400年の伝統を継ぐトップシェフの技「瓢亭」髙橋義弘さん


400年の伝統を継ぐ「だし」と素材を生かす火入れで、減塩

瓢亭 髙橋義弘さん

 創業から400年以上、京都のみならず日本を代表する料亭「瓢亭」。その15代主人となる髙橋義弘さんの料理は、まさにヘルシーで美しい。「日本料理自体がすでにヘルシーですからね。油脂をあまり使わず、使うときも必要最小限」と髙橋さん。「でも、このグジ麺だけは油が欠かせない。『太白胡麻油』は素材を邪魔せず、クリアな味に仕上がるので定番です。NYにも、天ぷら用に太白胡麻油を持って行ったんですよ」

「太白胡麻油」と「京番茶」を使った香味オイル

 グジに、熱した太白胡麻油をゆっくり回しかけて表面の水分だけを飛ばし、3分間オーブンで加熱すれば、表面はきれいにパリッと、身は箸でホロリと崩れるやわらかさに焼き上がる。ここに太白胡麻油に、京番茶の香りを移した〝京番茶オイル〞で香りを加わえ、濃いだしを注げば調味料はほとんどいらない。

 日本料理の命はなんといってもだし。瓢亭では8升の水に対してたっぷり380gの昆布を使い、70〜75度の温度で20分煮出す。昆布を取り出したら湯を90度まで上げて、カツオより渋味の少ないマグロ節を加えてまた90分。こうして取っただしはコクがあり、そのままでも十分に美味しい。

「旨みが強ければ、調味料を控えても物足りなくなりません。元々ヘルシーな日本料理ですから、減塩できればさらにいいですよね」

熱した太白胡麻油をかけてグジの表面の水分のみを取る

硬水、軟水で取った「だし」は調味料いらずの濃厚さ

 一方、煮こごりに使うタイだしは、水を使い分けたユニークなものだ。まずはにがりを加えて「硬水」を作り、その水でゆでこぼして、タイのアクと臭みだけを取り除く。次に昆布とともに軟水で煮出す。

 これで昆布の粘性がアクを吸着するため、タイの旨みだけが無駄なく抽出できる。

「アク取り用の卵白を一緒に煮る方法もありますが、旨みも吸い取ってしまう。硬水は昆布を煮ても広がらないほど、全く旨みが出ない。2回に分けて煮れば、臭み消しのショウガなどはいりませんよ」と髙橋さん。

 タイのピュアな味が抽出された煮こごりに、ホクホクとした食感、上品な味わいの白花豆のすり流し。ほんのり香るユズと、トマトだしのさわやかさが涼を添える。

 今回用意された18種の豆から、もう1種選んだのは中長ウズラ豆。炒ってから煮ることで香ばしく仕上げ、別ゆでしたサザエ、くるみを合わせて味と食感に変化を付けた。「豆って食べ飽きるでしょう。このやり方ならコーヒーのような香ばしさが後から来て、つい食べてしまう」

 なるほど、サザエの肝の苦さと、豆のほっくり感、くるみの歯ざわりが楽しいひと品である。

 今、髙橋さんは代々伝わる味を守りながらも、新たな料理にも挑戦すべく奮闘している。トマトの利用などは父である14代目の英一さんも行ってきたが、髙橋さんはフレンチを応用するなど技法にも新鮮さを組み込む。シンプルが身上の「瓢亭」において、どのような料理が生まれるのか、これからも楽しみだ。

日本料理は素材の味わいを引き出す料理旨みが強ければ、調味料は減らせます

グジにゅうめん 冬瓜 洗いネギ 黒七味

グジ(アマダイ)は熱した太白胡麻油をかけた後、番茶(ほうじ茶)の香りを移した油を塗って、香ばしくふっくらと焼き上げた。二番だしを含ませたそうめんと冬瓜がグジの脂と旨味も吸った、コクのある煮物椀。

Yoshihiro Takahashi
1974年京都府生まれ。創業400年以上の料亭「瓢亭」の15代主人。大学を卒業後、石川県・金沢「つる幸」にて修業。99年より父である「瓢亭」14代目主人・英一さんとともに若主人として厨房に立つ。料理教室の講師、学校での食育活動など精力的に活動中。

藤田アキ=取材、文 

本記事は雑誌料理王国2011年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2011年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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