2018年9月9日23時。京都「リストランテ ナカモト」の仲本章宏さんが主催する勉強会が開かれた。毎月1回、通常は調理技術を中心に研鑽を積む勉強会だが、今回は、日本を代表するイノベーションレストラン「HAJIME」の米田肇さんを招いての特別企画。きっかけは、かつて米田さんに師事した前田元さんのひと言。「米田さんの言っていたことが、独立してみてわかった」。それを聞いた仲本さんは「後進の僕たちが知りたいことを教えてもらおう」と思い立ったのだ。
集まった料理人は50人以上。米田、前田、仲本の3氏のざっくばらんな会話に、途中からは参加者の質問も加わる、一夜限りの勉強会が開幕した。
仲本 お二人が師弟関係だった頃とはいろいろ変わりましたよね。「H AJIME」は今総勢何人ですか。
米田 厨房は6人と研究生2人、インターン1人は不定。ホールはバイトを入れて10人。電話が1人です。
仲本 元さんもその1人だった?
前田 いや、僕がいたのは「HAJIME」のオープン時ですから、創世期の頃ですね。
米田 ぐちゃぐちゃな時(笑)。
前田 4人で回してましたね。肇さんは、当時から口にしていたビジョンを具現化して来られて、今後もこのまま進むんやろなぁと思てます。
仲本 当初の目標は何でしたか?
米田 オープンからミシュランの三ツ星を目標にしていたので、あとはどうやって取るかだけでした。大阪にたぶん来るやろ、という確信があった(笑)。フランスの三ツ星店で星を取るポイントを探って……。
前田 あ、それ知りたいです。
米田 ソース、付け合わせなど一つひとつが最高に洗練されてること。味や組み合わせではなく、パーツごとのレベルの高さです。東京版が発刊されても同じ傾向だったので「こんぐらい必要なんやな」と思って、そこに近付けました。
仲本 そして史上最短で三ツ星を獲得。一旦、二ツ星になりましたよね。
米田 その頃うちには問題が2つあったんです。ひとつは料理。常連さんに毎回違うものを出してたら、半年で作るもんがなくなった(笑)。同じ頃友だちに「お前の料理はコピーや」と言われたこともあり、僕の個性って何やろと思ったんですね。僕は元々フランスが大好き。フランス人になるんか、いうぐらい好き。
そこで一旦離れて、自分の食のルーツを考えてみました。そしたら和食ってすべてに意味があるんですよ。すごいことです。自分は感性だけでワーッとやってたな、と思ったけれど、だからといって茶道を始めるのは違うやろ。それならなんやろ、ともっと考えて、子どもの頃、山の中で育ったことに行き着きました。木があって風が吹いて、石をどけたら虫がいて……「これやん!」と。で、フレンチをやめました。
前田 もうひとつは何ですか。
米田 経営です。毎日昼も夜も満席で、400本電話かかって、全員フラフラで、僕はずっと怒ってて、ずっとイライラしてて。「こんなん目指したらあかん」と思ったんです。それで、1回転に変えました。この2点の変更が二ツ星の理由です。
仲本 ミシュランは変化を嫌うって言いますからね。
米田 でも料理のレベルは上がったんですよ。以前できなかった調理ができるようになったし、食材担当者を決めて、オペレーションも全部すっごく見直した。「付け合わせを食べてるうちに肉の温度は何度下がるか」まで緻密に。だから発表の日はね、今年も三ツ星やと思ってお祝いに某一流寿司店を借り切っててん(笑)。みんなで黙々と食べました。
前田 (笑)。三ツ星に戻った感想は。
米田 時間かかるんやな〜(笑)。5年ですからね。二ツ星の時スタッフが悔しそうな顔してたんで、彼らのために取りたいと思ったんですよ。
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