【レシピ付き】ボリューム満点!北島亭の「仔牛の塩包み焼き」


肉焼きの達人「北島亭」北島素幸氏がスペシャリテにして〝未完〞という「仔羊の塩包み焼き」

パリの「ジャマン」(ジョエル・ロブションが独立しオープンした店)に行った時のこと。僕と妻が座ったそばの、別のテーブルに塩包み焼きが出てきた。「あれが塩包み焼きか?」と思いましたよ。衝撃的だった。食べてみたかったけれど、すでにデグスタシオンをオーダーしていた。もう一度来店する時間もなかった。その時見ただけだから、作り方がわかるはずもない。それでも「よし、やってみよう!」と思ったんですよ。まだ30代だったし、パワーがあったから。ぶっつけ本番。

 人に聞いたり、本も読んで調べたから、作り方のイメージはつかめた。けれど、まったく思い通りにならなかった。塩がどれくらいの熱を持つかなんて、見当もつかないから、失敗の連続。あれは赤坂の「パンタグリュエル」にいた時代だった。新しい料理でお客さまを新規開拓しなければいけないし、試作を重ねている時間もないし気持にもならない。下の人間にもホールの人間にもなめられるし、それはもう歯を食いしばってやりました。負けん気の強さだけで、ここまでやってきたようなもの。旨く作れないと、自分で自分が嫌になった。しばらく止めたこともありました。お客様にも相当な迷惑を掛けたと思うけれど、諦めきれずにまた挑戦する。その繰り返し。

 今でも完成したなどと思っていない。ずっと勉強です。ただ、ひとつわかったことは、やり方ひとつですべてが変わってしまうということ。ということはつまり、僕が悪い。原因は料理人にあるわけです。レシピ通りにやってもダメ、その日の厨房の温度によっても毎回仕上がりが違うから。自分にちょっとでも隙があると、パーッと火が入ってしまう。この料理は本当に難しい。先輩から聞いた話だけれど、ロブションですら塩包み焼きを作るときは、厨房の空気がビリビリするらしい。そんなことも知らずに試したんです。 

 僕はコンベクションオーブンは使わない。というより置く場所がない。あれに使われるようなコックになったらダメだと思う。盛り付けにも時間をかけない。料理はシンプルがいいし、出来立てをすぐ食べてもらいたい。

 うまく調理できた時は皿にのせただけできれい。料理人のレベルが向上するのは歓迎すべきことだから、レシピも公表しています。この料理に取り組んだことで大変な思いもしたけど、その大変さが勉強になった。未知なる料理には心が躍った。やっぱりプロの料理人だから、家庭や他の人には作れないような、料理が作れるコックになりたい。うちの店の若い人にも、いつも言っている。

心躍る未知の世界に挑戦した不屈のひと皿

「どう料理したらいいかは、材料が教えてくれる。だから材料に愛情を掛けろ、って。死ぬほどの愛情が掛けられないなら、死ね」とね。

 時代と共に生まれる料理もあれば、消えていく料理もある。そんな中で、僕は歴史に残ってきたフランス料理が好きだし、これからもそういう料理を作っていきたいと思う。人生はチャレンジの連続。フランスにいた時は自分さえよければというところもあり、フランスの方々にはたくさん迷惑もかけた。それでも温かく包んでくれたフランスに感謝しています。

北島素幸
Motoyuki Kitajima

1951年生まれ、福岡県出身。18歳で料理人を志す。株式会社ロイヤル、六本木「レジャンス」を経て、1977年より渡仏。「トロワグロ」を始め、「ジョルジュ・ブラン」「アルケストラート」「ラ・マレ」等で5年間修業を重ねたのち、1982年に帰国。1984年に「ドゥ・ロアンヌ」のシェフに就任。1987年より「パンタグリュエル」のシェフを務め、1990年独立。同年9月に四谷「北島亭」をオープン。皿の上にフランスを表現することに心血を注ぐ。肉焼きの優れた技術は広く知られるところ。

【レシピ】仔羊の塩包み焼き

30年以上付き合いのある肉屋から仕入れる、オーストラリア産仔羊を使用。「火入れがすべて」と、北島氏。フィレは塩こしょうをし、網脂でくるんでからパータ・セルで包んで火入れ。かぶりはサラマンダーで焼き上げる。ジョ・ダニョーにアンチョビやにんにくなどを加えたソースを添えて。

材料(2人分)

仔羊のフィレ…300g /網脂、塩、コショウ、ラード、シブレット、クレソン…各適量
● パータ・セル(塩生地4台分)
粗塩、薄力粉、強力粉…各450g/ドライセージ…15g /ドライタイム…15g /卵白…630g
● ソース
仔羊の背肉の脂…80g /ジュ・ダニョー…100cc /黒オリーブ…5個/アンチョビフィレ…1本/ニンニク…4片/タイム…各少量/塩、コショウ…各適量
● ポム・リオネーズ
ジャガイモ…1個/タマネギ…10g/ベーコン…5g/ニンニク…1/2片
● 仔羊の香草パン粉焼き
フィレ肉を取り除いた骨と脂の部分、デジョンマスタード、香草パン粉、塩、コショウ…適量
● 付け合わせ
エシャロット…1個

作り方

  1. パータ・セルを作る。材料をすべて混ぜ合わせ、しっかりと練ったらまとめてビニールで包み、冷蔵庫でひと晩寝かせる。
  2. 翌日、1を4等分して、それぞれ厚さ5㎜に伸ばし、ビニールで包んで再度冷蔵する。
  3. 仔羊の背肉の骨をはずし、フィレだけにする。スジと脂は多少つけたままにする。
  4. フィレ肉の全面に塩、コショウをふる。
  5. 網脂を広げフィレ肉をのせて一重に包む。
  6. 2で冷蔵しておいた生地を5にのせ、ピッタリと包む。余分な生地を切り落とし、生地をフィレに密着させて形を整える。両サイドもピッタリととじること。
  7. 6の全面にラードを塗り、ブラックか高温のオーブンに入れ、全体にこげた焼き色がついたら、裏返す。
  8. 全面が焼けたら取り出し、ボウルなどをかぶせて温かい場所で休ませる。
  9. 仔羊の香草パン粉焼き。仔羊フィレ肉を取り除いた骨と脂の部分に塩、コショウをして少し脂をまとわせ、フライパンにのせてサラマンドルできつね色になるまで脂の面を焼く。
  10. 焼き色が付いたら、ひっくり返して骨の部分も同様に焼き、ボウルをかぶせて蒸し焼きにする。竹ぐしがスッと入るまで柔らかくなったら取りだし、脂の面にディジョンマスタードを塗り、香草パン粉をつける。
  11. サラマンドルでパン粉に色よく焼き色がつくまで焼く。
  12. 付け合わせ。半分に切ったエシャロットを、サラマンドルでゆっくり焼く。エシャロットがとろっと柔らかくなったら取りだす。
  13. ソースを作る。3で切り落とした背肉の脂を1㎝角に刻んだら、塩、コショウをまぶし、強火にかけて脂を外に出すように加熱する。
  14. 脂がたくさん出たら、一度ざるに上げて脂をきる。フライパンに戻してきつね色になるまで加熱し、もう一度脂をきる。ジュ・ダニョーを加え、あくを取りながら煮詰める。
  15. 14の水気を漉して鍋に移し、フライパンを水でデグラッセし、そのだしも鍋に入れる。
  16. 15を沸かしてあくと脂を引き、黒オリーブ、アンチョビ、ニンニクを加えて煮詰め、塩、コショウ、タイムを加える。
  17. 11と16をあわせておく。
  18. 7の中心部を生地の上から触り、火の入り具合を確認する。ぶよんと柔らかければ中はまだ生。もう一度両面を焼き、再度休ませる。
  19. ポム・リオネーズを作る。スライスしたジャガイモを少量の油で両面やさしく火入れ。
  20. 細切りにしたタマネギとベーコンを軽く炒め、19とあわせて火を入れ、最後に、塩とみじん切りにしたニンニクで味を調える。
  21. 20の塩包み焼きにはさみを入れ、生地と網脂をはずし、フィレをフライパンに入れて表面だけさっと焼いて温める。
  22. 19を皿に盛り、2皿分に切り分けたフィレをおき、粗塩をふってシブレットを散らし、クレソンを飾る。最後にポム・リオネーズと仔羊の香草パン粉焼きを添える。

北島亭
東京都新宿区三栄町7 JHCビル1F
03-3355-6667
● 11:30~13:30LO、18:00~19:30LO
● 水、第1・3火休


長嶺輝明=写真  粂 真美子=文

本記事は雑誌料理王国第220号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第220号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする