【トップシェフ☓旬の食材】ナベノ‐イズム流!ホワイトアスパラガスの使い方


日本とフランスが鮮やかに融合
春の訪れを五感で喜ぶ贅沢

料理人のクリエイションを刺激する「旬の食材」にフォーカスし、トップシェフが紡ぎ出す「今しか出合えない料理」を紹介。連載第一回目となる今回は、「ナベノ-イズム」渡辺雄一郎シェフが「ホワイトアスパラガス」を使ったひと皿を披露する。

【旬の食材】ホワイトアスパラガス

地中海東部が原産。グリーンアスパラガスと同じ品種に土をかぶせ光を遮断して栽培したもの。ヨーロッパでは春になると「ホワイトアスパラガス前線」が注目を集め、スペインからドイツへと北上しながら4月~ 6月の間に収穫される。国内では北海道、長野、佐賀など広く栽培され、年明けから夏時期まで出荷される。

テーマは「春」。フランスと日本、それぞれの春を象徴する食材と食文化が幾重にも行き交い、鮮やかに融合していくひと皿だ。

フランス・ロワール産のホワイトアスパラガスは、心地よい下味となる塩分濃度1%でポシェ(茹でる)。表面に澄ましバターを塗りコクをプラスし、固茹で卵で味に厚みを出したマヨネーズとオレンジのエッセンスを飾る。フランス人なら誰でもホワイトアスパラガスから連想するマルテーズソースやオランデーズソースへのオマージュを込める。

ガルニチュールには日本の春から山菜を。ホワイトアスパラガスと似た江戸東京野菜の東京うどを潜ませ、ラメル(薄切り)とロンデル(輪切り)の異なる切り方でなめらかな歯触りと歯ごたえある食感を寄り添わせた。また、両国に共通する春の食材から貝をマリネで合わせる。フランスの名物料理「プラトー・ド・フリュイ・ド・メール(海の幸の盛り合わせ)」をモチーフに、ブール・サレ(塩バター)とライ麦パンのムースを添えた。「季節や風土に対してごく自然で、最もおいしい食べ方が〝食文化〞となり、今に伝わっていると思うんですよ。そのストーリーも表現したい」料理を考案する際、皿を構成する要素の相関図を頭の中で描き出す。そこに一方通行の要素はひとつも存在しない。どの要素も複数の要素と相思相愛の関係を成立させる。お客さまがどのように食べても調和するだけでなく、食べ進むごとに味、香り、テクスチャーが立体的に重なり、新たな発見を生み出す。圧倒的な総合力で魅了する一方で、「料理は何を食べたかが記憶に残らなければ意味がない」とし、主役を際立たせる演出も忘れない。

今回、ホワイトアスパラガスを主役へと引き立てる影の立役者が〝温度〞だ。皿上でホワイトアスパラガスだけに温度を持たせることで、春の女王という別名にふさわしい唯一無二の存在感が増し、鮮烈な印象を残すことにも成功した。

ロワール産ホワイトアスパラガスのアラミニュットポッシェ、
ウフマヨのフォンダンとオランジュサフラネのパンチュール
フランスと日本の春の出会い

春の喜びに満ちた皿の中央には、オレンジ果汁を煮詰めてサフランで風味付けた、フランス定番のコンビネーションで鮮やかなラインを。ムール貝はマリニエール、赤貝は中華の技法、ホタテ貝は低温調理で仕上げ、ほろ苦いふきのとうのソースを添える。


フランスでもホワイトアスパラガスは国内各地で生産されるが、ナベノ-イズムでは細かい産地を特定せず、ランド産やボルドー産を含め、その時期に最も状態の良いものを仕入れる。最も重視するのはサイズ感。贅沢感、満足感、インパクトを与えたいため、1本80~100グラム程度の太さを厳選する。

ホワイトアスパラガスの扱い方 3つのポイント

1.稀に砂が残ることのあるガク(はかま)は、一つずつ丁寧に削ぐ。

2.なめらかな食感の妨げとなる皮は、大胆にしっかりと厚めにむく。

3.1%の塩水で根元から湯がく。皮も一緒に入れ、風味を逃さない。

Nabeno-Ism
渡辺 雄一郎シェフ
1967年、千葉県生まれ。大阪あべの辻調理師専門学校を卒業後、同フランス校に進学。東京・赤坂「ル・マエストロ・ポール・ボキューズ・トーキョー」、フランス・リヨン「ラ・テラス」などで研鑽を積む。シャトーレストラン「ジョエル・ロブション」のエグゼグティブ・シェフを経て、2016年7月に浅草「ナベノ -イズム」のエグゼグティブ・シェフCEOに就任。

text 君島有紀 photo 依田佳子

本記事は雑誌料理王国2021年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2021年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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