2025年10月23日開催
美味しい料理を作るために、日々、研鑽を重ねているのは料理人も料理家も同じ。
しかし、飲食店でゲストに料理を提供するのと、家庭料理のコツを教えるのでは、異なる視点が必要だ。
そこで、生産者、トップシェフ、料理家の三者の交流を広げ、互いに刺激し合い、ともに料理業界を盛り上げる。そんなコミュニティーの場が、この「料理王国アカデミーサロン」だ。
今回は、東京・青山の和食店「てのしま」の店主、林亮平さんに6人の料理家が学んだ。
料理界の第一線で活躍するシェフと料理家を、食材を通して繋ぐ場所として人気を得ている「料理王国アカデミーサロン」。今回の舞台は、東京・青山の和食店「てのしま」だ。講師役を務めるのは、店主の林亮平さん。テーマ食材は、愛知県・碧南で75年にわたって造られている「七福醸造」の「白しょうゆ」だ。

有機小麦・有機大豆を主原料に仕込んだ、日本で唯一の有機JAS認定の白しょうゆ。諸説あるが、白しょうゆは江戸時代後期1800年頃に、金山寺味噌の上汁を調味料として使用され、当時の三河国新川(現在の愛知県碧南市)で白醤油は作り始めたとされる。現在でも白醤油は、愛知県の特産品として知られる。「七福醸造」では「体にいい物を造る」をキーワードに、原料を吟味し品質のさらなる向上を目指して、「白しょうゆ」を造り続けている。

実は林さん、自身でも気に入って「白しょうゆ」を愛用している。その理由を「上質な調味料があれば余計なものは要らない」から。
さて、この「料理王国アカデミーサロン」に出席された料理家の方々が手がけるのは家庭料理がメイン。飲食店と家庭料理では向き合い方が変わる。家庭料理の場合は「少ない材料で、手順が少なく、ごちそう感があり、フックがあることが大事な要素」と林さん。フックがある、というのは既視感があるということ、知っているけど、どこか違う。というのも、人は未知のものには手を出さないからだ。
そうして、実際に作って、「よかった。また作ってみよう」となることが肝だ。「家庭料理は毎日のこと、気軽にリピートできるのが大事」と林さんは言う。
今回紹介してくれた2品「鮭 白しょうゆ親子焼き」「里芋白しょうゆごはん」はまさにそれだ。「七福醸造」の「白しょうゆ」をこれだけで完成した調味料として使うので、「えっ、これだけ」と拍子抜けするほど、シンプルな材料で、手順も簡単だ。
鮭 白しょうゆ親子焼き

大根おろしはサラダにヒントを得て、オリーブオイル、柑橘汁と混ぜることで、爽やかさと新鮮さが持続する
親子とあるように、鮭といくらを使う一品で、鮭は「白しょうゆ」で幽庵焼きにして、「白しょうゆ」に漬けたいくらをのせる。大根おろしも重ねるが、いずれも身近な材料ながら、ぐっとランクアップする味と構成だ。
シンプルな方法は端折ったからではない。論理的に考えた結果だ。例えば、白しょうゆ幽庵焼きのベースには。みりんは使わない。その代わりに使うのが「白しょうゆ」だ。「白しょうゆ」と煮切り酒と塩、この3つだけ。しかも、「白しょうゆ」を使うことで、鮭のクセがとれ、やわらかい甘みも加わる。

いくらの白しょうゆ漬けは、しっかり漬けないのがポイントで、「1時間で十分」と林さん。というのも、長時間漬けると浸透圧でいくらが持つ旨みが流れ出てしまうからだ。これもベースは、煮切り酒、「白しょうゆ」、水、追いがつおのみ。しかも、追いがつおはなくてもよい、あれば確かに複雑みが出るけれども、わざわざであれば入れなくでもよい、気安さだ。


短時間なのでしっかり浸かったところとそうでないところがあり、これが食べた時にアクセントになる
難なく作れるが、いかにも和食店の献立のような仕上がりで、口にすると、それぞれの旨みがしっかり引き出され、そして口の中でふくよかに合わさる。これは「白しょうゆ」が立派な立役者である所以だろう。
里芋白しょうゆごはん

こちらはさらに簡単な一品かもしれない。調味料として使うのは「白しょうゆ」と塩のみ。出汁なし、日本酒なし。具材も里芋だけ、かつ下処理をせず、皮をむいて1cm角に切るだけ。つまり、材料は米、里芋、「白しょうゆ」、塩、水だけだ。これでしっかり旨みがあり、思わずお代わりをしてしまうのは、「白しょうゆ」が果たす役割が大きいからだろう。

驚くほどほどのシンプルさは、セオリーあってこそ。里芋など根菜系の具材の場合は、塩でしっかりリッチ感を引き出す。お米も2割をもち米にすることで、里芋のねっとり感をベクトルを合わせ、ほっこりとした仕上がりになる。


さつまいもや百合根、銀杏、豆類でも同様に作れる。理屈がわかると応用がしやすい、そのことが端的に示された一品でもある。
「和食はおおらかでいい」。
食べてみると、そんな林さんの言葉が、すとんと腹に落ちる。

この日は、「七福醸造」取締役の岡本伸治さんもいらして、「白しょうゆ」の説明をしてくださった。醤油の分類から始まり、白醤油の歴史や定義、「七福醸造」の「白しょうゆ」の特徴など、普段あまり触れることのない物づくりの現場からの声に、参加された料理家のみなさんも興味深く耳を傾けていた。

加えて、「てのしま」の林さんからは、使い手の立場から、「『白しょうゆ』は塩分がやわらかく色が淡い。そして旨みがあり、出汁を思わせるものがすでに備わっている、なのでこれ1本で十分、あとは基本調味料で味と加減を調えるだけ」との話に、実際に試食もして、大いに納得する。
林さんは、日本の食材や調味料を継承したい思いが強い。「知って使って食べることをしないと廃れてしまう」、そんな思いも伝えられた。
伝統的な日本の調味料の作り手と使い手、両者の立場からの話が聞けた、今回の「料理王国アカデミーサロン」は、料理家の方々にとって大きな学びの場となったようで、これからのレシピ作りに期待できそうだ。

林 亮平
1976年香川県丸亀市生まれ、岡山県玉野市育ち。立命館大学卒業後、2001年株式会社「菊の井」入社、「菊乃井」主人・村田吉弘氏に師事。20以上の国や地域で和食を普及するためのイベントに携わる。2018年「てのしま」開業。京都で習得した日本料理の技法、海外で磨いた知見と感性をもって郷土“せとうち”と向き合い、自らのルーツである、香川県“手島(てしま)”を目指す。「日本料理アカデミー」正会員、「食文化ルネッサンス」「Chefs For The Blue」メンバー。
てのしま
東京都港区南青山1-3-21 1-55ビル2F
TEL 03-6316-2150
18:00〜最終入店20:00
日祝休・不定休

岡嶋美香 おもてなし料理教室 イル・レガーメ主宰
シエナ料理学院でイタリア料理を学んだ後、リストランテでスタージュとして勤務。7年間タイ、中国に暮らし、現地の料理を学ぶ。中華人民共和国認定高級茶芸師、点心技師、調理師の資格を取得。JSAソムリエの資格を持つ。料理教室の傍ら、企業のレシピ開発や出張料理などでも活動中。
味を重ねすぎず、素材を生かす和食に出汁代わりに使用できる「白しょうゆ」は、使いやすい調味料だと思いました。実際に愛用されている林さんのお話から、丁寧に実直にものづくりに取り組まれている「七福醸造」さんの「白しょうゆ」の魅力が伝わりました。根菜や豆類のピュレやソースなどにも活用してみたいです。料理以外のお話にも大いに刺激を受けました。それぞれの立場を慮りながら、レシピを考えていきたいです。今後の活動の指針となる発見がありました。

長内みほこ 料理教室ピアチェーレ主宰
イタリア各地を訪れて学んだイタリア郷土料理と日本料理をベースに旬の食材の美味しい食べ方、季節感のある食卓を提案。現在は、夫のワイナリー設立により青森県弘前市と東京の2拠点でレッスンを開催。ワイナリーの広報として情報発信も行う。最近のテーマは、津軽の郷土料理とワイン。
白醤油の可能性を深く識ることができた企画でした。「七福醸造」さんの「白しょうゆ」は有機の小麦と大豆、天日塩から丁寧に時間をかけて作られ、圧搾しないことで雑味がなく透明感のある味で、旨みと甘みが凝縮されており、そのこだわりの製法に、よいものを後世に伝えたい思いがあふれていると感じました。林さんからはその「白しょうゆ」をどう生かすかを丁寧に熱く教えていただき、シンプルなレシピなのに食材の持ち味がしっかり生かされ、ある意味ショックを受けました。

児玉ゆきこ Salon d’igrek主宰
東京の老舗日本料理店の家庭に育ち、料理とおもてなしの基礎を学ぶ。イタリア料理店、日本料理店、病院給食事業に携わる。ル・コルドン・ブルー東京校でフランス料理のディプロム取得。駐日フランス大使館公邸厨房での経験を経て、2010年より日本料理とフランス料理のおもてなし料理教室を運営。
「てのしま」店主、林さんの食材や料理に対する情熱や哲学のお話は大変興味深く、すっかり聞き入ってしまいました。繊細な旨みがあり琥珀色の「七福醸造」さんの「白しょうゆ」を使ったお料理の一品一品、「鮭 白しょうゆ親子焼き」「里芋白しょうゆごはん」のデモンストレーションを通じて、具体的に食材の味の引き出し方や調理法を教えていただき、家庭の食卓で幅広く活用できると思いました。質問や疑問にも快く答えてくださり、たくさんの学びがあった時間でした。

高橋はるな 料理家/フードコーディネーター/ワイン講師
国際線客室乗務員として勤務中に、各地の豊かな食生活に触れ、食やワインを通じて暮らしをより楽しむ仕事がしたいと思い、料理家に転身。大手食品メーカーのレシピ監修や開発、ワインスクールのワイン講師など幅広く活動を行う。日々の生活に寄り添う、簡単でちょっとおしゃれなレシピが得意。
「七福醸造」さんの手間ひまやコストを惜しまずに、よいものを造り続けていらっしゃる姿に感銘を受けました。実際に味わって、丁寧に造られているからこその味わい深さに感動しました。試食でいただいた林さんのお料理は、「白しょうゆ」の特徴である甘みと旨みを生かし、それでいて素材の持ち味が最大限引き出されていて、とてもおいしかったです。創作意欲が刺激され、鍋つゆやだし巻き卵、湯葉やお刺身につけたりして、早速自分でもいろいろと試してみます。

道下欣子 Salone Felice主宰
フィレンツェでの料理留学を経て、ル・コルドン・ブルー東京校に入学。料理と菓子を学び、グランデュプロムを取得。食の楽しさと同時に、生きるための食についても考えるようになり、薬膳を学ぶ。料理教室のテーマは、イタリアン・フレンチベースのおもてなし料理と、和食で考える薬膳料理。
林さんの軽快なトークを楽しみながら、「七福醸造」さんの「白しょうゆ」の特徴や、プロならではの家庭で気軽に作れる調理法を教えていただき、目から鱗の連続でした。お料理のほっとするお味に、しみじみ日本人でよかったと感じました。雑味もなく自然な旨みを感じる「白しょうゆ」は、これから使う機会が増えそうです。また、林さんの日本の食文化を次世代に繋ぎたい、「七福醸造」さんのように真摯に取り組む企業や生産者さんを応援したい思いにも深く共感しました。

山本由里子 Leiクッキイング主宰
運営する料理教室やメディアでのレシピ提案を通じ、家庭料理にスパイスを取り入れる楽しさを発信。レシピでは、旬の食材と香りの組み合わせを大切にし、手軽で上質な食体験を日常に届けることを目指す。また、作るきっかけとなるよう、小売店向けにスパイスアイテムの販売も行っている。
「七福醸造」さんの「白しょうゆ」を使うことで、出汁がなくても旨みを引き出せること、またみりんや砂糖を使わなくても、酒と合わせることで自然な甘みを演出できることを学びました。とりわけ印象的だったのは、甘みの使い方や味の重ねすぎを避けることの大切さです。調味の基本だけでなく、料理全体のバランスを意識する学びの場となりました。話はさらに、日本が抱える食の課題にまで広がり、広い視点で食を考える大事なきっかけとなりました。