美味しい料理を作るために、日々、研鑽を重ねているのは料理人も料理家も同じ。
しかし、飲食店でゲストに料理を提供するのと、家庭料理のコツを教えるのでは、異なる視点が必要だ。
そこで、生産者、トップシェフ、料理家の三者の交流を広げ、互いに刺激し合い、ともに料理業界を盛り上げる̶̶
そんな新しいコミュニティを構築するためにスタートした企画が、この「料理王国アカデミーサロン」だ。
今回は、東京・参宮橋の人気イタリアン「LIFE son」の相場シェフに4人の料理家が学んだ。
料理界の第一線で活躍するシェフと料理家を、食材を通して繋ぐ場所として人気を得ている「料理王国アカデミーサロン」。第9回を迎えた今回の舞台は、東京・参宮橋のイタリアン「LIFE son」。講師役を務めるのは、オーナーシェフの相場正一郎さん。テーマ食材は、東京・青梅市に畑がある「Ome Farm」のナスを中心とした夏野菜だ。
最初のひと皿は「夏野菜のカポナータ」。
「フランスではラタトゥイユですね。シェフによっていろいろな作り方があると思いますが、僕がイタリアで最初に教わったのは、野菜を一度素揚げしてからトマトソースと和えるという方法でした。いろいろな調理法を見てきたなかで、僕にはこの方法が一番しっくりきたというか美味しかったので、カポナータはいつもこの方法で作っています。全ての野菜を一緒に煮込むと、いろんな野菜の味が混ざってしまい、何を食べているのか分からなくなってしまうのも、ちょっと違うなと。特に『Ome Farm』の野菜は味がしっかりしているので、それをお客様にもしっかり感じてい頂きたい、という思いもあります」と相場シェフは言う。
とはいえ、作り方はそれほど煩雑ではない。フライパンでタマネギのスライスをオリーブオイルでしっかり炒め、トマト缶の中身を汁ごと入れて煮込む。ここにグラニュー糖を隠し味として少し加えるのが相場流だ。
「イタリアのトマトよりも甘味が少ないので、トマトを使う料理の時は、必ずと言っていいほど僕はグラニュー糖を入れますね」
一方で、赤と黄色のパプリカ、インゲン、ズッキーニ、ナスは適度な大きさにカットし、素揚げして、塩を振る。
「油通しするというよりは、少し色が付くくらいしっかりと揚げる。油で揚げることで、それぞれの野菜の味を内側にギュッと凝縮させるというイメージです」
あとは煮込んだタマネギとトマトをボウルに移し、素揚げした野菜を入れてサッと合わせるだけだ。野菜を素揚げして作る方法は料理家達も初めてだったようで、少し驚いた表情も。しかし、試食した途端に「それぞれの野菜の味が、しっかり分かりますね。食感もいい」と納得の笑みがこぼれる。
続いては「カジキマグロとナスのポルペッティ」だ。
ナスは縦に4箇所切れ目を入れ、塩を振ってラップをし、500wの電子レンジで約10分温める。こうすると、皮が剥き易くなる。皮を取ったナスは細かく切っておく。カジキマグロは包丁で細かく切ったあと、叩いておく。フードプロセッサーを使ってもよい。ボウルに細かく切ったナスを入れ、レモン2個分の皮を削って加える。
「南イタリアではレモンの皮をよく使います。レモンの皮を入れるだけでイタリア感が出ますね」と相場シェフ。
あとは、細かく切って叩いたカジキマグロを入れ、パルメザンチーズ、卵、イタリアンパセリを加え、塩を少々振って、適当な大きさに丸める。
「このときのタネは、柔らかさがポイント。バラけてしまっても気にしない。そのくらい柔らかいほうがいいです」
コロッケを作る要領でまとめ、小麦粉、卵、パン粉をまぶして、約180度の油で揚げる。パン粉は細か目がベターだ。
「昨年の秋にイタリアへ行ったのですが、ナポリ湾の西に浮かぶプロチダ島でこれを食べて、面白いなって思ったんです。ナスとカジキマグロを合わせた料理は初めてだったし、日本に帰ったらやってみようと思って」と相場シェフ。ゴロンとしたコロッケのような「カジキマグロとナスのポルぺッティ」は、「夏野菜のカポナータ」と一緒に食べても美味。料理家達からは、「フィンガーフードにしてもいいですね」との声も。皆さん、イメージが広がっているようだ。]
気取った盛り付けがあるわけでもなく、特別な技術が必要なわけでもない今回のふた皿。それはまさに、イタリアンの真髄とも言える“マンマの料理”だ。しかし、そのふた皿には、食材を美味しくいただくヒントがちりばめられている。それを身をもって体験された料理家さん達にとって、相場シェフとのひとときは、学び多き時間になったようだ。
相場正一郎
1975年、栃木県生まれ。惣菜屋を営む両親のもとで育ち、18歳で単身イタリアへ留学。5年間、料理修業に励む。帰国後、東京・原宿のレストランで働いたのち、2003年に代々木八幡にイタリアンレストラン「LIFE」、2012年に参宮橋に「LIFE son」を開く。現在、全国で4店舗のレストランを運営。著書に「道具と料理」「30日のイタリアン」(ともにmille books)、「世界でいちばん居心地のいい店のつくり方」(筑摩書房)などがある。
LIFE son
東京都渋谷区代々木4-5-13
TEL 03-6276-1115
1130~14:30、18:00~23:00
月休
尾田衣子 Assiette de Kinu
ル・コルドンブルー東京校に入学。料理ディプロムを取得。その後、イタリア・フィレンツェに渡り、家庭料理を学ぶ。現在、フランスとイタリアの家庭料理をベースに、簡単にできるおもてなし料理、オリーブオイルに特化した料理を中心に料理教室「Assiette de Kinu」を主宰。
私はヨーロッパ系の家庭料理を教えているのですが、考え方が狭くなってきているように感じていました。そういう中でシェフの考え方やテクニックに触れることができ、多くの学びがありました。私も野菜料理はいろいろ作りますが、野菜それぞれの味の引き出し方や色をキレイに出す方法など、野菜の調理方法をトータルで教えていただけたことも良かったです。手間暇かけて調理すると美味しさがグンとアップすることを改めて知ることができ、勉強になりました。
おおにしのりこ Le Plat du Jour
夫の赴任に伴い渡仏。バスク地方とパリで合わせて3年間暮らし、現地のマダムにフランスの家庭料理などを学ぶ。「エコール・リッツ・エスコフィエ」でパティスリーのディプロムを取得。さらに、アメリカ・サンディエゴ在住時に、現地のマダムに料理、菓子を学ぶ。日本フィンガーフード協会上級認定講師。
私はフランスの家庭料理を勉強しているのですが、カポナータの野菜を素揚げしてから入れると、それぞれの野菜のうま味が引き立つことは初めて知りました。また、シェフはカポナータにニンニクを入れませんでした。ニンニクを使わないほうが野菜の甘さが引き立つ感じがして、目から鱗でした。さらに、ナスをコロッケ状にしたり、魚と組み合わせたりするのは、全く思いつかない組み合わせだったので、レシピ作りの大きなヒントになりました。
上村佳子 あなたスタイル薬膳Kazen
薬膳の勉強をしているなかで自身が薬膳の力を実感。その力を多くの人達に伝えたいと、講師になる。現在は日々の健康に薬膳を取り入れられるように、鎌倉薬膳アカデミーライセンス認定教室埼玉クラスや、カルチャーセンターなどの薬膳講座で講師として活動している。
コロナ禍でなかなかプロや先輩のレッスンを受けられずにいたので、今回はすごく良い機会を作って頂けたと感謝しています。実は、カジキマグロは薬膳ではこの季節がぴったりなんです。また、レモンの香りも、薬膳では気を巡らせるといわれていて、春の時期のうつうつとした気分を和らげ
てくれると言われています。今日、シェフがおっしゃっていたことは、そのまま薬膳に活用させて頂けるものも多く、参加して本当に良かったと思いました。
山本由里子 Delice Kitchen・古代小麦と香辛料
2019年に友人向けにDelice Kitchenを立ち上げ、2020年に料理家としての活動をスタートさせる。現在は、自身が手掛けるスパイスのアイテム事業「古代小麦と香辛料」とスパイス家庭料理教室「Delice Kitchen」を運営しながら、各メディアでのレシピ開発やイベントでの講師などもしている。
ナスが様々なお料理の美味しさを引き立てる、ということを目の当たりにして、まず驚きました。また、シェフが南イタリアを旅した時のお話を伺いながらお料理を作るところを拝見できて、楽しかったです。一番驚いたのはカポナータです。一つひとつの野菜がすごく美しくて。これが家庭料理に出てきたら、みんな喜んでくれるだろうな、と思いました。野菜の色や見た目なども工夫して、楽しくなるような夏らしいひと皿を提案したいと思っています。
text: Shoko Yamauchi photo: Yusuke Onuma