【日本料理・人気繁盛店のつくりかた】京都・上賀茂「京 上賀茂 御料理 秋山」


ここでしか体験できない料理と空気。
オリジナリティを探し、自らも楽しむ。

京 上賀茂 御料理 秋山 秋山直浩さん

京都市北部の〝洛北〞と呼ばれるエリアは山際に近い元農業地域で、今も道端に水路が流れ、脇に畑やビニールハウスが点在している。京都市内でもここまで来ると、ずいぶんと空気が変わる。「妻の実家がこの近くでして、この辺りに住むようになりました。自然が豊かですばらしいところです」と「御料理秋山」の秋山直浩さん。自身は大阪府生まれだが、祖母の家が岡山県の古い民家で、子供の頃は夏休みを田舎で過ごした。独立にあたり、その雰囲気に似た築年を超える古民家を上賀茂で見つけた。しかし同業者や知人から、辺鄙さと建物の古さなどの理由で「やめておけ」という声が大半を占めた。

薪が詰まれた玄関。カウンターの奥には裏庭の緑が絵画のような借景になっている。

好きな人を楽しませるには?オリジナリティの追求

庭付きの一軒家で97坪。家賃は12万円と控えめに設定してもらっている。中も自由に改装していい。ただし、傷みは激しかった。柱などは補強のために新たに立てなければならない。できるだけわざとらしくなく、前からそうだったようにしたいと考えた。描いたコンセプトは「日本の原風景」。たとえば待合の囲炉裏はまるで以前からあったかのようだが、開業にあたりしつらえたものだ。店舗の雰囲気は絶賛されるが、改装費用は2500万円以上かかった。「庭の手入れは父に頼み、今度7月末から9月まで店を閉めて、屋根瓦を全部葺き替えるんです。開業時にやるべきだったんですが、お金がなくて。古民家を維持するのは大変です」。

客席はカウンターのみ12席。コースが始まる。炭鉢の上で、鷹ヶ峯の農家・樋口昌孝さんの畑で摘んできた初物の鷹ヶ峯唐辛子を炙る。続いて藁を燃し、鯖を炙る。客席は白煙と脂の落ちる匂いに包まれる。おくどさんの土鍋から湯気が上がり、米の炊ける香りが漂う。「日本の古い家の台所にあったであろう、匂いや煙を感じてもらいたくて」。郊外の一軒家ならではのパフォーマンスだ。

開業時、昼は3150円だった。「お金の感覚でボケたらアカンとつねづね自分に言い聞かせています」。5年が経ち、人気店となった今も値上げはわずか450円だけだ。「毎月来てほしいので自分が毎月食べに行くならいくらなら出せるかと考えます」。最寄り駅からのタクシー代も考慮に入れての価格設定だ。

朝は市場のほかに、樋口さんの畑へ、また野草を摘みに野山へと走り回る。自分が動いてコストを減らす。と同時に、季節の移ろいや野菜の生育を肌で感じ、いかに料理したらおいしくなるのかを考えるために必要な時間でもある。そこで感じたことは、その日の営業中の話題にもなる。「大根の花が食べられるって知ってました?ちょっとのせてるそれ。食べてみてくださいよ」とお客に語りかける。お客も興味深げだ。テンポよい掛け合いは、トークライブのようで楽しい。「目の前の人が自分の好きな人だと仮定してください。その人に喜んでもらうにはどうしようか精一杯考えるでしょう。食材も絶対に変なものは使えない。好き好きと思っていると、伝わるものですよ」といたずらっぽく笑う。自分のオリジナリティは何かと模索した結果、コンセプトやしつらえ、料理の方向性が決まってきた。秋山さん自身が自然体で楽しんでいる。その空気が店全体を包み、人を呼ぶ。

おくどさんで炊き上がった米。火は「御料理 秋山」において、五感で感じて帰ってほしいという、パフォーマンスの要となっている。

秋山直浩さん
1971年大阪府生まれ。あべの辻調理師専門学校在学中、デパートの中の「花外楼」の支店でアルバイトを経験。卒業後「京都𠮷兆」に入店。「花𠮷兆」など系列店を含め13年間勤める。2006年2月に独立。

text :Ayako Miyoshi /photo:Toshihiko Takenaka

本記事は雑誌料理王国2011年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年8月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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