イタリア料理のコースおいて、パスタは「primo piatto(プリモ・ピアット)」、つまり「第一の皿」である。前菜の「antipasto(アンティパスト)」と主菜の「secondo piatto(セコンド・ピアット)」に挟まれたこの麺料理に対して、日本人は興味をそそられずにはいられない。「パスタ料理は、お客さんに試されている感じがする」と言った、あるシェフの言葉が印象的であった。
「デザインパスタ・コレクション」と聞くと、見た目だけの格好いいパスタを想像しがちだが、けっしてそうではない。「デザイン」には意匠だけではなく、設計、構想といった意味も含まれる。
パスタ料理には、麺の種類による、ソースや素材の組み合わせ方など、さまざまなシェフたちのデザイン哲学が息づいているはずだ。
あるシェフは、イタリア料理の基本でもある、トマトソースのおいしさを徹底して追求し、またあるシェフは、日本料理の古典にヒントを得たパスタ料理を考案した。このほか、水墨画の技法を盛り付けのヒントにするシェフもいた。そのひと皿に構築された、デザインパスタストーリーをここでご紹介しよう。
開店13年目の昨年4月にリニューアルオープンした「アカーチェ」。メニューでの大きな変化といえば、コース料理のいちばん最後に「締めのパスタ」をもってきたことだ。
「日本人はパスタ好き。でもセコンドの前にパスタを食べると、満腹になってしまう。量も調節して最後にお出しします」と奥村忠士さん。
写真のピーチは、オープン当初から作り続ける店の看板パスタ。まだ日本で、今ほど手打ちパスタが浸透していなかった時代に「ソースを変えるだけではなく、麺自身に個性を持たせよう」と考え、作り始めたのがきっかけという。最初はめずらしさゆえ、「うどんのようだな」と、お客にからかわれもした。しかし、そのうちメニューから外せない、定番パスタになっていった。
つるんとして、シコシコと歯応えのあるピーチは、確かに手打ちうどんの食感に似ており、麺好きジャッポネーゼの食指が動く。「何も特別なことはしていません。郷土料理はいかに少ない材料で、おいしいものを作るかが大切」と奥村さん。トマトソースの作り方は、ウンブリア州の修業時代に覚えたものだ。コースの締めにふさわしく、食べ飽きない適度な酸味と甘味、濃度で完成される。
ウラ技は、タマネギをくし形に切って炒めること。みじん切りだと、なぜかタマネギの旨味が出しきれないそうだ。たっぷりのオリーブオイルの中で、外が色づき、中がホクホクするまで泳がすように炒める。開店から14年経った今も、おそらく今後も変わらない、パーマネント・パスタの形がここにある。
材料
● パスタ生地(20人分)
イタリア産小麦粉(00タイプ)400g/水 190ℓ/塩、オリーブオイル 各適量
● ソース
ホールトマト 1kg/ニンニク 1片/タマネギ 1個/バジル 1枝/オリーブオイル 150㎖/塩 5g
● 仕上げ
バター、パルミジャーノチーズ、コショウ、リコッタチーズ(燻製タイプ)各適量
作り方
パスタ生地
1.ボウルに粉と水、塩、オリーブオイルを入れて手でよく練る。これをラップ紙に包んで冷蔵庫で半日間ねかせる。
2.1をパスタマシンで厚さ8mmに伸ばす。これを幅1cm、長さ25cm程度に切る。
3.2の麺を両手のひらで転がすように伸ばし、長さ8cm程度に切る。
ソース
1.鍋にオリーブオイルを入れ、つぶしたニンニク、くし形に切ったタマネギを弱火で20分間ほど炒める。
2.タマネギの表面が色づき、中がホクホクしてきたら、ホールトマトを入れてバジル、塩を加え、約40分間煮る。
3.濃度が出てきたらバジルを取り除き、ムーランで漉す。
仕上げ
1.鍋にソース(1人分30g)を入れ、バターを加えて混ぜ合わせる。
2.塩湯でゆでたピーチ(1人分30g)を1に入れてよく和える。最後にパルミジャーノチーズとコショウを加えて仕上げる。
3.皿に2を盛り付け、上からリコッタチーズをすりおろす。
Le Acacie [アカーチェ]
東京都港区南青山4-1-15 アルテカ・ベルテプラザB1F
03-3478-0771
● 18:00~21:00 LO
● 月曜休
text by Kanami Okimura photographs by Gaku Yamaya
本記事は雑誌料理王国第183号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第183号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。