【連載】名店を支える隠れた逸品「au deco」の“食器と塩”


第一線で活躍するシェフが使っている調味料を紹介。
そこには、プロならではの深いストーリーがある。

2019年3月、東京・広尾にオープンした「au deco(オデコ)」。オーナーシェフの掛川哲司さんはそれまでも多くの話題店を手がけてきた人物だ。果たして「au deco」はどんなお店になるのか注目を集め、その内容は、正統派フランス料理とヴィンテージワインが楽しめる店だった。開店してほどなく、ミシュランの星評価も獲得。その実力は折り紙つきである。

40代に突入してほどない、若い世代の掛川シェフだが、手がけるのはクラシックなフランス料理。目先の新しいもの、イノベイティヴなものに目が向かいがちで、確かにそれは今の時代を体現しているのは間違いないが、掛川シェフは根源的なところを大事にしたいと考えている、そこには、フランス料理の真髄を次世代に継承したい思いもある。

それを表すかのように、料理を彩る食器もマイセン、ローゼンタール、ジノリ、ロイヤル・コペンハーゲンなど、一流メーカーのクラシックなライン。料理同様、長年受け継がれているものの価値と伝統に敬意を払うゆえである。

オリジナルブレンドで塩を作る

伝統を守るだけではない。基盤は遵守しつつ、時代に合わせて変えるべきは変える。掛川シェフは、2021年から新しい試みを始めた。

それは塩。なんと、オリジナルのブレンド塩の作成に着手したのだ。きっかけは、ソルトコーディネーターの青山志穂さんと出会いだった。信頼のおける友人の紹介で知り合った青山さんは、塩のエキスパート。国内外の塩に精通しているだけではなく、現地にも赴き、実際に130種もの塩を取り扱っている。

食のプロ同士、会話が弾み、オリジナルブレンドの塩を作ることに話がたどり着いたのだ。

「au deco」での食事と掛川シェフとの会話から、青山さんがピックアップした塩は20種。そこから掛川さんが実際に確認して13種に絞り込み、オリジナルブレンドの作成となった。

調味料は料理を引き立てるものと捉えがちだが、掛川シェフはそう考えない。料理と同じ比重でワインにも注力している「au deco」では、「ワインに寄り添い、料理の余韻を広げる。そんな役割を、オリジナルブレンドの塩に期待しています」と掛川シェフ。料理とワインの橋渡しとしての役割を担ってくれれば、と掛川シェフは、オリジナルブレンド塩にかける思いを話す。

料理とワインを塩が橋渡しする

2021年4月現在、オリジナルブレンドは2種類。ひとつはより新しいヴィンテージのワインに寄り添ったマイルドなタイプで、石川・珠洲の竹炭の塩、新潟の玉藻塩、長崎の花藻塩を合わせたものだ。もうひとつは重厚感のある古い年代のワインを意識した奥行きの深いタイプで、キプロスの塩を中心にブレンド。ともに黒がかった色をしているのは竹炭によるもので、より黒味が強い方が古いヴィンテージに適したブレンド塩である。

後者の塩を活用した料理の一例が、「国産牛ランプのロースト 仔羊のエッセンス」だ。オリジナルブレンド塩は仕上げにふりかけ、皿にも少し盛る。

仕上げにふる塩は、とかく塩味がぐっと前面に出る場合が多い。しかし、オリジナルブレンド塩では、まず飛び込んでくるのは、肉の旨味。その後で、やわらかい塩味が口の中をまとめるように追いかけてくる。それでいて後味はすっきり。料理を穏やかに引き立て、ワインとの相性をより高めるのだ。まさに料理とワインのつなぎ役である。

塩の持つ大きな可能性に開眼

野菜や肉など食材にこだわるシェフは少なくない。しかし、調味料となると、従来の習慣に従っている場合が多いのが実情だ。塩は基本中の基本。「どんな料理にも塩は欠かせません。しっかり考え抜いて使い分けるのは骨の折れることですが、その分、料理の可能性は大きく広がります」と掛川シェフ。

まずはこの2種類のオリジナルブレンドを使いこなす、その上で種類を増やすことを今、掛川シェフは考えている。「次は白ワインに合わせた塩を作ります」と、新しい可能性にも積極的だ。

掛川哲司
1978年、神奈川県出身。料理師専門学校を卒業後、箱根「オーベルジュ オー・ミラドー」、東京・青山「レ・クレアシヨン・ド・ナリサワ(現・NARISAWA)」などで修業し、「デイルズフォード・オーガニック 青山店」(現在は閉店)でシェフを務める。独立後、2013年に代官山「Ata」オープンを皮切りに、恵比寿「グッドラックカリー」、日比谷「Varmen」、広尾「au deco」と、タイプの違う店舗を次々と開店し、いずれも人気店となる。

au deco
東京都渋谷区恵比寿2-23-3
TEL 03-6721-9218
18:00〜23:00入店
日曜休


SNSでフォローする