2023-07-06

カリナリーセミナー vol.2 マ・キュイジーヌ 池尻綾介シェフ

イベント・セミナー

5月24日、東京・門前仲町の「アトリエ カフネ」で、「第2回料理王国アカデミーサロン カリナリーセミナー」が開催された。講師は、「東京でフランスの郷土料理を気軽に楽しめるレストラン」として知られる西麻布「マ・キュイジーヌ」の池尻綾介シェフ。料理人の間でも人気が高く、足繁く店に通う同業者も多いという、プロが認める料理人のひとりだ。 

ただ、料理に対する姿勢はかなり柔軟な印象。2時間の講習会のなかで「そんなにきちんとやらなくても大丈夫」という言葉が、幾度となくシェフの口からこぼれ、参加者たちの笑顔を誘っていた。

この日、シェフが披露してくれた料理は「徳島県宍喰(ししくい)伊勢海老のクネル ソースナンチュア」(前菜)、「アンドゥイエットとじゃがいものガレット」(メイン)、「ヌガーグラッセ スダチのクーリー」(デザート)の3品。早速、「徳島県宍喰 伊勢海老のクネル ソースナンチュア」から講義開始だ。

まずはソース ナンチュアを作るために、熱した鍋にオリーブオイルを入れ、ニンニクひと株を皮のまま入れて香ばしく色づける。香りが出てきたら、角切りにしたタマネギ、ニンジン、セロリを入れて強火で炒める。
「香味野菜は、炒めているうちに溶けてとろみが出てしまうのが嫌なので、すべて角切りにします。また、海老料理は終始強火が鉄則。ですから、この段階でもずっと強火で炒めます」と池尻シェフ。

香味野菜と焼いた伊勢海老の殻を合わせて強火で炒める。

その後、エラをとりのぞき細かく切った伊勢海老の頭と殻を炒め、トマトコンサントレを加えさらによく炒める。あとは、ブランデー、白ワイン、マデラ酒を加え、アルコールを飛ばし5分の1くらいまで煮詰めたら、鶏ブイヨンを加えて2分の1の量になるくらいまで煮詰め、最後に裏漉しをすればソース ナンチュアの出来上がりだ。
「ブランデーを少し加えると、高貴な味になります。皆さんも、ぜひ試してみてください」と池尻シェフが説明する。

ブランデーと白ワイン、マデラ酒を加える。
鶏ブイヨンを加えて、2分の1の分量になるまで煮詰める。
シノワで丁寧に裏漉しする。

続いてはクネル作り。伊勢海老とパナード(小麦粉やバター、牛乳などを使ったつなぎ)をフードプロセッサーで合わせたら、白身魚のすり身と塩・コショウを加えて混ぜる。さらに卵白、生クリーム、カイエンヌペッパーパウダー、パプリカパウダー、1cm角に切った伊勢海老を加えて混ぜ合わせ、それをスプーンで整形しながら冷たいクールブイヨンに入れ、85℃で20分加熱すれば、クネルは完成。
「伊勢海老とパナードを合わせる時も、私はあえて雑に混ぜ合わせます。その方がいろんな食感を楽しめるからです」と、池尻シェフ。「きちんとやらなくても大丈夫」とシェフが言うのは、きちんとやらないからこそ生まれる美味しさや意味があることを熟知しているから、なのだろう。

伊勢海老の殻をむく。むいた殻はソースナンチュアに使うのでとっておく。
伊勢海老2本とパナードをフードプロセッサーで合わせる。
伊勢海老とパナードを合わせたものに、白身魚のすり身、塩・コショウを加え、全体が均等になるように混ぜる。
スプーンで形を整えて、クールブイヨンに入れる。
徳島県宍喰 伊勢海老のクネル ソースナンチュア
クネルの上にかけたソースナンチュアは、伊勢海老の風味が絶妙。濃厚なのに重くない。クネルも歯ごたえがしっかりしていて美味だ。

最初は着席してシェフの話を聞いていた料理家達も、次第に立ち上がって鍋をのぞき込んだり、シェフの手元に注目したり。言葉をメモし、要所要所で写真を撮るなど、学ぶことが多い様子。

続いては「アンドゥイエットとジャガイモのガレット」だ。でも、完成した料理は、アンドゥイエットとは似ても似つかない見た目。それはなぜか?
「豚の内臓や香味野菜を直腸に詰めて火入れをする段階で、時々破裂してしまうことがあるんです。今日は、そんな失敗作を美味しく食べる方法をお伝えします」というシェフの言葉に、怪訝そうな顔をしていた料理家達も、納得の表情を浮かべる。

豚の小腸を見せる池尻シェフ。
流水で汚れやぬめりを取ってカットした豚の大腸や小腸、ガツをたっぷりの水で香味野菜と共に柔らかくなるまで煮込む。その後しっかり脱水。調味料で一晩マリネし、内臓の総量の5分の1量をミンチにして、残りの内臓と豚ののど肉を混ぜ合わせる。
内臓とのど肉を混ぜたものにタマネギとエシャロットのみじん切り、パン粉を加える。
火入れ段階で爆発してしまったアンドゥイエット。

難しいことはない。細切りにしたジャガイモをフライパンに並べ、その上に破裂してしまったアンドゥイエットを乗せて焼くだけ。それでも、ほっくりとしたジャガイモの味とアンドゥイエットの肉の味わいがぴったりマッチした、メインディッシュになっている。単なる料理講座に留まらない、ちょっとしたひとひねりが、料理家という“料理のプロ”の感性を刺激し、新しいひと皿を生み出すヒントになることを、池尻シェフは知っているのだろう。

フライパンに細切りにしたジャガイモを並べ、その上に爆発してしまったアンドゥイエットをのせて焼く。
アンドゥイエットとジャガイモのガレット
香味野菜と共に柔らかく煮込んだ大腸や小腸、ガツをザルにあけ、粗熱が取れたら紙を巻いて2~3日冷蔵庫で脱水する。「アンドゥイエットでは、この脱水が重要です。きちんと脱水しないと、味がのってきません」と池尻シェフ。あとは、これらの具材とみじん切りにしたタマネギとエシャロット,パン粉を合わせて直腸に詰め、湯煎85℃で45分間火を入れれば、アンドゥイエットの出来上がり。今回は、爆発してしまったアンドゥイエットをジャガイモの細切りとともに焼き上げれば完成だ。

そして最後は「ヌガーグラッセ スダチのクーリー」。くるみとアーモンドスライスはグラニュー糖でキャラメリゼし、粗熱がとれたらひと口大に砕く。ボウルにドライフルーツとホイップクリームを入れて混ぜ合わせ、そこにキャラメリゼして砕いたナッツとイタリアンメレンゲ、キルシュを加えたら、型に流して冷凍庫で一晩固めれば、「ヌガーグラッセ スダチのクーリー」の出来上がりだ。

クルミとアーモンドスライスをグラニュー糖でキャラメリゼする。
粗熱が取れたら、ひと口大に砕く。
クルミとアーモンドスライスをグラニュー糖でキャラメリゼする。
粗熱が取れたら、ひと口大に砕く。

このヌガーグラッセは、池尻シェフが修業時代に出会って惚れ込んだ、思い出のデザート。いつか自分の店でも出したいと思っていた、と池尻シェフは言う。

ヌガーグラッセ スダチのクーリー
ドライフルーツやナッツのゴロゴロとした食感とムースのひんやり感のバランスが絶妙。スダチのクーリーを少し付けて食べると、スダチの酸味が口中に広がり、爽やかな印象に。

料理セミナーが終われば、楽しい試食タイム。池尻シェフが、ペアリングのために店から持参したワインを飲みながら、ワイワイ、ガヤガヤ。「池尻シェフはフランクでお話し上手。楽しく勉強させていただきました」「『そんなにきちんとやらなくていいんですよ』という言葉を聞いて、ちょっと肩の力が抜けました。参加してよかったです」等々……。料理家の皆様も、収穫は多かったようだ。

この「カリナリーセミナー」は、従来の「料理王国アカデミーサロン」とともに、今後も続けていく予定なので、レポートをお楽しみに!

池尻綾介

1978年、神奈川県生まれ。恵比寿「ラ・ピッチョリー・ドゥ・ルル」、「白金シェ・トモ」のシェフを経て、2010年に渡仏。ブルゴーニュ「ジェローム・ブロショ」、シャンパーニュ「パトリック・ミシュロン」、「ビストロ le 7」などで経験を積み、2012年に帰国。南麻布「レストランひらまつ本店」、代官山「メゾン ポール・ボキューズ」を経て、2019年、西麻布に「マ・キュイジーヌ」をオープン。

料理王国ACADEMY Culinary Seminar

「料理王国アカデミー カリアリーセミナー」とは、料理界でも評判の高いトップシェフを講師に迎え、実際に調理をしながら、参加した料理家に調理技術や食材に対する考え方などを教える「料理講習会」のこと。サロン形式だった従来の「料理王国アカデミーサロン」の拡大版だ。2023年3月には、「クリマ ディ トスカーナ」の佐藤真一シェフが登場。今回はフレンチの技を学んだ。

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