料理王国の直営キッチンスタジオ「グルメスタジオFOOVER(フーバー)」で、鳥取県の梨「新甘泉(しんかんせん)」をテーマ食材とした料理講習会が開催された。
講師は、大阪の京町堀に「記憶に残る香り」をテーマにしたパティスリー「Seiichiro,NISHIZONO」を構える西園誠一郎シェフだ。
今回のテーマ食材「新甘泉(しんかんせん)」は、二十世紀のようにシャキシャキした食感の青梨と、幸水のように甘味たっぷりの赤梨、どちらの良さも併せ持つのが特徴で、鳥取県が20年かけて開発した梨だ。洋菓子の食材としては珍しい和梨が一体どのようにアレンジされるのかが見どころだ。
カフェやスイーツの激戦区である大阪の靭公園近くで人気を博す西園シェフのスイーツは、繊細な見た目と味わいが特徴だ。
この日、西園シェフが披露した新甘泉のレシピは2品。熱を加えない冷たい「新甘泉のデザート」と、焼き菓子の「新甘泉のキャラメルタルト」の2品だ。
まずは冷たい「新甘泉デザート」から。
新甘泉のマリネと新甘泉のシート(フィルム)を作っていく。手順は大きくわけて3つ。
まず初めに、エルダーフラワーの香りをつけて新甘泉をマリネしてミルフィーユ状にしていく。新甘泉のシャキシャキ感を活かすために加熱はしない。
「いろいろな切り方を試しましたが、包丁ではなくピーラーを使って薄く、厚さを均一にすることで、食べたときに梨の食感をより感じることができます」と西園シェフ。
「梨は剥いて置いておくと結構茶色くなりがちなんですけど、新甘泉はほとんど変色していません。1日ショーケースに入れていてもそんなに変わらないのでは」と、シェフならではの目線を共有しているのが印象的だ。
続いて、新甘泉のシート(フィルム)を作る。
水と新甘泉をブレンダーで混ぜ、果肉が残らないようにしっかりとジュース状態にしていく。
完全にジュース状態になったら、崩しきれなかった果肉を網などでこす。
「これをフレッシュジュースとして飲んでみましたが、1杯1,000円くらいのジュースになる」と笑いを誘う場面も。
凝固剤は、ゼラチンの動物性由来独特の臭みを避け、海藻由来のパールアガーを使用。甘味には砂糖ではなく透明度を上げるべくトレハロースを使い、生春巻き状に仕上げる。
「記憶に残る香り」をテーマにしている西園シェフ。香りを活かすことにも抜かりない。
アガーは海藻由来で溶解温度が高いため、しっかりと沸騰させて凝固力を出していきつつ、ハチミツで甘さをプラスし、レモン汁も加えていく。
フロマージュ・ブランのクリームを作る。
イズニーフロマージュブランと生クリーム、きび砂糖とバニラペーストを混ぜるだけ。
最後は、先ほど固めておいたフィルムに新甘泉のマリネとフロマージュ・ブランのクリームを乗せる。エディブルフラワーやミントを乗せても綺麗とのこと。3層に重ねたものを巻いて6層のミルフィーユ状になる。
生春巻きのようにフィルムを巻き、仕上げて完成だ。
透明なフィルムから新甘泉やエディブルフラワーが透けて見た目にも美しい。
続いて2品目の、焼き菓子「新甘泉のキャラメルタルト」を作っていく。
「カフェというよりレストランのデザートに使えるような、できるだけシンプルな構成のデザートにした」と西園シェフは言う。
「先ほど使用した新甘泉の内側なので、外側に比べると甘みが弱め。でも、そこをメインで使っていただくと余すことなく使える」と、ひとつの新甘泉で2種類の味を楽しむことができるのが本日のポイントだ。
まずは、新甘泉のソテー作りから。
西園シェフは普段きび砂糖を使用するそうだが灰汁が出てしまうため、今回はグラニュー糖を使用する。素材の味を引き立たせることを第一に考える西園シェフに料理家たちも大きく頷く。
200度くらいまで焦がし、ほぼ甘みがなくなった状態のキャラメルに新甘泉を加えソテー。途中、コアントローを加えてフランベしていく。「ラムは合わなかったけど、意外と焼酎なんか合うかも」と西園シェフ。
全体的に茶色になるまで火にかける。新甘泉は水分が多いため、使用する前に水気を切って冷ましておく。
続いては、タルトの中に敷くアーモンドクリーム。
味が単調になることを避けるべく、今回はジンジャーを使用する。
「予め発酵バターにアーモンドパウダーを入れて混ぜておきます。そうすることで、寝かせる手間を省けて早く帰ることができる(笑)」と笑う西園シェフ。バターがマジパン状態になったら、きび砂糖とジンジャーパウダー、全卵を2回ほどに分けて乳化させていく。
予め用意しておいたタルトシェル(市販のタルト台)にアーモンドクリームを絞り、ソテーを乗せて、オーブンで焼く。このタルト台の場合、アーモンドクリームは約7分目あたりまで入れる。ソテーを乗せる際、タルト生地から水分がはみ出ないよう淵はなるべく5ミリほど空けておく。180度で20〜25分ほど焼いていく。
西園シェフが持参した泡状のはちみつを乗せる。まるで生クリームのように白くてふわふわしている。新甘泉は中心に近い部分を使っているので食感として楽しみ、甘さをはちみつで補う。
泡状のはちみつをバーナーで焦がし、金箔を乗せて完成だ。
「せっかく収穫しても3〜4割の果物がB級品となり売れないこともあると農家さんから聞いて、なんとかできないかと考えるようになった」と、フードロスに積極的に取り組む西園シェフ。今年6月にフルーツパーラーをオープンし、農家とのやり取りが以前よりも増えたなかで、今回のメニューの開発に至ったそうだ。
一つの新甘泉から2つの異なるレシピの試食を楽しんだ料理家たち。「西園さんの教え方はすごく丁寧で、具体的にどれぐらい保存が効くかまで教えてもらえてわかりやすかったです」「自分が料理を教えるときのヒントもたくさんいただきました!」と、キラキラ顔を輝かせていた。
西園誠一郎(にしぞの せいいちろう)
フランス修行を経て、ヒルトン大阪、御影高杉などで勤務。製菓学校講師やアパレルブランドとのコラボスイーツ発表を経験し、2014年大阪・京町堀に、記憶に残る香りをテーマにしたパティスリー「Seiichiro,NISHIZONO」(大阪市西区)を構えながら、ポンバドウルやナナズグリーンティーなどの様々な企業のアドバイザーを務める。2017年よりImbert Japanのブランドアンバサダーに就任。
text: Hijiri Fujishima photo: Shohee Murakawa