています」と説明する。

そして、生クリーム(48%)を加え、極少量の塩とコショウを加え弱火にする。ここでは味のために植物性やコーヒーフレッシュではなく、必ず動物性の生クリームを使うそうだ。そして、別のフライパン、またはバットに移し、煮汁を上からかける。クミンシードとグリュイエールチーズをふり、オーブンでこんがりと焼き色を付ける。

「グラタンにはチキンや豚肉など白身のお肉が合う」と取り出した大きな豚肉に塩をふり、油を敷いたフライパンで、中火でサッと焼く。この日は料理家たちの分の豚肉を、一つのブロック肉でじっくり焼き上げてくれた。焼きあがった豚肉に、上からフルールドセルと、あらびき黒コショウをふる。

48%の生クリームを加える
別の容器に移し、クミンシードとチーズをふってオーブンへ
油を敷いたフライパンで中火でサッと焼く

皿に柿のグラタンと豚肉を盛り、小さな葉を添えて完成。

柿×フレンチといった珍しいコラボレーション自在に操る佐々木シェフからフレンチの応用と真髄を学び、終始頷きを見せていた料理家たち。「盛り付けや味の足し引きなどが非常に勉強になりました」「スパイスの使い方や使うタイミングなど、自分には無い発想で驚きでした」「新たな発見がたくさんで、帰ったらさっそく取り入れようと思いました(笑)」と、学び多き時間になったようだ。

佐々木 康二(ささき やすじ)

1967年、岡山県生まれ。大阪あべの辻調理師専門学校を経て、岡山国際ホテルから神戸【アラン・シャペル】へ。また【ハウステンボス】にて20年間、上柿元勝氏に師事。パリ【ホテルクリヨン】などヨーロッパでも活躍。
2008年 ボキューズ・ドール国際料理コンクール日本代表、第1回ボキューズ・ドール アジア大会優勝等。
神戸【アラン・シャペル】【トランテアン】でシェフ歴任、2015年【プレスキル】開業と共にシェフ就任。


text: Hijiri Fujishima photo: Shohee Murakawa

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