2023-11-14

アカデミーサロン vol.10 レ アピ オステリア 松本良英シェフ

アカデミーサロン

今回は、24年間腕を振るったミラノから昨年、東京に戻った、西麻布のイタリアン「LE API OSTERIA(東京都港区西麻布」の松本シェフに学んだ。

10回目を迎える料理王国アカデミーサロンは、2022年に西麻布にオープンしたイタリアン「レ アピ オステリア」にて実施。講師は、オーナーシェフの松本良英(まつもとよしひで)氏。もともとフランス料理でキャリアをスタートし、その後イタリア料理に転向。イタリアの有名シェフであるダヴィデ・オルダーニ氏のもとで腕を磨き、ミラノで20年以上のキャリアを積み重ねてきたという経歴の持ち主だ。2016年にオーナーシェフとしてミラノに「レ アピ オステリア」を開店したものの、現地のロックダウンによりミラノに拠点を残しつつ一時帰国。新たなステージとして西麻布で同店を再オープンさせた。

今回は、そんな松本シェフのスペシャリテであるリゾットと、旬のオマール海老を使ったサルディーニャの郷土料理・カタラーナの2品を教えていただいた。

松本シェフからのレクチャーを受ける4人の眼差しは真剣そのもの。

まずは、「オマール海老のカタラーナ」。同店では夏限定でタコを使ったカタラーナを提供しており、それをオマール海老で再現。柔らかく茹でたオマール海老にフレッシュトマトのスープを合わせる夏らしいひと皿だ。

オマール海老のカタラーナに使用する食材。

日本の丸いトマトはイタリア産トマトに比べて甘味が少ないため、甘味と酸味のバランスを考えてチェリートマトも加えた2種類を用意。まずは丸いトマトの種を取り除き、チェリートマト、オリーブオイルとともにミキサーへ。赤ワインビネガーと塩で味を整えて漉し、冷やして食べる直前に皿へ注ぐ。

ソースに使うトマトは、種を取り除いてカットしたものをミキサーにかける。
仕上げに赤ワインビネガーと塩を加えて濾す。

一方、オマール海老は下処理からスタート。爪、胴体、頭に分け、茹で時間はやや短めに。爪は約8分、胴体は約5分、別の鍋で茹で上げた。
「頭の部分はゆで汁を使ったソースに使います。コライユ(卵巣)は取り出して140℃のオーブンに入れて乾燥したものを粉末に。今回は使いませんがリゾットに振りかけるなど、いろんな用途があるんですよ。オマール海老はとにかく捨てる部分がない。私はバットに残る水分ですら貴重なタンパク質と考えて全て使い切ります」と松本シェフ。

オマール海老は爪を外し、胴体にナイフを入れて頭から離す。
茹で時間を変えて胴体と爪をそれぞれ茹で、ひと口大にカット。

どろっとした緑の見た目だったコライユが、オーブンから取り出し鮮やかな赤に変わった姿を見て、料理家達からは驚きの声が。

オマール海老の爪を殻から外す際には、慎重にハサミを入れる方法と、ナイフで叩いて割る方法をシェフが実演。さらに「前日に仕込むなら、殻から外した身を茹で汁に漬けて冷蔵庫に入れることで乾燥が防げます」と、実践的な知識を盛り込みながらレクチャーは続く。

盛り付けは塩をまぶしたフレッシュトマト、オリーブ、タマネギのスライス、セロリの薄切りに、水で膨らませたバジルシードも使うことで食感にバリエーションを。サルディーニャの郷土料理を“アピスタイル”で構築する、洗練のひと皿が完成した。

サルディーニャの郷土料理 オマール海老のカタラーナをアピスタイルで
2種類のフレッシュトマトのソースを直前に注いでスープ仕立てに。

次はホタテとブロッコリーのリゾット。松本シェフにとってリゾットは、ミラノでダヴィデ・オルダーニ氏に師事していた当時からのスペシャリテ。まずはリゾットの上にかけるソース作りから。
「かなり軽めのバターソースです。でもバターの味はしっかり残る。アンチョビの量でコク、塩味、魚の風味の強さが変えられるので、使う料理に合わせて調整すると良いでしょう。このソースはレモンをすりおろしてもいいし、魚や鶏肉の料理にも合います。ビネガーを加えて全体を引き締めることもありますね。それと、私はとろみ付けに小麦粉をほとんど使いません。アレルギーを持つ方への配慮からコーンスターチを使うようにしているんですよ」

ホタテとブロッコリーのリゾットに使う食材。
リゾットの上にかけるバターソースはアンチョビの量で塩加減を調整。
バターソースをブレンダーにかけて仕上げたところ。
米をフライパンで炒った後に水と塩を加えて煮詰める。
茹でたブロッコリー、チーズ、追いバターを加えて一気にかき混ぜる。
ホタテのローストを載せ、レモンを削って仕上げる。

ブロッコリーは茎と房に分けてそれぞれ下茹でしておき、ホタテは表面に焼き色が付く程度にロースト。米はフライパンで充分炒った後、水と塩を加えて煮詰める。これには「ブロードを使わない方法があるなんて」と、一同は驚きを隠せない様子だったが、試食して納得。アンチョビ入りのバターソースを上からかけることで全体にコクをまとわせ、ローストしたホタテの香ばしさと甘味、レモンの爽やかな香り、さらにチーズと追いバターが絡まることで、ブロードを使わずとも充分な味わいが得られることを実感したのだった。

ホタテとブロッコリーのリゾット
ブロードを使わず、素材の掛け合わせでうま味とコクを引き出したスペシャリテ。

素材の産地にこだわらず、工程はシンプルでありながら、素材の持つ味の輪郭を際立たせる。そんな松本シェフの料理に触れることで、新しい発見や気づきのある充実した時間となった。

松本良英

1968年、東京都生まれ。パティシエの父から菓子作りを教わり、高校卒業後は都内ホテルを中心にフランス料理を学ぶ。24歳で渡仏し、2年後にイタリアへ。ミラノでイタリア料理に転向するきっかけとなったダヴィデ・オルダーニ氏と出会い「ディーオー」のエグゼクティブシェフとして活躍。2016年にミラノで「レ アピ オステリア」を開業。ロックダウンを機に日本へ帰国し、2022年に西麻布で同店を再オープン。

LE API OSTERIA

東京都港区西麻布2-8-7
サングラータ西麻布II 1F
TEL: 03-6419-7367
17:00~23:00
日休

長内美補子 ピアチェーレ

料理家歴22年。マンマやシェフ延べ50人から学んだイタリア料理と日本料理をベースに、旬の食材の美味しい食べ方・季節感のある食卓を提案。レシピ提供のほか、TV出演、食イベントの企画等に携わる。現在は夫のワイナリー設立のため、青森県弘前市との2拠点生活を準備中。

松本シェフのお料理は美しく洗練されていて、素材を無駄なく使い、その特徴を生かすものでした。特に目から鱗だったのは、ブロードを使わないリゾット。バターソースはバターの割合が高いのに口にすると軽やかで、仕上げのチーズと追いバターもたっぷり使っていたのに重くないことに驚きました。バターソースをビネガーで締める方法も新鮮でした。身体に優しく、素材が引き立つシンプルな料理を提案している私にとって、実りの多い時間となりました。

服部カンナ Maison OCTOBRE 野菜ソムリエ

大学卒業後、発電所の設計エンジニアとして勤務する傍ら料理とお菓子の勉強を続け、20年前より「Maison OCTOBRE」を主宰。横浜と長崎の2拠点で、地元食材の素晴らしさを伝えるレッスンを開催。ル・コルドンブルー代官山校製菓コース卒業、辻調理師専門学校洋食コース通信講座修了。

これまでお米を水で炊くのは日本だけかと思っていた私にとって、松本シェフが教えてくださったブロードを使わないリゾットの作り方には大変衝撃を受けました。実際に口にして、ホタテの甘味、バターとチーズのコク、アンチョビの塩味、レモンの持つシトラスの酸味、その全てが一つ
となり、とてもバランスの良い味わいになっていることにも驚きました。また一つ、イタリア料理の奥深さに触れる機会をいただき、ありがとうございました。

北島真澄 Weekend Citron 野菜ソムリエプロ

東京・世田谷の自宅キッチンの料理教室にて、毎月テーマ野菜を決め、手軽に作れる 世界各国の家庭料理を紹介。旬の野菜の美味しさや食べることの大切さを伝えている。大手食品メーカーの商品やレシピ開発のほか、料理メディア寄稿、撮影スタイリングなど様々な分野で活動。

今回のメイン食材はオマール海老とホタテ。長年ミラノの第一線で活躍してこられた松本シェフの創り上げる、美しく透明感のあるお料理にワクワクがとまりませんでした。私自身、旬の野菜や果物をふんだんに使い、素材の美味しさを引き出すシンプルで作りやすい料理を提案したいと考えていますので、シェフの素材の一つ一つに愛情を持って接する姿勢に感銘を受け、多くのことを学ばせていただきました。大変貴重な機会をいただき、ありがとうございました。

緒方美智子 Via Frua 料理家/テーブルスタイリスト

6年間のミラノ滞在中、イタリアの食文化に触れ、各地の食習慣、料理、ワイン、テーブルスタイングを学ぶ。帰国後、「Via Frua」を主宰。水産庁のプロジェクトをはじめ、企業、各種メディアへのレシピや写真提供、テーブルコーディネート、講師、コラム執筆など活動は多岐にわたる。

オリーブオイル、玉ねぎ、白ワイン、ブロードを使わないリゾットの作り方は、今回初めて出会いました。片栗粉やコーンスターチの特徴を活かしたアンチョビバターソースはクリームを加えず、シンプルな材料と調理法で奥深い味わいを引き出すことは大きな学びとなりました。そして、松本シェフの「素材から出たものは全てうま味であり、様々な用途で使う」という実践方法には何度も感心しました。今回、学んだ調理法を料理教室でも取り入れて行きたいと思います。

text: Hanayo Tanaka photo: Yusuke Onuma

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