2023-04-22

アカデミーサロン vol.7 ヴィノ・ヒラタ 仁保州博シェフ

アカデミーサロンイベント・セミナー

日々、料理に研鑽を重ねているのは、シェフも料理家も同じ。
一方で、シェフが飲食店でゲストに料理を提供するのと、家庭料理のコツを教えるのでは異なる視点が必要だ。
そこで、生産者、プロのトップシェフ、料理家の三者の交流を広げ、互いに刺激し合い、ともに料理業界を盛り上げる。
そんな新しいコミュニティを構築するためにスタートした企画が、この「料理王国アカデミーサロン」。
今回は、東京・麻布十番に店を構える仁保州博シェフに4人の料理家が学んだ。

2021年末にスタートし、7回目を迎えた「シェフに聞く、料理王国アカデミーサロン」。一線で活躍するシェフと料理家を、食材を通じて繋ぐ場として、好評を博している。
今回、講師役として登場してくれたのは、東京・麻布十番にあるイタリア料理店「ヴィノ・ヒラタ」の仁保州博シェフだ。

南イタリアの黄金のトマト「Tiarlum( ティアラム)」
南イタリアの黄金のトマト「Tiarlum( ティアラム)」
日本ではあまり馴染みのない黄金のトマトだが、実は赤い実のトマトの祖先。最初にヨーロッパに伝わった約500年前、トマトは黄金色だったといわれている。大きな特徴は目の覚めるような色と強い甘味、芳醇な香りの3点。高級レストランから家庭のキッチンまで幅広く使われ、イタリアのフーディたちを楽しませてきた。缶詰なので扱いやすいのも魅力。

「南イタリア生まれの黄色いトマト〝ティアラム〞は、一般的な赤いトマト缶に比べると糖度が高く、なめらか。南イタリア・プーリア州では、伝統的な料理に黄色いトマトをよく使っています」と仁保シェフは言う。
そんな仁保シェフが今回披露してくれたのは、「〝ティアラム〞の冷製カッペリーニ」と「真鱈と白子のソテー黄金トマト〝ティアラム〞のソース」の2品だ。いずれも黄金トマト〝ティアラム〞と相性のよい食材を合わせ、その旨さや甘味を引き立てた料理だという。

“ティアラム”のトマト缶をジュースごと全部鍋に入れ、火を入れる。
“ティアラム”のトマト缶をジュースごと全部鍋に入れ、火を入れる。
ミキサーにかける時はハンドミキサーを使うほうが、ソースとトマトの果実とオリーブオイルをざっくり混ぜ合わせるような感じになるのでおすすめ。
ミキサーにかける時はハンドミキサーを使うほうが、ソースとトマトの果実とオリーブオイルをざっくり混ぜ合わせるような感じになるのでおすすめ。
目にも鮮やかなソースが美しい「“ティアラム”の冷製カッペリーニ」
目にも鮮やかなソースが美しい「“ティアラム”の冷製カッペリーニ」

まずは、「冷製カッペリーニ」から。ポイントは黄金トマトのパスタソースだ。
〝ティアラム〞のトマト缶をジュースごと全部鍋に入れ、塩2〜4gを加えて強火で加熱し、沸騰したら弱火にして、ときどきかき混ぜながら10〜15分間煮る。加熱が終わったら、エキストラバージンオリーブオイルとともにハンドミキサーにかけたあと、裏ごししてトマトの皮や種を取り除く。これで黄金トマト〝ティアラム〞のパスタソースの完成だ。
「トマトの水分とオリーブオイルをしっかり乳化させるのがポイントです」と仁保シェフ。皿に黄金トマト〝ティアラム〞のパスタソースを敷き、カッペリーニを盛り付け、上にカニとスライスしたキンカンを乗せる。
「カッペリーニは塩とオリーブオイルと水で和えておくと、つるっと食べられます。せいろのイメージですね」と仁保シェフ。上に乗せるのは、エビやホタテなどでもいい。
「ソースを食べる、というイメージで提供するのがよいですね」

マナガツオはある程度焼いたら、あとは余熱で火を入れていく。
マダラと白子はフライパンで焼く。皮目にしっかり焼き色をつけたマダラをオーブンに入れて、さらに火を入れる。
フライパンに香草バターを入れ、小分けしたグレープフルーツ、乾燥させたケッパー、みじん切りにしたトマトを入れて、ソースを作る。
タマネギとセロリを炒めた鍋に黄金トマト“ティアラム”を入れてさらに火を入れ、最後に塩で味を調える。
マナガツオのグルノーブル風 バターでソテーしたエノキや金時草、野菜たっぷりのソースがマナガツオの味わいを引き立てる。
魚介との相性のよさを実感する
「マダラのソテー“ ティアラム”のソース」

続いては「真鱈と白子のソテー 黄金トマト〝ティアラム〞のソース」。
タマネギとセロリはみじん切りにして、サラダ油とオリーブオイルを8対2で合わせたオイルで炒める。
「この時に注意したいのは、黄金トマトの色を生かしたいので、アメ色にしないこと。この下準備が重要で、ここが美味しければ完成品は美味しくなります」。タマネギとセロリがしんなりしてきたら、黄金トマト缶をジュースごと入れる。
「黄金トマトはペクチン度が高いので、加熱すると粘度が出るんです。だから、ちょっととろみがある仕上がりになりますね」
トマトに火がしっかり入ったら、ハンドミキサーで混ぜ、裏ごしをする。
マダラは粉は振らず、フライパンで焼く。皮目をしっかり、じっくり焼くのがポイント。白子は塩・コショウを振ってフライパンの空いた場所で火を入れる。
「マダラは水分が多い魚なので、じっくり焼くのがいい」と仁保シェフ。皮目に焦げ色がついたらバットにあげて、160℃のオーブンでさらに火を入れる。白子のほうは、ひっくり返してフライパンで引き続き火を入れる。あとは、皿に黄金トマト〝ティアラム〞のソースを敷き、マダラと白子を乗せて、セルフィーユやディルなどのハーブやアマランサスを飾り、最後にオリーブオイルをかければ出来上がりだ。

仁保シェフを囲んで、4人の料理家と「ヴィノ ヒラタ」のスタッフと記念撮影。
仁保シェフを囲んで、4人の料理家と「ヴィノ ヒラタ」のスタッフと記念撮影。

「〝ティアラム〞の黄金トマト缶は、使い勝手がいいのが魅力ですね。手間暇かけずに美味しいソースができるし、ロットの大きさもいい。甘み、コクがしっかりあるのに強くないから、食材も合わせやすい。特に魚や野菜とは相性がいいです。ただ、黄金トマトの魅力は味わいもさることながら、この美しい色だと思うんですね。だから、それを損なわないように工夫しています。例えば野菜の冷製スープを作る時は、パプリカや人参は黄色いものを、キュウリは皮をむいて使うようにしています。ここまで気を遣わなくてもいいかもですが」
調理をしながら、コツや考え方などを4人に伝授する一方で、料理家からのさまざまな
質問にも気さくに真摯に答える仁保シェフ。実際に料理を作るシェフのすぐそばで、その姿を見ながら実践的に勉強できる2時間は、とても有意義な時間となった。

仁保州博

仁保州博

1974年、鳥取県生まれ。学生時代に訪れたイタリアの地で、美味しい料理と陽気な人々に惹かれ、自らもイタリア料理の道に進むことを決意。調理師専門学校を卒業したのち、19歳で都内のイタリア料理店に入り、修業する。1998年に「ヴィノ・ヒラタ」に入店し、2009年に同店の料理長に就任。2010年5月、オーナーシェフに就任し、現在に至る。

Vino Hirata

Vino Hirata
東京都港区麻布十番2-13-10 エンドウビル2F
TEL 03-3456-4744
17:00~22:00
日・祝日の月休

岡嶋美香 イル・レガーメ

岡嶋美香 イル・レガーメ

シエナ料理学院留学後、リストランテ「Walteer Ridaelli」に勤務。帰国後、イタリア料理教室を開業。なるべく手に入りやすい食材で、ちょっと頑張って作りたい料理からその日に作れる料理まで、幅広く紹介している。JSAソムリエ、中国認定高級茶藝師、広東料理資格など取得。
https://www.instagram.com/mica.il_legame/

たまたま黄色のトマト缶を買っていて、どうやって使おうか考えていたところだったので、今日は勉強になりました。温かいバージョンと冷たいバージョンの2種類のお料理を体験できて、冷たい方が味がはっきり感じられることも知りました。パスタソースだけでなく、デザートなどにしてもよいと思いました。また、トマトの味を生かす食材の組み合わせなどを聞いたので、エビなどと合わせた冷製の前菜を考えてみようかな、と思っています。

長坂美奈子 mina’s dining table

長坂美奈子 mina’s dining table

新商品・食空間スタイリスト。大手デベロッパーや特許事務所でのパテントパラリーガルとして勤務後、メルボルンへ留学。イタリア料理やテーブルコーディネートスクールで培った国際感覚とスタイリングセンスを生かし、企業へのフード&テーブルコーディネート提案を行う。
https://www.instagram.com/minasdiningtable/

イタリア料理を中心とした、おうち料理を提案しているのですが、今日、シェフの丁寧な作業を見て、時にはこだわりのお料理を提案していきたいと思いました。普段はいろいろな調味料を入れがちなのですが、今回は素材を生かす“引き算の調理”を学びました。シンプルで、黄金トマトを生かせるようなレシピを考えたいと思います。また、黄金トマトは見た目もかわいく、そのまま食べても美味。いろいろな料理が考えられると思いました。

若井めぐみ ヴェール・エクラタン

若井めぐみ ヴェール・エクラタン

ホテル、レストラン勤務を経て2008年に渡仏。ハーブやスパイスを多用したパリで人気の「パティスリー パン・ド・シュクル」で修業。帰国後、洋菓子店などに勤務。2011年にハーブをテーマとした料理教室「ヴェール・エクラタン」を立ち上げる。著書に「ハーブと薬味のごちそうレシピ」(三空出版)。
https://www.instagram.com/megumi_wakai/

黄金トマトのかわいらしい見た目などを知って、今日はどんなお料理を教えていただけるのか、楽しみでした。そのまま食べても美味しくて、それがシェフの手にかかると、また別の味わいになることにも驚きました。固定概念から、「トマトソースなら、ニンニクや白ワインは入れるよね」と思っていたのですが、そんな“私の常識”はみごとに覆されて……。それも素材の味わいを生かすためなのだと知り、学ぶところは多かったです。

大前 麗 ガストロノマード

大前 うらら ガストロノマード

専門はハード系パンと世界の料理。旅行会社勤務を経て、イギリス、スペイン、フランスで計8年、食探求留学に出る。その経験を生かし、ビギナーから上級者までを対象にした少人数制の料理教室行うほか、セミナー講師、アンバサダーなども務める。共著でパリについてのエッセイ本も出版。
https://www.instagram.com/urara_gastronomade/

黄色いトマトはほとんど使ったことがなく、使ったとしてもミニトマトくらいでした。ですから、今日、シェフのお話を聞いて、赤いトマトとの使い分けなど、参考になることはとても多かったです。色を生かすということでも、今後のレシピ作りに生かせると思いました。また、魚介との相性のよさは想像以上でした。主張しすぎないけれど黄金トマトの自然な美味しさ、優しい味わいが素晴らしく、ふた皿とも美味しくただきました。

text:Shoko Yamauchi photo:Yoshiko Yoda

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