「銀座 小十流!」牛肉の火入れ


土佐あかうしには外から旨みを足す。料理人なら、肉を使いこなしたい

銀座 小十 奥田透さん

「サシが絶妙に入った黒毛和牛もおいしいけれど、自然のなかで健康的に育った土佐あかうしも素材としては遜色ありません」と奥田透さんは言う。肉そのものの旨さは黒毛和牛のほうが分かりやすい。だから奥田さんは、味付けには塩、コショウをパラパラとふるだけ。土佐あかうしのほうは、外から味噌やしょう油などの味を加えて、旨みを足し込む。「その意味では、土佐あかうしなどのほうが、料理人にとっては面白い」

マグロでも、大トロが食べたいときもあれば、赤身のほうが旨いと感じるときもある。牛肉も同じだ。「旨さが分かりやすいと言って『、黒毛和牛しかない』というのでは、料理に幅がないと思うんです」

健康的に育った牛の脂は人の体に優しく、もたれない

それにしても、今回の土佐あかうしの肉塊を見て驚いた。思いのほか、脂がある。しかし、焼き上がった肉を食べて、さらに驚いた。脂がほとんど感じられないのだ。むしろ、ほどよい脂肪分が肉をしっとりとさせ、口当たりをよくしている。「それは、自然な脂身だからです。体に脂をため込ませるために育てられた牛ではないからなんです」 

牧草などの自然な飼料を食べ、自然の中で元気に動き回るなかでついた脂だから、人間の体にも優しく、もたれないというわけだ。

しょう油やみりん、白粒味噌をベースにした味噌幽庵地を染み込ませ、炭火でじっくり焼いた土佐あかうしは、ふっくらやわらかで、赤身の味がしっかり。欧米料理で好まれる土佐あかうしを、味噌をまとわせて、みごとに日本料理のひと皿に変える技はさすがである。

肉の火入れは「攻め」と「引き」が大事。
ダラダラ焼いても旨くならない

1 味噌幽庵地に約30分つけたのち、炭を弱火に調整して焼き始める。かけ地をかけながら、何度か肉を裏返し、2割ほど火が入ったら、火から下ろして5分ほど休ませる。こうすることで、熱くなったかけ汁が肉のなかに入り込んで火が通り、味も染み込む。

2 その後、また炭火である程度まで焼き、アルミホイルをかぶせて燻香をこもらせる。

3 最後に強火で焼き色をつけて仕上げる。最初は弱火で、一度休ませたあたりは中火、アルミホイルをかけたあたりから強火にするのがポイントだ。炭火で焼くと、遠赤外線の効果で中心あたりがふっくらしてくる。

土佐あかうしの味噌幽庵焼き

しょう油やみりん、白粒味噌をベースにした味噌幽庵地につけた肉を、さらにかけ地(レシピ参照)をかけながら炭火でていねいに焼き上げたひと皿。味噌幽庵地の味が肉に染み込み、繊細な味わいが口中に広がる。

Toru Okuda
1969年、静岡県生まれ。静岡や京都、徳島などで10年間修業。1999年に静岡で独立。2003年、「銀座 小十」を開店する。 2011年、「銀座 奥田」を開店。2013年9月、「銀座 奥田」パリ店を開く。2008年より6年連続でミシュランの三ツ星を獲得。著書に『焼く:日本料理 素材別炭火焼きの技法』(柴田書店刊)、『世界で一番小さな三つ星料理店』(ポプラ社刊)などがある。

山内章子=取材、文 依田佳子=撮影

本記事は雑誌料理王国2014年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2014年1月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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